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Something Orange このページをアンテナに追加

2008-03-04(火)

どこまでが殺しても良い範囲か?


HUNTER X HUNTER25 (ジャンプコミックス)

HUNTER X HUNTER25 (ジャンプコミックス)

 第25巻。

 『HUNTER×HUNTER』の待ちに待った最新刊です。

 皆さんご存知の通り、生き馬の目を抜く少年誌で2年近く休載するという「問題作」であるわけですが、そんなことが許されるのは内容が圧倒的におもしろいから。ここまでやられたらもう★★★★★付けるしかないよ!

 この巻からは休載後の10週ぶんの内容がすべて収録されています。パッと見たところでは加筆修正は少ないようだけれど、この内容がまとまっただけでも感謝するべきでしょう。

 連載のほうは単行本1冊ぶんにあたる10週間連続で掲載し、その後休載するという『ファイブスター物語』形式になった模様。月刊誌に比べれば必ずしも遅いペースではないわけで、これはこれで良いのでは。もうこの際、新作が読めれば何でも良いよ。

 内容にかんしてはすでにあちこちで語りつくされているので、改めてぼくの口からいうことはありません。この1冊でわずか数分しか時間が進んでいないのですが、そのぶん、高密度の展開が楽しめます。往年の『SLAM DUNK』を思わせる内容ですね。

 見所は何といっても変質していく王でしょう。初めて登場したときは冷酷非情の怪物を思わせたこの名無しの王は、その後、コムギとの対決を経て変わっていきます。

 ひと言で「成長」といえない辺りがこの作品の奥深さ。より「人間的」になったように見えるものの、はたしてそれが何を意味するのか、予断を許さないものがあります。

 しかし、この戦いが終わったら次は何を描くつもりだろう。すでに極北に近づいている気がするんだけれど……。

 ペトロニウスさんがいつか書いていたけれど、結局、『HUNTER×HUNTER』って、「殺してはいけない範囲」を巡る倫理の物語なんだよね。普通、人間は、すべての人間を「殺してはいけない範囲」に含めている。

 逆にいえば、人間と動物で「殺しても良いライン」を定めているわけだそして、アニマルライツ論者は動物をも「殺してはいけない範囲」に含める。

 ところが、作中に登場する幻影旅団のような犯罪者たちは、仲間以外の人間を平然と殺す。かれらにとっては自分の仲間だけが「殺してはいけない範囲」に含まれているわけだ。

 そして、誇り高きキメラアントの王にとっては、自分以外の生き物はすべて「殺しても良い範囲」に含まれている。「自分」と「それ以外」でラインを定めているわけである。

 かれにとっては人間と動物を区別することは無意味だ。なぜなら、かれは人間ではないのだから。ここまで来ると、もはやヒューマニズムで善悪を語れる問題ではない。人間以外の存在に人間的な倫理を押しつけられるわけがない。

 しかし、そんな王も、脆弱なコムギとの対局を通じて、徐々に変貌していく。王の力ならばコムギを殺すことなど一瞬で済む。しかし、まさにそうだからこそ、かれはコムギを殺そうとはしない。

 これは、王の「殺してはいけない範囲」が広まったことを意味しているのだろうか? いや、むしろただ「殺さない」という意思の問題としてみるべきだろう。殺しても良い。しかし、殺さない。倫理を超えたレベルでの判断がここにある。

 物語は続く。