賀川豊彦献身100年展 神戸文学館

 神戸文学館は11月1から「賀川豊彦献身100年」を記念して「愛と労苦と希望―賀川豊彦の文学」を題した企画展を開催する。2009年2月24日までのロングラン展示会だ。
 企画展に併せて、下記の記念講演会も催す。
 11月29日(土)「賀川豊彦の文学」
          田辺健二(鳴門市賀川豊彦記念館館長)
 12月6日(土)「賀川豊彦遠藤周作
          ―日本文学の中野キリスト教
          山折哲雄(国際日本文化研究所名誉教授)
 1月24日(土)「祖父 賀川豊彦の周辺」
          賀川督明(カガワデザインワークショップ代表)

 神戸文学館 神戸市灘区王子町3−1−2
       078−882−2028

 愛と労苦と希望―賀川豊彦の文学
 神戸・新川における賀川豊彦の活動は資本主義社会が生み出すひずみを是正するための壮大な実験として多くの人に注目された。彼は労働運動、生活協同組合運動、農民運動などの運動を興し、指導的役割を務めるとともに、神から与えられた使命の伝道活動にも活躍、1926年に「神の国運動」を展開し、多くの人の魂を救う伝道者の役を果たした。アメリカで出版された「Three Trumpets Sound - Kagawa, Gandhi, Schweizer」(A. A. Hunter,1939)はガンジーシュバイツァーと並んで賀川を世界の三聖人の一人とし、その活動を讃えている。
 幼少時の経験から、賀川は人の心の奥底にあるやさしさや寂しさを愛し、その心情を多くの文学作品に残している。詩集『涙の二等分』(1919)は、賀川の幼い貰い子への切々たる愛情が綴られ、評判となった。当時、文学者たちは賀川の活動に感激し、しばしば新川に賀川を訪ねている。
 与謝野晶子は夫・鉄幹とともに新川を訪ね、まだ無名であった賀川の『涙の二等分』に長い序文を寄せ、後に「賀川豊彦さん」という詩を発表する。徳富蘇峰は1920年に賀川と訪ね、賀川の活動を物心両面で支えた。賀川も大先輩である蘇峰を「私は人間主義です・・・」「(先生は)日本でたった一人の先生」と尊敬している。蘇峰の弟、徳富蘆花は、関東大震災の際に賀川の取った行動について「賀川君に」と題して東京朝日新聞に寄稿、「私は震災後のあなたの働きを一度も見てはいないが、その働きは新聞に取り上げられ・・・、その働きの一つひとつが新たな日本の形成のために最も必要な働きをしています」と書いた。大江健三郎は「大正のはじめの日本の貧しい生活をしていた人々をいきいきと描いた作家としては、賀川豊彦をまず挙げなければならない」としている。
 賀川豊彦の生涯の中で基本的に大切なことは、いかに人々を愛することができるかということであり、愛するための方法としてのいくつもの運動(それぞれ時代の制約はあったが)であった。小さな子ども、貧しい生活者に対して、彼の心はいつも純真であり、優しさを湛えていたのである。
賀川豊彦献身100年記念事業神戸プロジェクト実行委員会委員長 今井鎮雄)

 聖路加国際病院理事長 日野原重明
 神戸文学館は、関西学院が神戸、原田の森にあった時の神戸のチャペルで、ここでは私の父、善輔が母満子と結婚式を挙げたところであり、私も原田の森時代の父と同じく関西学院の中学部の卒業生です。
 私と父と賀川豊彦先生は同じくキリスト教の牧師で父が1年先輩の同労者でしたし、私は中学時代から賀川先生の伝道集会で何回も先生の情熱的な伝道説教を聞いています。先生は自分の結核闘病記を小説「鳩の真似」に書き、32歳の時、トラコーマによる眼疾を持ちながら、改造社からベストセラーとなった『死線を越えて』という小説を書かれましたが、長い間の神戸のスラム街での生活、今であればホームレスの集合している中での彼らとのタッチの中での執筆であります。
 先生には小説のテーマはたくさんあり、その環境の中から、小説を通しても伝道したいという動機で世間に広く読んでもらうために小説の形式で著述されたものと思います。
 先生は25歳の時、米国のプリンストン大学で学び、文学的教養のほかに、自然科学としては、生物学や天文学、さらに理論物理学などについてのかなり深い知識を学ばれ、先生の著述や説教の中には自然の中に啓示された神の人類への大きな力についての神学と自然科学の融合が説かれ、その上に社会学的実践活動の中で神様の福音を述べ伝えられ、また世界平和を説かれたのです。
 先生は、最後は東京の世田谷区上北沢のご自宅で、心筋梗塞に合併した尿毒症が進行して亡くなられました。私は昭和34年12月25日のクリスマスの朝、先生をご自宅に往診しましたが、その時、先生は米国の友人から送られたW. オスラーの内科教科書(16版)の扉に寝たままで、こう書かれていました。この字は先生の絶筆でしょうから、きわめて貴重なものだと思います。
 太陽は 世界隅々 照らし行けど、
 之を蔽う 罪の黒幕
 之を取り去る愛と従十字架
 感謝の1959年のクリスマス
 賀川豊彦