「いき」の構造

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

さて,この本,論として読むとそれほど面白くない.
まず始めに外国語に「いき」という言葉を表す語彙がない,ということを上げ,「いき」の内包的,外延的性質を述べていくのだが,言葉のリズムは良いのだが,ただただ眠気を誘う単調さに揺すぶられた.なぜか,というのを考えてみると,「いき」の引用は果てしなく多いのだけど,その引用のどれもが「いき」の使用例ばかりで,「いき」の構造について述べた意見の引用がないからだろうと推測できる.数値的な計量のない考察がこうも面白くないのか,と感じるようになったのは少し意外ではあった.おそらくもう人文学者にはなれないのだろう.

その一方で,発想はとんでもなく面白い.特に「いき」,「風流」,「情緒の系図」の構造を幾何的に表した図は十分考察に値する.昔から人は万物の根源というものを定義したがった.曼荼羅でもタレスでも里見八犬伝でも何でもいいのだが,こういった自然現象や感情の要素の分解というのはどの世界でも存在する.ただ,これまで私が見てきた分解の仕方というのは離散的なものであり,要素を組み合わせることはあっても,その中間を連続的に評価する(この本の中では射影すると言っているが)というものは見た事がない.

要素を頂点に見立て,その道筋を境界と見立て,積分を行えば良い.
物理学的な要素は原子(素粒子については私は詳しくない)に分解された.感情の要素は分解するだけでなく,きっと線積分や面積分のようなベクトル的な扱いが必要ではないかと思う.