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鶏肋断想

2010-06-17

日本語訳の上手な予備校の英語講師

03:30

○日本語訳の上手な予備校の英語講師

 以前、ブログ伊藤和夫氏のことを書きました。その後、ご意見などもあったので、加筆して再掲いたします。

英語力と日本語力との対応で考えたとき、日本語訳の英語の講師として、受験の業界ですぐに私の頭に浮かぶのは、駿台予備学校の講師であった伊藤和夫氏と、代々木ゼミナール講師であった潮田五郎氏です。この二人の日本語訳は、たいへん洒落ていました。潮田五郎氏の日本語訳は洒落ていましたが、著作が少ないのが残念です。伊藤和夫氏は、特に晩年、癌で死期を悟ってからは、猛烈な勢いで執筆しました。伊藤和夫氏の経歴などについては、拙著『日本語の味覚』(武田出版)に詳しく書きましたので、そこでは触れなったことを書きます。

私の日本語力に大きな影響を与えたのは、伊藤和夫氏でした。伊藤和夫氏の『英文解釈教室』(研究社)の英語の例文をノートに書き、さらに日本語訳を書き写しながら、約一年半かけて読了しました。日本語訳の美しさに、すっかり魅了されてしまい、すっかり伊藤和夫氏の著作を、手に入る限り手に入れて、次々に読破していきました。気づいたら、日本語の力と英語の力の基本が出来上がっていました。今、私は論文を書くときには、伊藤和夫氏の日本語のような言い回しが、ふと出てきます。伊藤和夫氏の『英文解釈教室』のほかに、『基本英文七〇〇選』(駿台叢書)の例文をすべて暗記したら、英作文に強くなりました。その後、日本語学を専攻にしてからは、言語学的なものは、英語の文献を読むことになりましたが、ほとんど不自由しませんでした。また、大学院受験のときにも、英語で苦労することはありませんでした。その意味で、伊藤和夫氏の著作は私にとっての恩書です。大学受験が終わってからも、伊藤和夫氏の著作を読みつづけ、大学四年のときにようやく、伊藤和夫氏の全著作を読み終えました。その読了した年に、伊藤和夫氏が死去しました。

その後は、伊藤和夫氏が講義のときに話した参考文献や伊藤和夫氏の考え方に影響を与えた西洋哲学伊藤和夫氏の専門はスピノザでした)や、ドイツ語フランス語ラテン語ギリシア語の語学などの初歩を勉強しました。実際、その中では、江川泰一郎『英文法解説』(金子書房)が役にたちました。

もし、時間があれば伊藤和夫氏の世界をたどってみたいという気持ちは今でもあります。大学時代に読んで印象に残っているのは、『論語』『孟子』『古事記』『万葉集』『源氏物語』『日本永代蔵』、そして伊藤和夫氏の著作です。一般に、伊藤和夫氏の構文的な英語のとらえ方が絶賛されていますが、私の見方は少し違います。伊藤和夫氏の英語力を支えていたのは、実は日本語力ではないかと思うのです。結局は、現代語訳の技術があれば、あとは日本語力の勝負になります。その意味で、伊藤和夫氏は日本語力を英語に運用し、実践した講師だといってもよいでしょう。

この文章を書いた後、予備校の同僚の英語の講師の方から、代々木ゼミナール講師であった潮田五郎氏と駿台予備校講師であった奥井潔氏の口語訳が上手だというご意見がありました。二人とも故人ですが、あまり著作を多く残さなかったのが残念です。潮田五郎氏は、東京外国語大学出身の方で長年灯台英語のクラスを担当してきた方で、その頭脳の切れ味には定評がありました。また、奥井潔氏は東京大学の英文科の卒業で東洋大学教授の傍ら、予備校講師をしていました。「教養の奥井潔、構文の伊藤和夫」という形ですみわけができていました。大学講師と予備校講師をしており、『山口英文法講義の実況中継』(語学春秋社)で知られている山口俊治氏が、伊藤和夫氏と宿泊して語り明かしたのち、英語教授法のヒントを得たことをエッセイで書いていました。

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