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2009-06-12(金)

『ラーメン発見伝』を読んで『バクマン。』を考える。


 久部緑郎&河合単の『ラーメン発見伝』が佳境に入っている。たぶん、あと数週で最終回になるだろう。この機会に、未読の方々にお奨めしておく。

 ひと言でいうと『美味しんぼ』のラーメン版のようなグルメ漫画なのだけれど、様々な点で『美味しんぼ』を乗り越えていると思う。

 たとえば、『美味しんぼ』の海原雄山にあたる主人公の宿敵、芹沢の造形である。

 あくまで優秀なアマチュアラーメンマニアに留まっている主人公に対し、芹沢はプロフェッショナルの権化のような存在として描かれる。

 常にビジネスとしてのラーメンを考え、客の嗜好を計算に入れてラーメンを作る芹沢は、「優秀なアマチュア」に過ぎない主人公の一歩上を行く。

 ところが、先週、主人公は遂に芹沢を破った。そこで芹沢がもらす独白が痛々しい。

『らあめん清流房』を始めた頃… オレは、自らの理想を具現化した「淡口らあめん」一本で勝負し… 失敗した。 客は、化学調味料と油がたっぷり入ったラーメンの方がうまいと言った… ヤケになったオレは、コッテリ志向に迎合した「濃口らあめん」を出してみた… なるようになれという気分だった。 ところが皮肉なことに、それが大当たり。店は、息を吹き返した… 『らあめん清流房』の成功は、俺が客を信じることをやめたところから始まったわけだ。 (中略) 藤本クンのラーメンには、一点の迷いも感じられない。自分がうまいものは、客だって、うまいはずだという信頼感に溢れている… しかし、いや、やはり、オレは… 客を信じ切れなかった… オレの…… 負けだっ!

 芹沢の敗因は、プロになりすぎたところにあるといえるかもしれない。あまりにも客を意識しすぎたかれは、最後の瞬間、客に媚びてしまったのだ。

 それまで、プロに徹することで主人公を圧倒してきた芹沢が、まさにそのことによって敗れる。この漫画を象徴する名場面といえると思う。

 この漫画がおもしろいのは、ラーメンを題材にしていながら、一種のサブカルチャー論としても読めることだ。

 たとえば、この作品で描かれる思想は、ラーメンを漫画と読み替えても成り立つ。その場合、「客」は「読者」になるだろう。

 そういう意味では、『バクマン。』の秀才と天才の構図を逆転させて描いている、ともいえる。「すべてを計算して構築するプロフェッショナル」が「未熟な天才」の前に立ちはだかる、という構図である。

 そして、最終的にそのプロフェッショナルが敗れ去ったということは、この漫画は「客(読者)を信じる」ことを是としていることになるだろう。

 しかし、一方で、客(読者)と作り手(作家)のセンスや価値観が違っていれば、ビジネスが成り立たないこともシビアに描かれている。

 ようするに、作り手と受け手の感覚が高い水準で自然とマッチすることが理想であり、そのためには作り手、受け手、双方の努力が必要である、といっているように思える。

 これは、「計算」と「天然」を二元論的に分けて考える『バクマン。』の思想の、さらに先にある考え方といっていいのではないだろうか。純粋な「計算」や単なる「天然」を止揚した境地がある、ということか。

 それが正しいのかどうかはぼくにはまだ判断が付かないけれど、ここまで長く思索を深めてきた作品のひとつの結論として、尊重したいと思う。

 さて、この先の『バクマン。』がどう進むのか、楽しみにするとしよう。

ラーメン発見伝 (1) (ビッグコミックス)

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バクマン。 1 (ジャンプコミックス)

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