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2007-10-21(日)

 「オタク」が死ぬ日。


 NHKのETV特集「21世紀を夢見た日々 −日本SFの50年−」を見た。

 タイトルこそ「50年」だけれど、じっさいにはその前半の20年くらいが中心。

 終戦とともにアメリカからSF小説が上陸、その影響を受けて『SFマガジン』が創刊され、日本にSFが広がっていった「日本SFの青春時代」を生き生きと描き出した番組だった。

 『機動戦士ガンダム』や『攻殻機動隊』の映像は入っているのに、『宇宙戦艦ヤマト』だけ映像がないところが苦笑ものだったけれど、全体的に丁寧にまとめられていたと思う。再放送の予定がないことが惜しまれる。

 それにしても、最初期の「日本SF作家クラブ」はめちゃくちゃおもしろそう。

 まだ見学者もほとんどいない原子力研究所に集団で押しかけ、「まずは原子を見せてくれ」と求めるなど、その行動はツッコミどころ満載。

 のちには日本SF界の重鎮になり数々の名作を発表していくひとたちなのですが、行動だけ見るといたずらざかりの小学生と変わりません。あんたらは子供かvv

 当時、SFは社会的に全然認められていない状況だったわけで、数すくない同志たちはそれはもう萌え萌えな仲のよさ。一晩中飲み明かして馬鹿話を繰りひろげたことも数知れないとか。

 才能と稚気あふれる面子で偉そうな文壇を敵にまわしてたたかう日々はさぞ楽しかったことでしょう。たぶん、山本弘さんあたりは、いまでもSFにこの頃のイメージを抱いているのでしょうね。

 そして若々しい青春の60年代を過ぎ、70年の大阪万博を経て、日本SFは「拡散と浸透」の70年代を迎える。

 小松左京の『日本沈没』が400万部のベストセラーを記録したり、『宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』といった名作アニメが誕生したりしたことによって、SFは一気に市民権を得る。

 しかし、あとから考えてみれば、この頃が日本SFにとってひとつの絶頂期だったことになる。

 SFはたしかに浸透し拡散したが、そのことによってアイデンティティを失ってしまい、90年代にはついに「冬の時代」とささやかれることになる。

 その頃のことはぼくもリアルタイムで知っているんだけれど、ま、いろいろと大人げない「内紛」が起こったりもしていたみたいですね。「SFクズ論争」とか、ほんと、不毛なやり取りだったよ。

 番組はここらへんのことはさらりと流し、60年代、70年代のSF文化が、2000年代のオタク文化につながっていることを暗示して終わっている。

 何でも同じだろうけれど、文化は、やっぱり勃興期がいちばん活気に満ちていると思う。

 既存の権威からあなどられ、ばかにされ、いまに見ていろと闘志を燃やす、そんな頃が、あとから見ればもっともおもしろい時代だったりするわけだ。

 そういう意味では、わがオタク文化は既にその季節をはるかに過ぎ、「浸透と拡散」の時代を迎えつつあると思う。日本SFが70年代に経験したものを、オタク文化は2000年代に経験しつつある。

 もちろん、そこにはSFが味わったのと同じ質的変貌が伴う。ただ、これはもう、仕方がないことだと思うんだよね。

 畢竟、文化にも寿命がある。SFだろうがロックだろうがオタクだろうが、いつまでも青春のかがやきのなかに佇んでいることは出来ない。

 朝日を持ち上げて中天をめざしているつもりでも、いつかは、たそがれが忍び寄ってくる。

 じっさい、オタク文化の「祭りの季節」は既に過ぎてしまったんじゃないかな。「萌え文化」だけに限っても、いちばんおもしろかった時期は過去のことだと思う。

 これから先、さらに多様化し、また質的に向上していくだろうけれど、もう革命的なものはそう出て来ないはず。

 いつも思うんだけれど、『らき☆すた』の何がおもしろいのかわからないといっていたひとたちは、『シスタープリンセス』あたりのことはどう思っているんでしょうね。あっちのほうがはるかに革新的だったと思うんだけれど。

 そして、いつの日か、「オタク」は死ぬだろう。「SF」が死んだように。

 「オタク」という概念が時代遅れになり、使い物にならなくなってごみ箱に放り込まれる日が、いつかかならずやって来る。

 10年後か、20年後か、あるいはもっとあとか、それはわからないが、ポップカルチャーのコンセプトには耐用年数があるものだ。

 それはある意味ではオタク文化の終焉の日であり、べつの意味では、解放の日でもあるだろう。

 SF文化が、「SF」という概念から離れてなお拡散しつづけているように、広い意味でのオタク文化は、「オタク」というコンセプトが時代遅れになったあとも続いていくと思う。

 もちろん、それは、2007年のオタク文化とはあまりにも変わり果てたものになっているに違いない。きっとそうなったら「昔は良かった」といいだす奴もいることだろう。

 その日をこの目で見てみたい。

「君の文章はたしかに抜群に光ってる。だが、既にロックの全盛期は過ぎているんだよ。おしまい。ロックはいま断末魔にあえいでいる。瀕死の重症。息も絶え絶え」
「じゃあ、臨終を見届ける」

――『あの頃ペニー・レインと』