TK-80四方山話

k87p5612006-07-24

エントリを書くために資料(写真の本)を取り出して目を通していたら、いつの間にかのめりこみ、そのまま読み耽った挙句に寝落ちしてしまいました。
・・・というわけで、これから続き(というか本題)を書きます。 Just a moment.


月刊 ASCII (アスキー) 2006年 08月号 [雑誌]

月刊 ASCII (アスキー) 2006年 08月号 [雑誌]

さて月刊アスキー8月号のp.26、伝説の名機TK-80が"いの一番"に掲載されています。
実のところ、TK-80以前にも商品化されていたワンボードマイコンがあるのですが、それらは入出力装置としてテレタイプ社のASR model33が必要だったりして、単体では稼動しない代物だったそうで。 だからこそ、16進キーボードと7セグメントLEDを備えたTK-80は、多くのマニアから歓迎され、歴史に残るマシンとなったのでしょう。
実を言えば私、TK-80のユーザーではありません。 実機には、高校時代の友人宅で一度触れただけ。 後は大学の部室で、壊れてオブジェと成り果てたものを見かけたくらい。 そんな私でもそこそこ事情に明るいのは、写真にある2冊の名著のおかげなのです。 これについては後述するとして、まずは思い出話から始めましょうか。


私が初めてTK-80の実物を見たのは、ある地方都市の電気店でのこと。 電子部品を購入する友人に付き合って出かけた先の店頭で、ひときわ目立つところにディスプレイされていました。 それを見てもあまり驚かなかった記憶がありますから、既にテレビか本で情報を仕入れていたのかも知れません。
その時からずっと欲しくて堪らなかったのですが、何せ中学生にとっては高嶺の花。 我慢するしかありませんでした。


月日は流れ、高校に入学してからBASICをマスターし、さらにZ80アセンブラもマスターした頃、同じ趣味を持つ友人が手持ちのMZ-80Kと引き換えに、TK-80を入手したのです。 早速友人宅にお邪魔して、実機を触らせてもらいました。
まず手始めに、マニュアルに載っているサンプルプログラムを打ち込んでみます。 1から1000までの総和を求めるプログラムですが、あっという間に計算が済んでしまうことに感動を覚えました。(BASICだと驚かないのにね)
次に「マイコン入門」p.142に載っていた「ディジタルタイマ」を実行。 自分の理解の正しさが証明されて、またまた感動。
友人のTK-80は1KBフル実装だったのでp.148の「電卓プログラム」も試したかったのですが、これは打ち込みに時間が掛かるため断念。 しかしこの時の興奮は、今でも鮮明に記憶しています。


さてTK-80というか、この時代のコンピュータ事情を語る際に外せない書籍があります。
まず、安田寿明氏の「マイコン三部作」のうち、もっとも最初に刊行された本。(写真左側)

マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる

マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる

ブルーバックスから刊行されていることもあってか、マイ・コンピュータの過去・現在・未来を俯瞰する教養本、という感じの内容です。
私の手持ちのものの奥付には『昭和52年(1977年)3月28日 第1刷発行 昭和52年5月6日 第4刷発行』とありますから、TK-80の発売から1年も経っていませんが、相当のページを割いてTK-80の解説をしています。
TK-80は、元々は企業の開発担当者のためのトレーニングキットとして企画されたこと。 そのため現場レベル(課長クラス)での決済がし易いように、価格を10万円未満に抑えたこと。 8080が必要とする3系統の電源のうち、-5Vについては水晶発振子の出力を微分検波して得ているため、外部電源は2系統で済むこと、などなど。
今となっては内容が古くなり資料的価値しか残っていませんが、それでもこの時代*1に、「まえがき」で下記のような展望が示されていることは特筆に値します。

(前略)
・・・いまのポケット電卓のように、やがて超高性能のコンピュータが、ふつうの家庭にまで行きわたるようになる。そればかりではない。電気冷蔵庫、ミシン、テレビジョン受像機にもコンピュータが組みこまれる。自動車もコンピュータで動かされるようになり、工場の機械やオフィスのタイプライターとか複写機まで、すべてコンピュータ化されるのだ。しかも、その方が、値段も安くなる。
(後略)

正確な技術認識がもたらした、まさに「先見の明」という他ありません。


もう一冊は、TK-80の生みの親とも言うべき大内淳義氏(故人)の著書。(写真右側)

マイコン入門 (1977年) (Kosaido books)

マイコン入門 (1977年) (Kosaido books)

何回か復刻されているようですが、私の所蔵本の奥付は『昭和52年(1977年)7月30日 初版 昭和52年9月15日 7刷』となっています。
こちらも一般教養的な部分がありますが、真骨頂はやはりTK-80の組み立てと活用に触れた部分。
著者の大内氏は当時、NEC常務取締役にして、NECマイクロコンピューターズ・インコーポレーテッド(米国)取締役会長。
そんな大企業の重役が書いたにしては、驚くほど砕けた表現で親しみやすい文体。 内容も分かり易いのですが、決して手を抜いたりはしていません。
プログラムは命令の集まり、命令はマシンサイクルの集まり、マシンサイクルはステートの集まり・・・そしてステートはクロックによる状態変化の最小単位であること。 減算は補数による加算として扱われること。 ROM, RAMの違いとその種類。 フローチャートの本質と記述のしかた。 8080インストラクションセット・・・。 こうした基礎的なことを、私はこの本から教わりました。 私が今日あるは、この本によるところが大であると言っても過言ではありません。
また氏の技術力と情熱があったからこそ、NECはその後永らく国内PCシェアNo.1の座を維持できたのだろうと思います。
氏の冥福を祈って、合掌。


最後に、ネットで参考になりそうな情報を集めて見ました。 ちょっとコメント付けたりしてます。

*1:1977年・・・今からほぼ30年前ですよ!