ひとりで生きているのではない

がんを告知されたときのことを述べたいと思います。


腹膜透析の導入時に、尿管がんがあることがわかったのですが、そのときの主治医は、
わたしのベッドサイドにやってきて、「ちょっと話があるのですが」といいました。
いつも少し様子が違う不安な表情を浮かべていました。
「ここではダメなんですか」とわたしがいうと、「ちょっと〜」という感じでした。
医師の部屋に入ると、「検査の結果ですが、腹膜透析には問題はないのですが、
膀胱と尿管の接合部分に腫瘍の疑いがあります」といわれました。
がんとはいわれなかったですね。


腫瘍は2種類に分けられます。ひとつは悪性腫瘍、がんです。もうひとつ良性の腫瘍です。
良性の腫瘍ならそれほど大きな問題ではありません。がんと異なり、周囲の組織への侵入がないからです。
治療が必要でも、すぐにいうことはないのですが。
がんはふつうの細胞と異なり、ふえていくスピードが速く、周りの組織に侵入し、巻き込んで広がっていきます。
周囲の組織、臓器が正常な働きができなくなっていきます。
腫瘍が、悪性か良性かは、専門医なら見た感じでわかるようですが、
正確を期するには細胞を取り出して検査をしてみないとわかりません。


入院中だったので、すぐに泌尿器科で、
膀胱鏡を入れる検査を受け、腫瘍の一部を取り出し、検査をしました。
検査結果が出る前に、泌尿器科の医師は膀胱鏡で実際に腫瘍を見た感じからして、
おそらく尿管がんだろうとわかったのでしょう。
検査結果で出てからすぐに一か月後の手術の予定を組まれました。


腎臓内科の主治医から腫瘍があるといわれたことは、かみさんには伝えました。
がんかもしれないとも。
尿管がんの症状としていちばんよく起こるのは、血尿ですが、
腫瘍の疑いがあるといわれた夜に血尿が出ました。
血尿ははじめての経験ですから、びっくりしました。
このときは、かみさんもそれほど心配はしていなかったようです。

腹膜透析はうまくいったのでいったん退院し、
その後手術を受けるまでに、手術内容について、医師から詳しく説明を受けました。
それまでに、わたしはかみさんに尿管がんらしいと伝えましたが、医師から直接告げられたわけではありません。
手術の内容の説明は、医師から家族といっしょに聞きます。
その説明を聞いていると、かなり大きな手術になること、腹腔鏡手術ができない場合、輸血が必要な場合など、
ずいぶんいろいろ聞かされました。それはちょっとショックでした。
最悪の事態を説明するわけですから、そういう気分になります。
しかし、真摯に説明する執刀医の話を聞いていると、
この人がやるんだから、いいかという信頼がわいてきました。

じつは、このとき、家族(かみさんですが)ははじめて医師から告知を受けたことになります。


手術までに、血尿は出たり出なかったりをくり返しました。
手術が1か月後というのは、少し時間があったので、いろいろ考えてしまいました。
間違いかもしれないとか、どのくらい進んでいるのかを知らされていなかったので、最悪の事態はどうなるだろうか、などなど。
自分の体のことだけが気になって、周囲の動きには気を配る余裕がありませんでした。


がんの告知は自分だけではありません。
わたしががんになったことを、かみさんは誰かにいいたい、相談したいと思ったようです。
たまたまかみさんの友人が、ご夫婦で別荘にきていたので、いろいろ話しができてほっとしたようです。
わたしは、まったくそんなことに気づきませんでした。
がんだといわれても、みんな戸惑うだけですから、
仕事の関係の人には話しましたが、わたしはほかの人にはいいませんでした。


がんの告知は二度行われます。
ひとりで生きているわけではありません。
家族への心配りが必要です。
ようやくそれに気づいたのです。