ねむの木こども美術館(宮城まり子)

k-hisatune2008-05-02

吉行淳之介文学館から新緑を見ながらそして深い渓谷の水音を聞きながら少し道を登っていくと、NHKテレビの番組で見た記憶のある独特の建物が現れた。宮城まり子(女優)が心血を注いだ「ねむの木こども美術館」である。ユニークな建築で知られる藤森照信さんの設計。白い横長の建物だが、土地自他に傾斜があり、入り口のある部分は2階建てで、多くの作品を展示している部分は1階建てだ。その2階建ての屋根はキノコの形をしており茶色の帽子をかぶっているようでユーモラスだ。
2階にはエレベータで上がる。「私ほどこの仕事に不適当なものはありません。けれど、なんとか私がやりとおしてこれたのは愛です」とまり子が出した手紙の一節が掲示してある。恋人の吉行淳之介文学館でも感じたことだが、エニアグラムの性格タイプ2であることは間違いない。このタイプは人を助けることで自己の存在を確認できるから、献身や愛に生きる人が多くなる。
最初の真白なまばゆい空間は教会を連想させる。宮城まり子自身のガラス素材の作品がある。「モナコの海」「きづついた夜」「海辺の街」「春」「日本海の夕日」「こどもの情景」、、、。ここには、ほんめとしみつ君とほんめつとむ君の兄弟の絵が並んでいる。「おかあさん」の絵は、赤と黒のみで描いた顔で、これは宮城まり子がモデルだろう。
メインの大きな空間には子どもたちの絵がたくさん展示されている。やましたゆみこさんの作品はとても好きになった。「お花畑のこどもたち」「飛行機雲」「つしんぼとり」「秋の木の黄」「れんげ草とあたしとおかあさん」「春が来ました お花もつくしんぼもおはよう」「ねむの木国ねむの木県ねむの木村ねむの木」、、。大きなキャンバスに細かくデザインされた絵は長い時間の存在と豊かな表現力を感じさせる。むらまつきよみさんの作品もいい。木の香りがいい素敵な美術館である。
出口近くの空間に2007年4月15日朝4時と日付と時間の入った宮城まり子の言葉がある。美術館の開館の日の朝の言葉である。
「わたしたちは、造形の神のたまわれた試練を恩恵とうけとり、あらゆる困難にたえ楽しく強くそしてたよることなく、やさしく感謝しものごとに対処し根気よく自分の造形に挑戦した 心おどるでしょう これがわたしたちのやったこと まり子」。
「ねえ、貴方 わたし、よくまあつづいていると思います。子どもたちの才能は無限なのですね まり子」。
この美術館の白い外壁の下の方には、子どもたちが描いた木や花の絵が描かれていてとてもいい。
出口から広い庭に出て歩くと、鳥の声が間断なく聞こえてくる。「ホーホケキョー」とウグイスは長く長く鳴き続けていておかしくなるほどだった。

美術館を後にして道を下ると社会福祉法人ねむの木学園に着く。ねむの木学園は肢体不自由児を対象とした施設で宮城まり子が1968年以来現在まで40年以上にわたって運営してきた肢体不自由児療護施設である。山あいにある広い敷地の中に薄赤の屋根をかぶったかわいい建物がいくつか並んでいる。白い小手鞠(こでまり)の花がきれいだ。学園にいく朱塗りの橋の名前もこでまり橋だった。学園の外を歩きながら中をのぞくと。子どもたちがダンスをしている姿が垣間見えた。ねむの木は白い花の先がピンクに染まっている可憐な花。この学園には1時間に1本のバス便がある。
「愛の風景」というねむの木学園を題材にした写真集をみると、子どもたちに絵を教えたり、ミュージカルを一緒に踊ったり、合唱したり、ポピーの中をみんなで歩いたりする、まり子の姿がある。一生懸命に頑張っているが、80歳を迎え老いたまり子にこの学園の経営という重荷がかかっていると思うとかわいそうな気もする。