ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

Something Orange このページをアンテナに追加

2008-03-12(水)

孤機、敵中翔破12000キロ。


とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

「貴様にひとつ、重大な任務を託したい」

 シャルルの上官は何気なくそう切り出した。

「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」

 物語の始まり。

 無限に続く大海原をふたつに分ける大瀑布、その大瀑布により分断されてきたふたつの国家が遭遇し、戦争が続いている時代。

 神聖レヴァーム皇国の人間でありながら敵国の血を引いていることから差別され続けてきたシャルルは、ある日、そのたぐいまれな空戦技術を見込まれ、「光芒五里に及ぶ」美しさの姫、ファナを乗せ、敵中を単機翔破する任務を請け負う。

 一方は地獄のような地上で虫けらさながらに這いずりながら生きてきた青年。他方ははるかな天上で仮面の下に自分をかくし暮らしてきた少女。本来なら出逢うはずのないふたりを、皮肉な運命は引き合わせたのだった。

 そして、たったふたりで海上をさまよう命がけの旅のさなか、シャルルとファナのあいだに仄かな恋心が芽生えていく。

 しかし、地上で最も高貴な身分の姫と、最も卑しい一飛空士、しょせん実るはずもない身分ちがいの恋である。飛べば飛ぶほどに恋の終わりへ近づく矛盾を抱え、このまま世界の果てまで逃げ出したい、そう思い、そう願いながら、ふたりは味方の陣地をめざす。

 はたしてさいごにかれらを待ち受ける運命とは?

 行く先々で絶賛されているので、ずいぶんひさしぶりにライトノベルを読んでみた。なるほど、これは掘り出し物。

 上にまとめたあらすじだけですでに設定だけで燃えるものがあるけれど、じっさいにはそれ以上におもしろい一冊。

 すでにあちこちで語られているけれど、その内容をひと言で表すなら、『紅の豚』+『ローマの休日』。海の青と空の蒼のほかは何もないはてしない海洋の世界を背景に、シンプルきわまりないど直球のプロットで挑んだ快作だ。

 一作で綺麗にまとまっているので、「ライトノベルを読んでみたいけれど、長すぎるのはちょっと」という向きにもお奨め。これでもかというほどロマンティックかつセンチメンタルな物語を楽しめる。

 これもあちこちで書かれているけれど、このラストシーンは素晴らしいですね。それまでの物語のすべてがこの一点に集約するよう計算して書かれていることがよくわかる。

 印象にのこる風景という意味では、いままでのライトノベルの歴史のなかでも屈指の名ラストシーンといえるかもしれない。

 一方、迫力ある空中戦も見逃せない。とくにクライマックス、一対一のラストバトルは空戦ものの魅力に満ちている。

 ともに超一流の技量のもち主同士、墜とすか、墜とされるか、細い縄のうえで綱渡りするようなたたかいが続く。名勝負である。

 いかにもライトノベルらしく読者を選ぶところも随所にあり、「万人にお奨め」とはいえないかもしれないが、切なくも熱い物語を求める向きには安心してお奨めできる。

 売れるといいな。

Connection: close