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Something Orange このページをアンテナに追加

2005-03-12(土)


ROOM NO.1301 ♯5 (富士見ミステリー文庫)

ROOM NO.1301 ♯5 (富士見ミステリー文庫)

 触れてよと願う心に手のとどかず触れるのはどうでもいいようなたとえば乳房

――岡しのぶ

 読了。

 いや、まあ、なんというか、妙な小説だ。そうとしかいいようがない。

 純文学からパルプフィクションまで、いろいろと小説を読んできて、まあなにを読んでもそれほど愕かない哀しい身の上になってしまったんだけれど、でもそれでもたまにこういう代物と出会う。なにがなんだかよくわからないが、とにかくおもしろいんだからまあいいか、という小説。

 べつだん世界が危機に見舞われるわけでもないし、主人公が颯爽と活躍するわけでもないし、苦悩を乗り越えて成長することもほとんどないし、なみだなみだの純愛物語が繰り広げられてもいないし、愛憎のはてに魂の救済が見えてくるわけでもないし、高校生の少年ただひたすらえっちしているだけの話なのだが、でもなんだかおもしろい。おもしろいと思う、ぼくは。

 こういう風に書くと早合点する人がいるかもしれない。ああ最近流行りの萌え系エロ小説ね、ライトノベルのレーベルでそれをやっているのがちょっと物珍しいだけでしょ、と。

 違う。いや、ある意味では間違えていないのだが、なんだか違う。どうもうまくいえないが、なんとなく捉えどころのない、どう分析していいのかわからないような小説なのである。

 主人公のまわりに次々と美少女が集まってくるあたりはいかにもライトノベル的だし、存在しないはずの13階に入れる鍵というマジックアイテムは、この物語をぎりぎりのところでファンタジーにとどめている。でも、現実に語られる物語は決定的にライトノベルらしくない。ギャルゲーっぽくもない。なんというか、どこか根本的に文法が違うのである。

 各巻が本編の時間軸より未来の出来事を描いたプロロローグに始まり、本編の主人公以外の人物の視点で綴ったエピローグに終わるという凝った構成になっているんだけれど、このプロローグで垣間見える各人の未来は、決して甘ったるいものではない。

 特に不幸になっているのではないにしろ、かつての13階の住人たちはみな離れ離れになってしまっている。したがって、胸焼けがするような甘ったるさのらぶらぶファンタジーを期待して読むと、微妙にずれたものを読まされて戸惑うことになる。

 いかにもなモテモテ系ライトノベルの皮を被ってはいるけれど、どちらかといえばこれはごく正当な青春小説なのだ。――いや、それもたぶん違う。

 青臭くも懐かしい青春時代から時が過ぎ、おとなになった登場人物が、微かな悔恨と胸苦しさをこめて過去を振り返るというスタイルは、典型的な青春小説(「スタンド・バイ・ミー」とか)のものだし、主人公が次々と女性と関係をもつのもオヤジ向け女性遍歴小説ではありがちなことだけれど、でもそういったものを予想して読めば、やはり肩透かしを食うだろう。

 なんといってもやっぱりこれはライトノベルなのだ。表紙や挿絵のイラストレーションはいかにも今風の萌え絵だし、直接的な肉体関係の場面はことごとくカットされている。

 この寸止めの連続がなんともたまらないものがある。読者の欲望を満たすのがエンターテインメントではない。読者の欲望をあおって、しかも満たさないのがエンターテインメントなのだ。

 いやまあ、それもいいとして、ようするにこういうことなのだと思う。僕が感じる違和感とは、荒唐無稽なアニメ・漫画的リアリティと、もうちょっと切実で生々しい、青春恋愛小説的な、もっといえば純文学的なリアリティとが、ひとつの作品のなかで混交していることによるものなのだ。換言すれば、キャラクターと物語のリアリティが別の次元にあるのだともいえる。

 ライトノベルに過激な性表現を持ち込むことは、実はそれほど斬新ではない。むかしの「魔獣戦士ルナ・ヴァルガー」とか「自航惑星ガデュリン」なんてかなりのものだったし、それにいまだってジュヴナイル・ポルノもあれば、エロマンガやエロゲーもあればボーイズ・ラブノベルもあるのだから、そういうことにはそれほど驚かない。

 しかし、ここでセックスとともに作中に持ち込まれているのは、従来のライトノベルとは別種のリアリティなのだと思う。

 どこからどう見ても最新流行のライトノベルとしか見えないものが、べつの種類の小説の方法論で綴られているという事実が、一種の酩酊感を生む。くらくら、くらくら、くらくら。そして気がつくと読み終わっている。

 たぶん挿絵がなければ、そしてべつのレーベルから出版されていれば、僕はまったくべつの読み方でこの作品を読んでいただろう。そう考えると、ライトノベル独自の読みというものも、たしかに存在するのかもしれないと思えてくる。

 なんだかよくわからなくなってしまったが、なんだかよくわからない小説のことなのだから、しかたない。たぶん。