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2018-06-13

【転載】前川喜平氏と愛ちゃん〔法学館憲法研究所より〕

今週は、いよいよ2018年度の司法試験短答式の合格発表ですね。

4月に刊行しました、『小説 司法試験 合格にたどりついた日々』(霧山昴〔ペンネーム〕著)が好評です。合格されました方は、論文式と口述試験に向けての秘策が書いてありますので是非! 残念だった方も、2019年度に向けての計画練り直しの参考に是非! 本書は1年間集中して勉強して合格した日々を詳細に記録しております。

さて著者・永尾廣久さんが、法学館憲法研究所WEB連載「今週の一言」

http://www.jicl.jp

で「河野学校」について書かれていますので転載いたします。

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前川喜平氏と愛ちゃん

2018年6月11日

永尾廣久さん(弁護士)

「河野学校」の衝撃

 今年のはじめ、FBを眺めていると、横浜の弁護士が佐高信の本を取り上げていて、そのなかで、前川喜平氏が「河野学校」の卒業生だと紹介しているのを知りました。ふうん、なんだろうね、河野学校って・・・.ところが、なんと、その校長の名前は河野愛という。ええっ、ひょっとして・・・。私は大学生時代、3年あまりセツルメント活動に没頭していました。川崎市幸区の古市場という工場労働者の多く住む住宅街で青年サークルに入って活動していたのです。同じセツルの法律相談部に愛ちゃんという大柄で明朗闊達なセツラーがいました。愛ちゃんは私と同じ年(1967年)に東大に入学し、2年生の6月から東大闘争がはじまり、一緒に試練をくぐり抜けました。愛ちゃんは東大で水泳部に所属していたのですが、川崎セツルメントに入ってきました。私は青年サークルで活動し、愛ちゃんは法律相談部です。セツルメントの合宿にも愛ちゃんは参加し、大学を出てからどう生きていくのか、民主的インテリとして社会にいかに関わるのか、夜を徹して真剣に議論していました。大勢のセツラーたちが司法試験を目ざし、弁護士あるいは裁判官になっていきました。青法協の会員のまま裁判官になった人も少なくありません。ところが、なぜか、愛ちゃんは司法試験を受験せず、文部省に入りました。その後の消息はまったくありませんでした。

 いったい「河野学校」って何だったのか・・・。私は、さっそく佐高信の本(『葬送譜』(岩波書店))をネットで取り寄せて読んでみました。まぎれもなく私の知っている愛ちゃんのことが書かれていたのです。惜しくも20年前に47歳のとき愛ちゃんは病死しました。文科省の一課長でしかないのに、葬儀には1500人もの参列者があったといいます。追悼集があることが分かりましたので、やはり元キャリア公務員であり、セツラー仲間だった友人に頼んで、なんとか追悼集を手に入れることができました。

「面従腹背」、気骨ある文部官僚

 前川喜平氏は、著書のなかで自分のことを、多くの場面で自分の良心や思想・信条を押し殺して組織の論理に従わせてきた、文科省に入ったときから面従腹背だった、と書いています。

 ところが、愛ちゃんは、文部省のなかで、利益誘導を図るような仕事の仕方をなにより嫌い、権力のある偉い人にこびへつらうことを嫌いました。とてもまっすぐな人で、上司と衝突することも少なくなかったといいます。

 持病をもつ愛ちゃんは、独身を通しましたが、自宅マンションを知人や部下に開放して「サロン・ド・愛」と銘うって、議論する場をつくっていました。

 後輩が弱い者の心が分からない役人にならないよう導いていったのです。若き前川氏や寺脇研氏は、そのサロンの常連でした。キャリア官僚のほか、新聞記者や教授など10人ほどがワイワイガヤガヤ・・・。そのなかで、「文部省も変わっていかなくてはいけない。従来の文部省のタイプの人間ばかり利用しているようではダメ。斬新な発想を文部行政に反映させていかなくては」と愛ちゃんは、熱っぽく語っていたのでした。

 愛ちゃんはリクルート事件に直面したとき、「不正に対して自分の生き方でたたかっていく」と日記に書きしるしました。その正義感が許さなかったのです。

 前川氏は、教育行政官として必要な心構えは次の三つだとしています。

  一つ、教育行政とは、人間の、人間による、人間のための行政である。

  二つ、教育行政は、助け、励まし、支える行政である。

  三つ、教育行政とは、現場から出発して、現場に帰着する行政である。

 すばらしいです。前川氏は、改悪される前の教育基本法の前文を今でも暗誦できるそうです。先輩が、学校っていうのは勉強のできない人間のためにあるんだよと、前川氏にさとしたとのことです。

 弱肉強食の市場競争に子どもたちをさらさず、一人ひとりの学ぶ権利を保障する。これが教育行政の本来の使命だと前川氏は強調しています。まったく同感です。キャリア官僚のなかに、こんなに気骨のある人がいただなんて驚きです。佐川氏や柳瀬氏の臆面もない証言ぶりでがっかりしていましたが、救われる思いです。すべて公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。憲法15条は、このように明記しています。現役の公務員の皆さんに前川氏に続けと叫びたい気分です。少なくとも国民にこそ目を向けてがんばってと励ましたいです。

セツルメント活動って何・・・?

 ところで、セツルメント活動って何ですかと問われると、たしかに困ってしまいます。一般にはボランティア活動だと紹介されることが多いのですが、ちょっと違うのです。イギリスに始まり、日本では関東大震災のあとに大学生による被災者救援活動から始まったとされています。

 東大では医学部生や法学部の学生が数多く参加し、我妻栄川島武宣も加わりました。ところが、その社会的活動が当局からは左翼的活動だと目をつけられ、戦前はついに逼塞してしまいました。

 戦後、よみがえるのですが、私の大学生のころは最盛期で、全国大会(全セツ連大会)になると全国から何百人も集まってきていました。

 その活動は、いま前川喜平氏が仙台と厚木の夜間中学校で教えていますが、あのイメージです。ただ、私たちは、地域での活動(私たちは「実践」と名づけ、絶えず「総括」していました)を通じて自分たちの生き方をお互いに問いかけるということを、とても大切にしていました。そこが、単なるボランティア活動と違うところです。週1回のセツラー会議で実践を総括して文章にし、その総括文集を持ち寄り、たびたび合宿して夜を徹して議論していました。

 セツルメントって、何も危険なサークルではなく、一定の思想でぬり固められた集団でもありません。元セツラーが警察庁長官とか検事総長になったり、自民党の代議士(平沢勝栄氏もセツル法相のOBです)になったりもしています。

 弁護士のなかにも大勢います。これまで14件もの無罪判決をかちとり、NHKが「ブレイブ」という特集番組を放映した今村核弁護士も元セツラーです。私の知る限り、日弁連元会長にも二人の元セツラー(本林徹氏と村越進氏)がいます。また、裁判官のなかにも元セツラーがたくさんいて、ときに気骨ある判決文を書いてくれています。たとえば原発差止裁判で活躍している井戸謙一弁護士もその一人です。

伊予の河野水軍の末裔

 最後に、愛ちゃんについて補足します。愛ちゃんは愛媛県出身。なんと河野水軍の総帥の末裔で、世が世なら河野水軍の御嬢様なんだそうです。

 河野水軍は伊予河野家の水軍部隊で、四国でもっとも古くからの存在、伊予水軍の頂点に立ち、村上水軍もその配下の一水軍なのです。全国にある八幡神宮の本拠である大三島の大山積神社は河野家の神社でもあります。

 こんなことを二人の元セツラー(仁井陽正氏と園尾隆司弁護士)から教えてもらいました。


◆永尾廣久(ながお ひろひさ)さんのプロフィール

1948年 、生まれ(福岡県大牟田市)

1972年 、東京大学法学部卒業

1974年 、弁護士(横浜弁護士会)

2001年 、福岡県弁護士会会長

2002年 、日本弁護士連合会副会長

2011年 、日弁連憲法委員会委員長

弁護士法人しらぬひ・不知火合同法律事務所所長

著書多数。近著に『小説 司法試験 合格にたどりついた日々』(ペンネーム霧山昴著、花伝社)がある。

10年以上「霧山昴」

http://www.fben.jp/bookcolumn/

というペンネームで1日1冊の書評を福岡県弁護士会のHPに掲載している。

弁護士 永尾廣久のブログ

http://hnagao.blog77.fc2.com

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2018-05-25

【新刊案内】加藤哲郎『731部隊と戦後日本――隠蔽と覚醒の情報戦』

 昨年、400ページ、本体価格3500円にもなる研究書を刊行しました!

加藤哲郎『「飽食した悪魔」の戦後』

 731部隊で人体実験・細菌戦を仕掛けた医師が、戦後、金沢と東京で雑誌を刊行したり、銀座や新宿のお医者さんとなったり、文部省公認の性教育展を開催したり、はたまた、イスラムの教祖となったり(!)という、ひと言でいって「すごい」生涯を振り返りつつ、なぜ彼=二木秀雄や、他の3000人以上にも及ぶ関係者が、東京裁判で裁かれなかったのかを、アメリカ側のGHQについての資料からも明らかにした意欲作です。



本の刊行後、以下のような動きがありました。

  1. 2017年8月、NHKスペシャル「731部隊の真実」の放映。
  2. 2017年12月、湯川秀樹1945年日記の公開。「F研究」へ関与の記述。
  3. 2018年1月、NHKBS1スペシャル「731部隊 隊員たちの素顔」の放映。
  4. 2018年4月、「満州第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」による、学位論文の検証請求。
  5. 2018年4月、「満州第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」が、国立公文書館によって、「関東軍防疫給水部」の「留守名簿」(3607人実名記載)が開示されたと発表。


 そこで、今回、前著をコンパクトな内容にまとめつつ、新事実についても盛り込んでいただいたのが、新刊の

加藤哲郎『731部隊と戦後日本――隠蔽と覚醒の情報戦』

731部隊と戦後日本――隠蔽と覚醒の情報戦

731部隊と戦後日本――隠蔽と覚醒の情報戦

です!



 今回は前著の要約のみならず、上記5つのニュースや、

・ゾルゲが握っていた731部隊の細菌戦情報

・近衛文麿首相の長男、文隆がシベリア抑留ののちに不審死を遂げる。が、そこに731部隊の元隊員たちがどう関与していたか

等々を盛り込んだ1冊になりました。




 この本だけでも、731部隊がいかに戦後の日本へ連続した形で入って溶け込んでいったのかが分かりますし、前著と合わせていただければさらに詳しく、「隠蔽」「免責」「復権」の構造を知ることができます。

 おかげさまで前著『「飽食した悪魔」の戦後』は増刷になりました! この機会に、731部隊に詳しい方も、知らなかったという方も、ぜひご高覧ください。

(山)

2018-05-08 2018年マックス&モーリッツ賞ノミネート作品発表!

弊社から2017年10月に刊行した『マッドジャーマンズ』は、日本翻訳大賞第二次選考対象作品への選出に加え、毎日新聞に掲載された池澤夏樹先生の書評が最後の一押しとなり、ついに増刷になりました!

マッドジャーマンズ ドイツ移民物語

刊行前は「東ドイツの、しかもモザンビーク人!??」と友人に売れ行きを心配されていたので、非常に嬉しいです。

D

(作家ビルギットさんのインタビュー)

温かい言葉をかけてくださった作家のビルギットさん、多和田葉子さん、本を手に取ってくださった読者の方々、熱意を持って売ってくださった書店のみなさま、そしてスムーズな契約をしてくださった代理店の方や、素敵なカバーをデザインしてくださったデザイナーの生沼さま、通常とは異なる入稿方式や本文用紙の選出の相談に乗ってくださった印刷所のTさま、などなど、みなさまにお礼を申し上げます。

さて、前回『マッドジャーマンズ』が大賞を受賞した「マックス&モーリッツ賞」が、いよいよ来月1日に発表されます! それに先立って、ノミネート作品が公表されました。

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(ホームページのスクリーンショット、5月9日)

https://www.comic-salon.de/de/nominierungen


「マックス&モーリッツ賞」とは、1984年より続くドイツの権威あるマンガ賞で、バイエルン州にある「エアランゲン国際コミック・サロン」で隔年で発表されています。「最優秀ドイツ語コミック賞」「最優秀インターナショナルコミック賞」「最優秀ドイツ語新聞コミック賞」「最優秀児童コミック賞」「読者層」などの部門がありますが、合わせて25のノミネート作品が既に発表されています。

『マッドジャーマンズ』作家の最新作(5月2日発売!原作はSylvia Ofili)『German Calendar No December』(ドイツのカレンダーには12月がない)も、ノミネートされています。

German Calender No December

日本からは、大今良時さん『聲の形』、

聲の形(1) (講談社コミックス)

望月ミネタロウさん『ちいさこべえ』、

ちいさこべえ 1 (ビッグコミックススペシャル)

浅野いにおさん『デッドデッドデーモンズデデデデストラクション』もノミネートされました! 

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 6 (ビッグコミックススペシャル)

歴代受賞者には、『はだしのゲン』の中沢啓治先生や、惜しくも亡くなられた谷口ジロー先生も! どなたが3人目の日本人受賞者になるのか、非常に楽しみです。

ドイツ語コミックについては情報がまだまだ十分とは言えないので、自分で調べる機会に加え、紹介の意味でもブログを更新してみました。まだまだ多くの出版社・読者の方へ、素晴らしいドイツ語コミックの世界が伝わるように、弊社としても、そして個人的にも、頑張っていこうと思っています。情報をお持ちの方、ぜひぜひ教えてくださいませ!


(山口)

2018-04-02

【既刊紹介】 石川結貴『子どもとスマホ おとなの知らない子どもの現実』

こんにちは、営業部の白井です。

今回はジャーナリスト・石川結貴先生による『子どもとスマホ』を紹介します。

本書は、おとなと子どもというそれぞれの立場からスマホやネットの問題について解説し、スマホに関する様々なトラブルを防ぐための実践方法を提案する一冊です。


子どもとスマホ  おとなの知らない子どもの現実

子どもとスマホ おとなの知らない子どもの現実


本書の特徴は、親御さんが「子どもとスマホ」を理解するために、とても初歩的な用語から解説していき、その際のことばや表現も「分かりやすさ」に重きを置いていることです。例を挙げると、石川先生は、「スマホ」を「バイキング」に、そしてその中に入っている「アプリ」は「各種の料理」にたとえます。あるいは、ネットへのアクセスの仕方について、通信会社の回線とWi-Fiの違いを、「エアコンの冷暖と暖房」というように表現されています。本書ではこのように平易な比喩でスマホの仕組みを解説しているため、「スマホのことはよく知らない」という親御さんに寄り添ったものになっています。

また内容そのものも、スマホの利用方法やそこで起きたトラブルなどについて、石川先生が取材した豊富な実例は「子どもとスマホ」を理解するうえで非常に役に立ちます。たとえば本書では、スマホからインターネットにアクセスして、「お小遣いサイト」でポイントをかせぎ、そのポイントをギフトカードに換金して、アマゾン(コンビニ受け取り)やiTunesなどでそれを遣う、この「親バレしない方法」の一連の流れや、昨今の社会問題となっている「JKビジネス」がスマホを介してどのように行なわれているのかといったことなどが解説されています。これをはじめとしてスマホの利用方法は多岐に渡りますが、お子様がスマホを使ってどのような世界を見て、そしてどのような人間関係の中にいるのかよく分からない親御さんは、まず自分から進んでスマホを知ろうとするべきだと石川先生は言います。

例に挙げた「お小遣いサイト」や「JKビジネス」は、個人情報の漏洩から暴行被害まで、子どもをあらゆるトラブルに巻き込みます。そこで石川先生は、スマホを購入する際に、親子で話し合っておくべきこと、スマホを使うときのルールとその決め方、ネットアクセスのペアレントコントロールなどについて提案・紹介をしています。

お子様の進学や進級を機に、スマホの購入を考える親御さん、あるいはそれを要望するお子様は多いかと思います。本書は、スマホという今後の社会生活に欠かせないツールとどのように上手く付き合っていくかを教えてくれる一冊であり、そして石川先生が言うように、お子さんの「責任感」と「自立心」を養っていくためにも有用な参考書となるはずです。


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2018-03-09

【新刊紹介】矢吹晋『中国の夢――電脳社会主義の可能性』

 また更新が空いてしまいましたが、新刊のご案内です。

矢吹晋『中国の夢――電脳社会主義の可能性』

中国の夢――電脳社会主義の可能性

中国の夢――電脳社会主義の可能性

 矢吹晋横浜市立大学名誉教授の、弊社での刊行書籍もこれで10冊目となりました。


 さて、去年の6月に刊行した前作、『習近平の夢――台頭する中国と米中露三角関係』が、第5回「岡倉天心記念賞」最優秀賞を受賞し、年末に福田康夫元総理もお迎えして、(かつては孫文も常連だった)日比谷・松本楼にて華々しく授賞式が開かれました。

習近平の夢――台頭する中国と米中露三角関係

習近平の夢――台頭する中国と米中露三角関係

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 この本は『炎と怒り』もびっくりな、トランプ大統領の売春婦スキャンダルや、ロシアの選挙介入などについて、ものすごい情報量を詰め込んだもので、国際善隣協会さんでは毎月、この本を用いた勉強会「善隣中国塾」が開かれています。

 授賞式の後に、先生と、弊社代表の平田、そして私とが、有楽町のガード下の居酒屋でささやかな二次会を開いていた際に、矢吹先生がスマホ(いつも最新のiPhoneやiPad、AppleWatchを持っていらっしゃいます)を取り出して、「いま中国では、こうした居酒屋でもその場でQRコードで『ピッ』と決済をするんだよ」と教えてくださいました。

(私は小学校で習った「中国は、天安門広場の前の大量の自転車」というイメージがどこか頭にのこってしまい、今や日本よりも物価が高い地域もある中国の「現在」について、疎い部分があるので、これもびっくりしてしまいました。去年(航空券を買い間違えて)二度も香港へ行き、現地の「Suica」のようなカード(オクトパスカード)を「便利だなあ」と使っていたのですが、矢吹先生に言わせると、「中国本土では『香港人は現金を使う』というジョークがあるぐらい、スマホ決済が普及している」そうです。)

 QRコードの話から、「いま中国では、『電脳社会主義』が進行している」とつながり、そうして構想がまとまったのが、今回の新刊『中国の夢』です。

(前置きが長くなりました。)


 「『中国の夢』とは、IT 革命からET 革命(Embedded Technology Revolution)への転換を全世界に先駆けて疾走することによって実現されるであろう。(…)この技術は地球環境の「制約条件下での持続的発展」を可能にし、現代人の生活需要を満たしうる点で実現可能性をもつ。現代社会主義は21 世紀初頭の今日、人類史上初めて、それを実現する生産力の基盤を備えたことになる。

 ビッグデータの活用によって中国経済はいま新たな発展を模索しているが、この「中国モデル」(Digital China =数字中国)は、特殊中国的なものではなく、普遍性をもつ。それは、ジョージ・オーウェルの危惧した「ビッグブラザーの独裁」に陥る危険性、すなわち「デジタル・リヴァイアサンという怪物」に食い殺される危険性を伴うが、他方、その担い手に公正と正義(Fairness and Justice)あるいは国際正義(International Justice)の精神を伴うならば、人工知能(AI)の力を借りて怪物を飼い馴らし、人々の生活に奉仕させる、新しい『もう一つの可能性』も秘めている。」(本文より)


 矢吹先生は学生時代、60年安保で亡くなった樺美智子さんと仲が良かったそうです。彼女との論争もあった中で、当時、先生の疑問であったのは、社会主義国で必然的に芽生えてしまう官僚制をどう克服できるのかということだったように聞いています。

 「学寮の一室『中国研究会』時代から『コンピュータなくして社会主義なし』と口角泡を飛ばしてきた(「あとがき」より)」そうですが、例えば、習近平が「虎もハエも」と、血眼になって追放した汚職も、ビッグデータが集まればAIによって自動的に徴税ができるなど、システム改革によって一掃できる可能性があるのです。これも、矢吹先生が今回書かれた「電脳社会主義の可能性」の一例です。

 「中国の夢」という言葉自体は、2012年に習近平が発表した、「中華民族の偉大なる復興」を掲げる統治理念ではありますが、本書ではもっと大きく、中国においてET[組込み総合技術]革命が進むことにより、社会主義の限界を突破できるのではないかという矢吹先生自体の夢が含まれています。

 しかし、同時に、ビッグデータの集積により、ジョージ・オーウェル『1984年』のように国家が国民を管理する危険性(デジタル・リヴァイアサン)も高まる可能性もあります。

 本書では、その両方の可能性について、十九大で示された中国の経済政策や、電気自動車への転換、ビッグデータの管理体制、中国の官僚制(ノーメンクラーツ=名簿も収録しています)、文化大革の教訓、などから分析しています。

 ぜひ幅広い方にお読みいただきたい、そして感想をお聞きしたい一冊です。3月中旬発売予定。ご高覧のほど、よろしくお願いいたします。

 (山口)