第6話 祭の夜に (3) [△ ▽]

 待逢神社の境内は、広い。
 車道から伸びる長い長い石段を登り終えると、まず鳥居が待ち構えている。
 鳥居をくぐると広い庭がある。左手に破魔矢やお守りの売り場が、正面には大きな本殿がある。この広い敷地に、明日は金魚すくいの屋台や、「ネオ屋台」と呼ばれる移動販売車が所狭しと並ぶことになる。深夜1時、すでに白いトラックが止まり、設営が始まっている。
 本殿に隠れるように、向かって右手には待逢一家の家が立っている。2階建て一戸建て住宅。4人で住むには広いくらいの大きさ。その家の回りには倉庫代わりのプレハブや待逢一家の自家用車が止まっている。
 本殿や家の後方には、山。元々山を切り開いて建てられた神社のため、山との境界面は切り立った崖のようになっている。山にはうっそうと木が茂り、木々に飲み込まれるように続く細い階段の先には複雑な山道が続いている。昨日、林田が逃げ込んだのもこの山林だった。
 それとは別方向、山との境界面沿いに家の方へと進むと、家の裏手に幅の広い山道が表れる。木々の間を縫うように作られたその道は、いくらか砂利は敷かれているものの、完全には舗装されていない。脇にはロープが張られ、その奥は林になっている。
 普段は明かりのないその道に、人が立ち、明かりを持っている。そして、その道へとトラックが進入してくる。
 道の先、舗装されていない道をずっと進むと、舗装された車道に出る。その境界点にシーバリウとジャージが立ち、警告灯を振って車を誘導している。この道が、車が境内に入ることのできる唯一のルートだった。
「そういえば、紫恋さんはなんでこの道を使わないんでしょう、こちらなら自転車で通えると思うんですけど」
「それは無理なんじゃない? ここからうちの車庫までかなりあるよ。学校側ならともかく、反対側なんだし」
 車道沿いに進むと、まず装甲多脚の格納庫、次に待逢神社への石段の入口、そこを過ぎると旅館山田屋、そこからさらに坂を登れば学校にたどり着く。
「なにより、この道って結構段差多いから、自転車じゃきついんじゃないかな。紫恋ってめんどくさいの嫌そうだし」
「車なら問題ないんでしょうけどねぇ……」
「杖で飛ぶ魔法なんて憶えたら速攻で毎日利用しそうねー。そういえば、普通の人って魔法使えるの?」
「もちろん、僕だって普通の人間なんですから」
「あ、ごめん、そういう意味じゃなかったんだけど……」
「いえいいんです。魔法は誰にでも使えるもので、特に純粋魔法は勉強すれば可能だと思います。もっとも、現実的ではないかもしれませんが……」
「あれは猛勉強したって数十年でやっと飛べるくらいね……」
「借威魔法の方が簡単ですね、借威対象から許可さえしてもらえばいいわけですから。ただ、必ず何らかの制約があるものですので、それと引き替えにということになるでしょうけど」
「シーバリウもそういうのあるの?」
「僕は、王子ですから」
「あー……」
「だから、魔法を使うためには、僕は王子でなければならないんです」
「え」