第4話 機械の魔法、機械の天使 (27) [△ ▽]

『もう少し右、右!』
 神社の中央で、盆踊り用の櫓をセラフが傾ける。
『どうします、移動します?』
「いえ、そのままでいてください」
 ガナーシートの姫山巡査が答える。「マクロモード」の視界には、全体を覆うCGだけではなく、実像映像やそのアップ、衛星からの俯瞰映像や入力用ウィンドウが所狭しと表示されている。
「んー……」
 手を伸ばし、実像に指を重ねて角度を測り、それを元に入力パラメーターをセットしていく。距離と角度とその緩やかさを数値で入力し、シミュレーションでの動きを一瞬確認してから実行する。その間、僅か5秒。
 セラフの手が櫓を押す。
『オッケー、あ、ちょっと戻して』
「はい」
 数値を変更してから「巻き戻し」する。
『おし! 完璧だな』
『おみごとです』
「ありがと♪」
 満足げに笑みを浮かべる姫山巡査。足下で櫓を固定するために男達が集まってくる。
『あれ?』
「? どうしました?」
『いえ……父がいたような気がしたのですが』
「お父さん? そういえばここの出身でしたね」
『はい、あそこが僕の実家です』
 電子音、表示される「通常視界に切り替えますか?」という選択肢に「OK」で答え、普通にシートから見た視界に変わる。視界の左端、三角錐の下に小さな神社が見える。
「あの神社がですか」
『ええ。僕は継ぐ気なかったんで、神事とか難しいことは全然わからないんですが』
「私もそうですよ、うちの家は厳格で……ん?」
『どうしました?』
 三角錐の近くに見慣れないアイコンが表示されている。青い六角形がくるくるまわっている。
「あのアイコン、どんな意味だっけ……」
 普段全く見ることのないアイコンなのは確かだった。
『もういいぞ! あっちに移動してくれ!』
『あ、わかりました』
「はい」
 櫓から手を離し、林田巡査がセラフを後退させる。
 姫山巡査は、アイコンを調べようとはしなかった。
 確認しようとして誤射したら嫌だし。