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Something Orange このページをアンテナに追加

2005-10-17(月)


アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

 読了。

 優れた文章は、どこか音楽的なものだと思う。句点、読点、仮名、漢字、アルファベット。日本語に赦されたあらゆる文字と記号を響かせて、沈黙の演奏家たちは無音のミュージックを奏でる。

 そういう意味では、森絵都は僕にとって最も好きなアーティストのひとりといえる。彼女のえらぶ言葉は、いつだって涼やかで、透明で、かろやかな足取りでこころをすり抜けていく。

 「アーモンド入りチョコレートのワルツ」は、その森がクラシック音楽を題材にした短編集。シューマン、バッハ、サティ。巨匠の音楽を通して、思春期になるかならないかの少年少女たちのドラマを綴っている。

 森はまた、おとながそうであってほしいと願うようなこどもではなく、実際にそうであるようなこどもをえがくことができる書き手の一人だ。彼女の世界のこどもたちは、たしかに活き活きと躍動してはいるものの、同時に等身大の卑怯さや意気地のなさもかかえている。

 少年たちのある別荘でのひと夏の体験をえがいた「子供は眠る」、不眠症の少年が音楽にみちびかれるようにして少女と出逢う「彼女のアリア」、そしてピアノ教室での奇妙な出逢いを物語った「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。

 いずれも決して無垢なだけではないこどもたちの悩める日々を綴った短編だ。児童文学というよりただの小説として、実に楽しい作品ばかりである。かなりおすすめ。