秒速5センチメートル

渋谷RISE Xでの上映が今日までだというので、何とか時間を作って観に行って来た。
新海作品らしい、リアリスティックな絵作りに息を呑む。 特に夜明けや夕暮れの空の描写が素晴らしい。


本作品は、3話の短編からなる連作。
第1話「桜花抄」は、転校がきっかけで知り合った少年と少女が、やはり転校によって引き裂かれる物語。
栃木へ転校していった少女と文通していた少年だったが、今度は彼が東京から鹿児島へ転校することになってしまう。 それを機に少女と再会しようとする少年。 列車を乗り継いで少女の元へ向かうのだが、折悪しく降り始めた雪でダイヤは大幅に乱れ、約束の時間は遥かに過ぎていく・・・互いに伝えられない想いを抱えて苦悩する、少年と少女の姿が胸を打つ。
携帯電話が普及した今日では成立しにくいストーリーだが、それまでこういうシチュエーションは日常にありふれていた気がする。 もっとも、気が利く人は駅構内アナウンスを利用していたのだろうが。
少年の住む豪徳寺は「しだれ桜」で有名。 少年が向かった岩舟駅はJR両毛線に実在するが、今では無人駅になっている。

第2話「コスモナウト」は、鹿児島に転校してきた少年に想いを寄せる、もう一人の少女の物語。
ここでもやはり、少年と少女はそれぞれの想いを相手に伝えられず苦悩している。 二人にとって何とも残酷な展開。
NASDAのロケットが要となるシーンで効果的に使われているが、これは「漆黒の空間をあてもなく進む」少年の心境を象徴したもの。 だがラッセンを思わせる幻想的なシーンは、ちょっと解釈に困る。

海の日―Lassen island

海の日―Lassen island

第2話には「ほしのこえ」の要素が入っている感じだが、そう言えば「ほしのこえ」も物理的な距離が男女の仲を引き裂く物語だったから、この作品全体に通底する部分がある。 少年が「届かない携帯メール」を書き続けるところも何だか似ているし。


表題となった第3話「秒速5センチメートル」は、1話・2話とはうってかわって暗示的。
どうしてそうなってしまったのかについて、大体の事情を察することはできるが、明確な説明はない。 これは解釈に幅を持たせる配慮だと受け取ったが、実際のところはどうか分からない。
ラストは主題曲のプロモーションビデオといった趣き。
全3話でひとつの物語だが、第1話はストーリーが完結しており、それ自体でひとつの作品として成立する完成度になっていると思う。


いろんなレビューを読むと概ね好意的なのだが、一部に強いアンチ意見が見受けられる。

アニメに否定的な人ばかりなのかと思ったが、どうもそうではないようだ。
まぁ、どんなものにも反対意見はあるものだから別に不思議はないのだが、私はそういう人たちから、

  • この作品の何処が悪い、或いは気に入らないのか?
  • 逆に、評価している作品は何か?

といったことを聞いてみたい。
ただ、アンチな人たちの間でも「ほとんど一人で作った綺麗な映像」は評価されているのは何よりだ。


レビューのなかに「私にとっては最高ですが人を選びます」というものがあったが、具体的にどの部分を指して「人を選ぶ」と言っているのか良く分からなかった。
これが「ほしのこえ」のことなら納得はできる。 確かに「少女がロボットに搭乗して戦う」という設定に違和感を覚える人は多いだろうから。
今、下記URLでは期間限定(2007年6月18日〜2007年7月17日)で、山崎まさよし氏のビデオクリップを無料配信中だ。

画像は全て「秒速5センチメートル」からのもので、一部には本編にないシーンもある。
これを観て興味が湧いた人は、本作品を観て損はないと思う。
RISE Xでの上映は終わってしまったが、まだ上映しているところもあるし、来月にはDVDも発売されることになっている。

通常版もあるが、私は行きつけのショップで初回限定版を購入するつもり。
公式サイトの関連ショップだと、新海監督のサイン入りポストカードが付いてくるらしい。


P.S.
TB飛ばしたのに、エントリで言及どころかリンクも明記してなかったので追記。