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Something Orange このページをアンテナに追加

2008-02-25(月)

青年マンガとしての『3月のライオン』。


3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)

3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)

 ヒット作『ハチミツとクローバー』を見事に完結させた羽海野チカ、待望の新連載である。

 主人公は16歳の少年棋士。両親を失い、養父からも離れて、ひとり都会をさすらう少年の孤独な日々が淡々と綴られていく。今年最も注目を集める作品のひとつだろう。

 もちろん、その内容は期待に恥じない。第1巻の段階ですでに傑作の風格を感じさせる作品だ。マンガ好きならずとも一読するべき作品といえる。

 一般に、ヒット作を出した作家の「次」は、同工異曲となりかねないものだが、この作品で羽海野はいままでのセンスやユーモアを活かしながらも新境地を切り開いている。まだまだ物語は始まったばかり、読みはじめるならいまである。

 『ハチクロ』で一世を風靡した羽海野が、この新連載で青年誌に移ったことは、ニュースだった。

 『ヤングアニマル』の代表作品といえば、『ベルセルク』、『ふたりエッチ』、『ホーリーランド』、そして『デトロイトメタルシティ』、いずれもセックスとバイオレンスにあふれた作品ばかり。羽海野が『ハチクロ』で築き上げた清純なイメージとはかけ離れている。

 しかも題材は将棋。連載が始まるまでは、いったいどんな作品になるのか想像もできなかった。しかし、じっさいに読んでみると、まさに羽海野チカであり、しかも男性が読んでも全く違和感を感じない内容である。

 そもそも、羽海野チカと青年誌の漫画とはそれほど大きな落差があるだろうか?

 たしかに表面だけを見れば『ハチクロ』は清純な恋愛漫画であり、『ヤングアニマル』の連載作品は暴力的である。光と闇、白と黒、女性向けと男性向け、それぞれの世界は遠く隔たっているように見える。

 しかし、その実、より本質的な部分では共通するものがあるのではないだろうか。たとえば、この作品を『ホーリーランド』と比べてみると、主人公の同時代性がはっきりする。

 かれらは都会のなかで居場所を見つけられずにさまよう少年である。頼ることができるものは自分の才能だけ。その才能が、一方は暴力であり、もう一方は棋力であるという違いはあるが、決して表面的に見えるほど異質な作品ではないと思う。

 信じられるものは何か? 自明のように思えたことが見えなくなりつつあるこの時代に羽海野がどんな回答を示すか、期待とともに見守ることにしたい。