『きけわだつみのこえ』の松原成信が遺した『憧憬精神』

大阪古書会館にて200円で拾った松原成信編『憧憬精神ーー彼の亡霊がさ迷ひ帰らざらんがためにーー』(磯田克爾、昭和18年12月)。非売品、285頁、カバー付きの単行本。同志社大学図書館が所蔵。目次は、

創刊の言葉 松原成信

痴歌 水谷星之介

新約 島林武

ふるさと 増永篤彦

うつくしきこどくのうた 星村蒼平

屋根の下 清水ゆき

風車 上永嘉子、宗方凉子、萃丘なゝ代、谷圭里、石田敏子、中井良孝

風景 中岡妙子

短歌 池永峰月、水野英、安達康子

二つの世界 池長峰

哲聖論 島林武

愛する人たちに 松原成信

門火 磯田克爾

跋 松原成信

松原の文章によると、本書は回覧誌『憧憬』掲載の作品をまとめたもののようだ。松原について調べてみると、『きけわだつみのこえ』に日記や書簡が収録された戦没学生であった。昭和24年東大協同組合出版部版掲載の略歴によると、

松原成信

大正11年1月11日滋賀県

同志社大学予科を経て昭和19年4月同経済学部進学

19年6月25日入営

20年8月1日北平の病舎で戦病死。陸軍兵長

松原は「跋」に「僕等は二十二歳。苛烈なる戦局に処して出陣の鐘がなる」と書いているが、本書は学徒出陣が迫るなか、同志社大学同級生達で回覧していた同人誌を本にしたものであろうか。それにしても、戦時中によくこんな立派な本を自費出版できたなと思っていたら、松原の父親衆議院議員だった。『昭和人名辞典』3巻(『第十四版大衆人事録』(帝国秘密探偵社、昭和18年9月))によると、

松原五百蔵 衆議院議員(滋賀県選出)県農会長 蒲生郡金田村

[閲歴]明治12年10月10日生、県庁に入り県農会副会長を経て同会長に就任。昭和17年4月代議士に当選

[家庭]妻千代子(明17)(略)三男成信(大11)膳所中卒

なお、記載は省略したが、五百蔵の大津宅と松原の奥付の住所は一致している。

保阪正康『『きけわだつみのこえ』の戦後史』(文藝春秋平成11年11月)で保阪氏は松原の友人「星之介」宛手紙について、女性への手紙を「星之介」としているのかもしれないと推測しているが、本書の目次にあるように、「星之介」は同人仲間の水谷星之介と思われる。以上、200円で色々楽しめた本だったが、奥付を見ていて気が付いたのは、通常この時期の本にある日本出版文化協会(昭和18年3月からは日本出版会)の承認番号がないこと。自費出版だから承認は要らないのだろうが、戦時中の出版物は全て統制されていたと思い勝ちで、そうではないと認識をあらたにした。

きけ わだつみのこえ―日本戦没学生の手記 (岩波文庫)

きけ わだつみのこえ―日本戦没学生の手記 (岩波文庫)

『きけわだつみのこえ』の戦後史

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