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2007-09-02(日)

 まだ見ていないお前らのために『ヱヴァ』を解説するよ。


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 物語が終わり、スタッフロールが流れ、次回予告が過ぎ去り――すべてが終わったそのとき、静まり返った映画館で、ひとつの、小さな音が起こった。

 だれかがどこかで手を叩きあわせる音だった。その拍手は、やがてさざ波のように広がり、暗い劇場を覆い尽くしていった。

 どんな評論家の絶賛よりも、そのささやかな賞賛が、この作品の出来を証明していただろう。

 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』。

 いまを去ること十数年、膨大な設定と衝撃的な結末、そしてテレビアニメの常識を破壊する沈うつな展開で賛否両論を巻き起こし、いまなお議論を呼ぶ伝説のアニメーション。

 その『エヴァ』が『ヱヴァ』となって帰ってきた。当然、今回も激しい賛否を呼ぶことが予想される。はてなから初日に見に行ったひとたちの感想を適当に抜き出してみよう。

 映画が終わった瞬間、劇場は万雷の拍手に包まれた。喝采をあげるものもいる。ほとんどライブ会場のような光景だった。異様なテンションに、一緒に観に行った友達はかなり引いていた。おれにとっても、映画館であのような光景をみたのは初めてのことで、少し戸惑ってしまった。


 近くの喫茶店に行きながら友達と感想をくっちゃべる。いま見ると大人がひどいね、シンジ君は案外まとも。第3新東京市ってあんなにカッコよかったっけ? 使徒もカッコよすぎる!


想像以上に楽しめた。
というのもヤシマ作戦の使徒が・・・!!
いやー震えたわ演出
使徒の攻撃やヴぇえよマジで
死ねる


 エヴァなのだが、ちょっとすごい事になるかもしんない。わかんない。見終わったあと、劇場では拍手喝采。紛れもないマジ拍手。オレも自然に拍手。これは次も見に行くわ。しかし、これでムーヴメントになるのだとしたら、それはエヴァだからだな。そういう事か。大日本人だよ。やっぱ、庵野さんはプロだぜ。やらかしても回収してくれる上手さは見事です。やっぱ、演出力あるわぁ。


 おいおいおい、皆、何でこんなに褒めているんだよ!

 『ヱヴァ』の感想といったら、ほら、あれだろ? 「庵野殺す」とか。「結局あれって庵野のオナニーだよね」とか。「使徒とは受け入れられない他者の象徴であり封印されたリリスは(以下略)」とか、そんなのだろ。

 とくに東京都在住*1奈須きのこさん(33)の喜びようは見ていられないほど。

 約二時間、完全に燃え上がった。
 日陰者(オタク)で良かったとニヤついた。
 これだけのご馳走を、二度も、しかも最高の状態で楽しめる年代で良かったと吠えあげた。

 愛憎いりまじり、かつての熱も今の醜態も知っているからこその喜び。
 スタッフロールの後、あれだけ消費つくされたものを完膚無きまでに復元し超越したこの奇跡。
 スタッフの十年間がどれほどのものだったか思い知らされ、“この十年、何も成長していない”と自らの手を睨みつけた戦慄を、きっと多くの人間が味わう事になる。

 ようするに、俺たちはまたこの化け物に振り回されるのだ。
 これを幸福と言わず言おう。
 これだけは若い子には経験しようのない、リアルエヴァ世代のご褒美だぜ?


 どう見てもただのエヴァオタです。本当にありがとうございました。

 そういうわけで素晴らしい出来だったわけですが、以下ではまだ見ていないひとのためにちょっと解説しておこうと思います。

■ようするに総集編なんだろ?■

 違いますね。

 今回の「序」では、テレビ版の第6話までの展開をほぼ忠実になぞってあります。ほとんどそのまま。シンジも綾波もゲンドウもサキエルも第三新東京市も何も変わっていません。

 物語的な意味ではほとんど新しい要素というものは見られない。もっと何もかも違うものになるかもしれないと思っていたんだけれど、びっくりするくらい『エヴァ』している。

 尺の関係で多少急ぎ足になっているところはあるけれど、あの名場面、名台詞はほぼノーカットで出てきます。「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」も、「あなたは死なないわ。わたしが守るもの」も、「笑えばいいと思うよ」も全部出て来る。

 そういう意味では、ちょっと肩透かしの印象はある。ただし、全体的なクオリティはそれはもうテレビ版とは比較にならない。

 ただ映像が綺麗にリファインされているだけじゃなくて、細部のアイディアひとつひとつに至るまで現代の視点で再検討し、直すべきところは直していることがわかる。はっきりいってすごいっす。

■古い映像が混ざっているんじゃないの?■

 ないです。

 某ガンダム映画みたいなものを想像しているなら、その予測は間違えている。たしかに物語的には新味は薄いけれど、映像的にはすべてが作り直されていて、古さは感じない。

 綾波さんの裸の綺麗なこと。シーツにくるまったシンちゃんのエロいこと。目新しいイメージこそないものの、アクションのひとつひとつがブラッシュアップされていて、テレビ版をはるかに上回る出来に仕上がっている。

 最初の対サキエルのあたりはそれでもテレビ通りなんだけれど、対ラミエルに至るともう完全に別物。たぶん、この対ラミエル戦は今後、語り草になることでしょう。それくらい力が入っている。

 ま、アニメにかんして言葉で説明することほどむなしいことはないので、自分で見てたしかめて下さい。

■新しい見所なんてないんじゃね?■

 ラミエル! ラミエル! ま、今回はラミエルと第三新東京市に尽きるでしょ。

 この映画、序盤はテレビ版と同じ展開を、多少駆け足で描いて、少しずつそこから逸脱していくように設定されている。たしかにぼくらの知っている『エヴァ』なのに、細部が微妙に違っている。

 とくに印象的なのが第三新東京市。「地下からビルがうねうね上がってくる」イメージはそのままながら、何だか異様にきもちいい映像に仕上がっています。

 土木フェチ映画という評価があるくらいで、今回の無機物描写の官能性はアニメ史上最高のレベルに達していると思う。ていうか、こんな映像が撮れるひとほかにいねえよ!

 予告編でその一端は披露されていますが、大画面の劇場で見るとその迫力はいっそう圧倒的。そしてラミエル! ラミエルにかんしては「たまごまごごはん」の中の人が言うとおり。

テレビ版でのラミエルは、ビーム撃つだけの存在ですが、劇場ヱヴァのヤツの恐怖はガチで本物。素でかなう気がしません。あんなのと戦いたくないよ。あれで何人死んだんだ。

ヤツの変形っぷり、戦闘能力、アクション。後半はこれの壮絶さの描写に一点集中。とりあえず映画を見る前に5話を復習で見ておくと、30倍は楽しめると思います。そのくらい違う。あと音…鳴き声?が不愉快なくらい激しくて。あれが「生きているんだ」という描写が入っていることに恐怖を覚えました。

 もう恐ろしいまでの無敵っぷり。人間の科学力を超えています。こんなもの人類には倒せねえよ! いや、倒すんだけれど。

 あまりの迫力に逃げ出そうとするシンちゃんを責められないくらい。あれは怖いだろ。逃げるよ、普通。勝てそうにないもん。いや、勝つんだけど。

■で、結局、おもしろいの?■

 おもしろい。

 序盤のあたりこそ駆け足で「ため」がない感じがするが、しかし、それは後半のヤシマ作戦を重厚に描き出すため。いや、今回のヤシマ作戦はすごいよ。

 物理法則を超越した人類の宿敵「第六使徒」ラミエルに対し、日本中の電力を集めた陽電子砲で挑むネルフとヱヴァンゲリヲン! 人類に許された選択肢はふたつ。座して滅亡するか? 使徒を撃退するか?

 そしてセカンド・インパクトによってその領土の大半を失った人類にのこされたかすかな希望、そのすべてがたったひとりの少年に託される。

 それまでのすべてのエピソードがこのワンシーンに集約するよう計算されていて、もう、燃える燃える。盛り上がる盛り上がる。

 そして、今回はネルフがかっこいい。微妙な差ではあるのだが、今回のネルフはゼーレに操られる「素人集団」だった前作とは少し趣が違います。

 人類防衛の最終拠点である第三新東京市を守ること、それがネルフの唯一絶対の使命。もし使徒に侵入を許した場合、自爆して果てる覚悟はその場にいる全員が決めている。

 腹の据わったプロフェッショナルとしてのネルフが、ヤシマ作戦に挑む姿には、ある種、『プロジェクトX』的な興奮がある。ミサトさんもいいひと度20%アップだし、今回のネルフはゼーレに虐殺されて終わったりしないかも。

 ま、とにかく今回はほとんど文句をつける余地がないですね。「万人向けのエンターテインメント」として実に隙のない仕上がり。

 ただ、いままでのエキセントリックな『エヴァ』を望むなら、「優等生的によく出来すぎていてつまらない」とはいえるかも。

 あえてけなすなら「新しい想像力を感じない」というところだろうけれど、あのラストシーンと次回予告を見たらそれもね。このラストシーンの時点で完全に『エヴァ』は壊れ、『ヱヴァ』が生まれる。

 ていうか、あいかわらずカヲルくんのいうことはわけがわからないな! 次回予告を見るかぎり、次回以降の『ヱヴァ』はもう完全にいままでとは別物。

 今回は「すごい『エヴァ』」だったから、次回は「『エヴァ』じゃないもの」を見せてほしいです。21世紀のアニメーションの可能性を見せてくれ!

 お楽しみは、これからだ。

D

D

*1:たぶん。