浮世絵師を描くマンガ

岡田屋鉄蔵『ひらひら 国芳一門浮世譚』(太田出版,二〇一一年一二月)という本を書店の店頭で見かけて,買って読んでみました.国芳とその周辺を描いています.といっても,主役は伝八とよばれる男です.この人物の入水のシーンからはじまり,国芳一門の日常生活をおりこみつつ,元武士であった伝八の過去がすこしずつあきらかになっていきます.最終話で示される衝撃的な事実といい,そこにいたるまでの展開といい,ミステリーとしてもなかなかに読ませます.が,そうしたストーリーのほかに,火事やくじら見物などに熱中する,洒脱な江戸っ子としての国芳たちを描きだしているところが,いいですね.ひとびとの,他者(ことに秘密をかかえた人間)に対する感情や態度なんかも,乱暴なようでいて,あたたかいものがあります.ところで,国芳の弟子となって春画に才を発揮した(らしい)この伝八を作者は「後の歌川芳伝」としているんですが「芳伝」というのは実在の人物なのでしょうか.あるいは作者の創作でしょうか.わたくしの手元にある『別冊太陽 浮世絵師列伝』(平凡社,2006年 1月)の「主要浮世絵師系譜年表」(pp. 168-171)にあたったところでは,「芳伝」は見あたらないのですが・・・.