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2008-08-22

世界国家の話(3)−連邦議会と大統領

(『世界国家1950年8月号から転載)賀川豊彦

 政府状態の世界
 世界国家は一つの法で治められる社会ですから、法律が一ばんモノをいいます。今日の世界では、なるほど、各国家の内部だけでは、それぞれ法があり、法によって治められていますが、これが世界ということになると世界法は定められておらず、条約があるだけですが、それすら強国は、拒否権などというものをふりまわして、自国に不利なことは適用を拒み、これを踏みにじって顧みませんから、現在の世界は無法状態、無政府状態にあるといってもいいのです。これというのも、各国家が固く主権の殻に閉じこもって、他と融けあってゆくことを許さないためです。そして、いったん争いが起これば、武力に依るよりほかに解決の道のない仕組みになっているのです。世界国家は、この点に鑑み、戦争によって人類を破壊するのを防ぐため、各国の主権のうち、少なくとも武力主権を割いて、これを連邦政府にゆだね、全人類24億人の個々に通用する一つの世界法を制定し、お互いがこれを遵奉して行こうとするのです。何はともあれ「世界政府のほかは何人も武器を作ってはならない、軍隊を設けてはならない」という法律が立てられるでしょう。こうなれば、戦争は、もはや不可能になるはずです。

 もちろん世界国家は、各国家から主権の委譲をうけるからといって、一切の国家権限を剥奪しようというのではありません。このことは最も大切なことなので、シカゴの世界憲法草案においても、第一条に具体的にハッキリと列挙しているのです。
 では世界国家に委譲される権限は、どんなものか。左に項目だけを記して見ることにいたしましょう。

 世界国家の権限
A.世界連邦憲法の遵守の管理
B.右による人間の義務と権利の伸長と実践
C.平和維持と、そのための法律の制定
D.諸国家の暴力手段の禁止と紛争の裁定解決
E.国境変更の管理と最終的決定
F.新国家または連合体の組織の管理と最終的決定
G.自治制なき地域の行政
H.世界平和と世界正義を脅かす暴力行為および法律違反への干渉
I.連邦軍隊の編成、配置
J.連邦の武器および各国の国民軍の管理、制限
K.資源開発機関の設立と仲裁
L.連邦税の賦課、連邦予算の編成
M.世界銀行の経営、通貨発行機関の設立、クレジットの創設
N.連邦の利害よりする商業の統制
O.同上運輸、通信の確立、統制、運営
P.移民および民族移動の管理
Q.連邦旅券の発給
R.連邦で使用する財産への補償
S.連邦地区、委任地域の立法行政

 地球を訪れる平和
 これらの権限が、各国家の主権から、はずされて世界連邦に付与されることとなれば、現在の国際紛争は、ほとんどタネ切れとなり、殊に、各国の軍備がなくなり、原子爆弾などの製造が禁止されるのですから、国際紛争というものはなくなり、世界は始めて安心して住むことのできる仕組みとなるのです。一つの世界政府だけが武力主権をつかさどり、個々の政府には武力主権は無いのですから、戦争の起きる余地がありません。丁度、あの廃藩置県が行われてから、日本という地面の上では戦争が無くなってしまったのと、同じ道理です。また世界の金融、貿易、運輸、通信の面でも、従来の国家間の自己本位の障壁が取り除かれ、経済は国民経済から世界経済に移って著しい進歩発展を見るでしょう。現在、日本が当面している海外移民の問題なども、世界議会で話し合い、法を立て、連邦政府の手でその方が執行されるならば、解決の道を見ることは明らかです、こうして、従来戦争の原因となっていたいろいろの事情が、取り除かれ、平和は地上に訪れることとなるのです。

 国家及び民族性は減殺されるか
 或る人は、世界連邦が出来れば、民族性は減殺され、国家というものは影の薄い存在となるだろう、と憂慮されるようです。なるほど、世界侵略をたくらみ、八紘一宇を夢見る帝国主義は、その存在を許されなくなるでしょう。また自国の繁栄のみを望む国家利己主義者にとっても、うかがう隙のない世界となるでしょう。しかし、各民族、各国民は、戦争の危険がなくなり、強国の鼻息をうかがわねばならぬ恐怖が除かれ、殺し合い壊しあいがなくなり、各民族は始めて枕を高くして眠ることが出来るのですから、諸民族の個性は漸く発揮され、特長はいよいよ伸展してゆくことになります。

 世界国家が出来ても、各国家はそれぞれ独立国家として存在することは言うまでもないことで、私どもは日本国民であって、同時に世界連邦の成員となるのです。国境も無くなるわけではありません。ただ従来の国家間では、国境が違えば全然、別な世界も同様で、一つの国境の中に住む甲という人間と、他の国境の中に住む乙という人間との間には、共通の法もなければ、共通の政府もない――無政府状態にあったのですが、世界法という一つの共通の法律の下に結合されることになれば、はじめて甲と乙とは、国境を越えて自由に往来し、通商し、文化を交流したり、経済を共通することができるのです。さればといって戦争と直接関係のない諸権限は、だいたい依然として各国家の手に在るのであり、またその上、連邦憲法にはハッキリと、人種、民族、性、階級、信条に対する差別を行ったり、原料資源やエネルギーを壟断したりすることを堅く禁じてあり、また強制労働や不公正な審理や、過重の刑罰を禁じ、交通、通信、言論、出版、意思発表、旅行等の自由や平和的集合の自由の制限を禁じて、各民族がそれぞれ、その途に安んずることのできるよう、連邦はあらゆる保障をするのですから、各国民、各民族の生活は、従来よりも遙かに平和で、自由で楽しいものとなることは疑いありません。

 連邦議会と特別議会
 こういうわけですから、世界国家立法ということは、連邦の政治機関――立法司法行政の三つの機関の中でも最も大切な機関です。「主権在民世界人民」の主旨に基づき、全世界の各国家および民族から選ばれた議員によって、最高立法府としての連邦議会が構成され、世界の24億の人間に通用する法が定められるのです。あたりまえのことですけれど、この議会議員というのは、その所属の国の国民の代表ではなく、全世界の人民の直接の代表です。だから国々の政府の全権大使としてではなく、議員個人の権利で行動します。
 では、各国家や民族の利益は、どうやって主張され、またそれぞれの職能や文化面の意見はどうやって反映させるのでしょうか。それには別に三つの特別議会が設立され、それぞれの立場から立法に参画し、諮問または準備の権限を与えられることになっています。三つの特別議会とは

* 国家代表議会――(各国家各民族の代表者の議会)地方的制度や自治制度、および少数民族の保護に任ずる
* 職能代表議会――(各企業団体や各種組合その他団体の職能代表者の議会)これら団体間の紛争の仲裁に任ずる
* 文化代表議会――(科学・教育・文化代表者の議会)文化運動の推進に任ずる

 この三つの特別議会と、最高立法府たる連邦議会とによって、世界連邦法律の起案、および制定がなされるわけであります。

 企画院
 なお、世界政府は、連邦の予算を始め、各種の長期にわたる企画を立てるための特別機関として「企画院」を設立し、議会での審議委先立ち、十分、企画を練り、案を検討させて、万全を期することとします。企画院の委員は大統領が任命し、任期は12年ですが、連邦議会は、これを拒否することもできるのです。
 以上で世界連邦立法機関の説明を終わったわけですが、行政機関をあずかる政府の首脳部は、どうやって選ばれるのでしょうか。

 日本から大統領
 連邦政府行政の最高機関は大統領です。この大統領選挙するのは世界人民で、三段構えで選びます。まず各選挙団体(世界の九つの地区を示す)が、それぞれ自由な無記名投票で、候補者を指名します。この場合、候補者はかならずしもその地区で生まれた人とはかぎりません。インド地区でヨーロッパ地区の人が選ばれてもいいのです。ここで指名された候補者の中から、連邦議会は秘密投票(自由な無記名の投票)で3名を選び出し、さらにその3名の中から1名を、秘密投票で決めるのですが、この場合、3分の2以上の多数の投票が得られねば、当選できない規定です。こうして三度、ふるいにかけていよいよ大統領が決定します。
 さて大統領の権限ですが、大統領連邦立法を起案し、議会の審議を経てこれを公布し、法の定むる範囲で連邦行政に当たるのですが、面白いことには、大統領は6年の任期を終わると、再選することが出来ないのです、この点アメリカ大統領などと違います、また大統領は二人続けて同じ地域から出ることはできません。たとえば、初代大統領アメリカ地区から出たら、二代目はアメリカ地区以外から出すことになるのです。ですから、かりにどこかの強大国が世界連邦を勝手に支配しようとしても、それが出来ない仕組みになっているのです。世界連邦は、どの民族も、どの国家も、地球上のすべてが、その中に入るのですから、いずれは日本人が世界連邦大統領に選ばれる日も来るに違いありません、みなさんも、そのつもりでしっかり勉強して下さい。
 
 総理および閣員
 大統領は総理を任命します。総理は大統領の承認を得て内閣員――大臣――を任命します。総理は6年以上、大臣は12年以上存在することを許されません。あまり短命でも何も出来ませんが、長すぎて甲羅が生えるようだと善いことをしないからでしょう。なお、総理や各大臣は、議会不信任決議をすれば、やめねばならぬことは、もちろんです。