七福神めぐり

すみだ郷土文化資料館の企画展 ≪隅田川七福神向島の名所≫ を見てきました.「江戸時代の向島は広大な田畑が広がる田園地帯」で「由緒のある寺社が建ち並び、たくさんの人々が参拝」する地だったそうです.そうした習俗はあったにせよ,佐原菊塢が百花園をつくったあとに,宣伝をかねて七福神巡りというイベントを創始したらしいんですね.それが引き続いているのは,やはりおめでたいというほかありません.この企画展はタイトルのとおり,向島かいわいを描く錦絵や七福神の人形やらがいろいろあって,おもしろく拝見しました.

100年前の不思議な交流

Bunkamura Box Gallery で ≪「坂東俘虜収容所」の世界展≫ を見ました.坂東俘虜収容所のことは中野京子氏の『橋をめぐる物語』(河出書房新社,2014年)で知ったのですが,その実情をいろいろな資料で展示する(らしい)というので,いってみました.「一〇〇年前の収容所に花開いたドイツ文化と日独交流の歴史」という副題のとおり,「ドイツ文化」が収容所において繰りひろげられた,というのがなんとも素晴らしいことです.音楽会や演劇活動あり,サッカーやテニスなどのスポーツもあり,新聞を発行したりもしています.音楽会開催のときにはプログラムもつくっているんですね.それもカラフルな多色刷りで,現代のコンサートでのプログラムだといっても通用しそうな出来になっています.写真もあります.ドイツ人捕虜たちがカメラや楽器を所持していた,というのも(今のわたくしなんかには)ちょっとかんがえにくいところがあるのですけど,それが当時の実態だったのでしょう.こういう時代・事態があったのだ,ということはながく伝えていくべきだと,おもいます.ひとりでも多くの方がこの展示に接してくださるよう,ここに記しておきます(1月20日まで開催.入場無料です).

今年はじめて買った本

黒鉄ヒロシ『天変地異』という本を買いました.PHP研究所が昨年11月初旬に刊行したらしいのですが,本屋の(マンガではなく)日本史のコーナーに置かれていたので,気づかずにいて,たまたま目にしたので買い求めましたけど,なんといったらいいんでしょうか,評価しにくい作品です.はじめに,地球をつくった神様(?)が出てきて地球発生のことを語り,その後,卑弥呼や富士山や天正の大地震のことやら,さまざまなエピソードが描かれます.巻末の参考文献が示すとおり,史実にそくして記述されているようですが,いわゆる学習マンガではなく,著者のイマジネーションにもとづく奔放で多彩な表現がおもしろく,出色な作になっているといっていいかと,おもいます.

新年の抱負

初春にあたって,ことしの抱負(というほどのものではありませんが)を書いておきます.まずは,ブログをマメに更新すること.言訳めいたことは書かぬこと.読んだり見たりしたものについての感想をすぐに書き記しておくこと.
ほかにも自戒すべき点は多々あるでしょうが,さて,どこまでできるやら.

ことし印象にのこったもの

美術では2月に Bunkamura ザ・ミュージアムで見た ≪ルドルフ2世の驚異の世界展≫ を挙げます.よくまあ集めたものだ,という感想には変わりがありません.とにかく圧倒されました.
マンガでは,吉田秋生海街diary 9 行ってくる』(小学館,2018年12月).この 9巻で完結です.ブログには書かなかったのですが,それは,まとまりをつけるための説明的な描写がおおいように感じたためなのですが,あらためて読んでみると,「行ってくる」という標題のとおり,さまざまな人生への旅立ちというモチーフが通底していたことに気づき,やはり感動しました.番外編の「通り雨のあとに」は,まるでちがう短編といってもいいくらい異なる視点からの作品で,こういう作り方もあるのかと,おどろきました.成長したすずの顔を画面内に描いていないのがいいです.

へんな絵

中野京子早川いくを『怖いへんないきものの絵』(幻冬舎,2018年12月)読了.早川いくをという方は名前すら知らなかったんですが,巻末の著者紹介によれば,多摩美術大学を卒業後,広告会社や出版社に勤めたのちに独立して文筆業となったとか.生物学を独習されたのでしょうか,そうした面への興味から,美術作品に描かれている(ヘンな)いきものに注目し,「中野京子先生に、絵画に出てくる奇妙な生き物について色々聞く」という(冗談はんぶんの)アイデアをある編集者に話したところ,それが実現してしまったのが,この本だとのこと.たしかに,おかしな生き物が色々と出てきます.生物の実態からすればありえないような描き方がなされていたりもしますが,でも結構おもしろく見ることができます.中野氏も,美術作品に描かれる生き物についての約束事とか傾向について懇切に解説されています.

美術ファンへおすすめ

高階秀爾『 ≪受胎告知≫ 絵画でみるマリア信仰』(PHP新書PHP研究所,二〇一八年十一月)を読みました.「キリスト教と西洋美術の関係」などという(序章の)章題はいかにもむずかしそうですけど,西洋の文化に「受胎告知」がふかく入り込んでいることを示し,以下,具体的な作品を鑑賞しつつ西洋美術とキリスト教および西洋文化の問題をあつかうと述べておられます.まずは「受胎告知」とはどういうことであるのかを書いていますが,聖書に詳しい記述があるわけではないらしいんですね.しかし,だからこそ,多くの画家たちの想像力を刺激して,さまざまな「受胎告知図」が描かれることになった,とされています.具体的にどんな場所で,大天使ガブリエルとマリアはどんな位置関係にあって告知がおこなわれたのか,ふたりはどんな姿勢をとっていたのか,など絵に描くうえではいろいろな問題が出てきます.それを多くの作品を提示しつつ,歴史的な順を追って解説されています.個々の作に見られる特色や画家の技法などを簡潔でわかりやすい文章で記しており,美術ファンの方々へのおすすめの一冊といえます.