2009-07-01(水)
恋が女をダメにする。
さっきまでかんでさん(id:kande-takuma)とスカイプで長話をしていたんですけれど、なかなか興味深い内容だったので、書きとめておきます。
何の話かというと、小説や漫画における女性人物の話。なぜそんな話になったのか憶えていませんが、とにかくもっと魅力的な女性人物を見たいよね、という話題で盛り上がったのでした。
ここでいう魅力的な女性人物とは、単に「可愛い」キャラクターを指すわけではありません。そういうキャラクターならもちろん、たくさんいる。
そうではなく、最も魅力的な男性人物に伍して対等に渡りあえるだけの魅力と、存在感と、「格」を備えた人物のことを指します。
もちろん、ぼくも「可愛い」女の子は好きだけれど、しかし、それほど強く惹かれるわけではない。いってしまえば、「可愛い」という時点でもうダメなんですね。なぜなら、「可愛い」という言葉を使う時、既に上から目線になっているから。
たとえば、『ゼロの使い魔』のルイズなどは、心から可愛いと思いますが、「ああ、可愛いね」で済んでしまうところがある。
そういうキャラクターでは、ぼくは物足りないのです。そういう次元を超越した、強烈な魅力のあるキャラクターをこそ見てみたい。
過去に比べれば多様な女性人物が登場するようになった現代の小説や漫画にも、そこまでの人物はいまでもなかなかいないよね、という話を、かんでさんとはしたのでした。
たとえば、これも何度か書いていることですが、栗本薫『グイン・サーガ』に登場する女性人物は、アムネリスにせよ、リンダにせよ、あるいはリギアにせよ、あきらかに男性人物より「格」が落ちます。
少なくともぼくの目にはグイン、イシュトヴァーン、アルド・ナリスといった男性陣と対等の「格」を備えているとはとても思えない。
いや、初めに出てきた時はそれなりの「格」がある人物に見えるんですね。
アムネリスの場合、出てきた時は本当に格好いいんですよ。祖国モンゴールの存続を考え、そこにかくされた秘密を探るべく、前人未到の秘境ノスフェラスに分け入る若き女将軍、という印象で、颯爽たるものがある。
なぜ颯爽としているかといえば、ようするに国家のこと、世界のことを考える視野の広さがあるからだと思います。
ところが、その彼女も、アルド・ナリスと出逢い、恋に落ちた時点で一気に「格」が落ちる。ただ恋のことしか考えられないひとりの美貌ではあるが平凡な女性に変わってしまうんですね。
これを、ぼくは「恋愛至上主義の罠」と呼びたいと思います。
アムネリスは非常に象徴的な一例ですが、一般に、いったん恋愛至上主義に陥ると、そこでそのキャラクターの「格」は落ちてしまうのです。
なぜなら、視野が狭くなるから。恋愛とは、基本的に二人いればできるものですから、恋愛至上主義に陥った人物は、自分たちふたりのことしか考えられなくなってしまうのですね。そうなると、もう、ぼくの目で見て格好よくは見えなくなってくる。
アムネリスさんは、その後、ナリスに騙されていたことを知り、「復讐の女神」と化すわけですが、それでもやはり視野が狭い。復讐という個人的な動機しかもっていないわけですから。
このように、栗本の『グイン・サーガ』では、初め大志と大望をもって登場したかに見えた女性人物が、最後には恋愛至上主義に捕らわれてしまう、という構図がくり返されます。
リンダにせよ、イリスことオクタヴィアにせよ、本来、もっと活躍に値する能力があるはずなのに、恋を選んでしまうのですね。
男性人物でも、アストリアスのように「恋愛至上主義の罠」に捕らわれてしまった例はありますが、そうなるとやはり非常に「格」が下の印象を受けます。
やはり恋愛至上主義はキャラクターの「格」を劇的に下げる。
同じことが樹なつみさんの漫画にもいえると思います。彼女の作品を読んでいると、初め魅力的に登場した女性がさいごには恋愛至上主義に陥るというパターンが散見される。
たとえば、『花咲ける青少年』には、花鹿とナジェイラというふたりのヒロインが登場するのですが、ふたりとも、物語の後半になっていくにつれ、初めの活き活きとした魅力を失っていくように見える。
特に、初めは王家の巫女として、野性的な魅力を放つかに見えたナジェイラは、クインザという男に恋し、騙され、利用されるという、まさにアムネリス的なパターンをなぞることになります。
ようするに「ただの女の子」になってしまうのですね。これがぼくにはどうにも物足りなかった。
恋愛とは、いってしまえばだれにでもできることですよね。もちろん、成就するかどうかはわからないけれど、ただ恋するだけならばほとんどだれにでも可能であるはず。ぼくはそのひとにしかできないことをしているキャラクターにこそ魅力を感じるのです。
その意味で「恋愛至上主義の罠」は魅力的なキャラクターを殺してしまう非常に危険な「罠」だといえます。
それとは違いますが、男性作家の作品でも、たとえば田中芳樹の小説を読んでいても、やはり男性陣に比べると、女性陣は弱い、と感じてしまいます。
『銀河英雄伝説』は名作ですが、最も魅力的な男性人物、たとえばオスカー・フォン・ロイエンタールに匹敵するほど心にのこる女性はほとんど登場しません。
ロイエンタールは栗本のアルド・ナリスと同じく、女性という女性を見下しているわけですが、そのかれをしてこれは、と思わせるほどの女性は遂に物語にただのひとりも登場しませんでした。
これは必然だと思います。そして、ぼくは、アルド・ナリスに匹敵する女性人物、ロイエンタールが一目置くほどの女性人物を見てみたいのです。それがぼくのいう「魅力的な女性人物」です。
たぶん、こういう考え方をもっているのはぼくだけではないはず。少女漫画の人気が凋落し、女性読者が少年漫画に移ってきているといわれていますが、これはようするに女性読者が恋愛至上主義漫画に飽き足らなくなってきているということなんじゃないかな。
ここ最近、爆発的に人気が出た少女漫画というと、『NANA』でしょ、『のだめカンタービレ』でしょ、『ハチミツとクローバー』でしょ、どれも恋愛漫画ではあるけれど、しかし決して単なる恋愛至上主義ではないですよね。
『NANA』や『のだめ』では音楽、『ハチクロ』では美術というもうひとつの世界があって、そちらの方にも力点が置かれている。特に『ハチクロ』では、最終的に恋愛よりも芸術の方が選択されます。
そういう作品だからこそ広く支持されている、という側面があるんじゃないか。
もちろん、ぼくには女性読者が何を考えているのか本当のところはわからないけれど、少年漫画を読む女性読者が増えた背景には、そちらの方が女性たちにとってより自由で、魅力的な世界に見えているということなんじゃないか、と思うわけです。
また、「恋愛至上主義の罠」という考え方は、たとえば『魔法先生ネギま!』や『新世紀エヴァンゲリオン』辺りにもあてはまります。
『ネギま!』という物語は、登場する女の子たちが次々とネギに恋に落ちていく、つまり陥落していくというハーレム的な構図をもっています。
そしてネギに恋してしまい、ネギのことばかり考えるようになってしまった女の子たちは、ぼくの目から見ると、やはり「格」が落ちているように見えるのですね。ネギ本人にとって恋愛のことはよりウェイトが軽いわけですから。
そういう意味で、超(チャオ)は魅力的な敵役でした。さいごまでネギに対抗し、拮抗するだけの「格」を備えていた。そのまま物語から退場してしまったので、これから「格」が落ちる心配もありません。
同様に『新世紀エヴァンゲリオン』のミサトやリツコも、男たちに恋をした時点で、その男たちよりも「格」が低いキャラクターに見えてしまったことは否めません。
ただ、『ヱヴァ』では少し異なるようですが――これは、ネタバレになってしまうから書けないですね。綾波の「ぽかぽか」の話なんかもしたんだけどな。
そういえば、『ペルソナ4』には登場する女性人物と恋愛できるシステムが用意されていたのですが、ぼくから見ると、好感度が上がり、主人公に恋に落ちると、一気にそのキャラクターの魅力は褪せてしまったように思えたものでした。
これも「恋愛至上主義の罠」の問題でしょう。「恋愛至上主義の罠」はしばしば魅力的な女性人物の視野を狭め、そのキャラクターの「格」を落としてしまうということ。
ただ、いうまでもなく、これはぼく(とかんでさん)の非常に偏った価値観に基づく話に過ぎませんし、あるいは、既にそういう人物はたくさんいる、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
また、アムネリスとかナジェイラみたいなキャラクターが好きだというひともいるでしょう。『ネギま!』にいたっては、ぼくたちのような考え方の方が少数派なのではないかという気すらします。
けっきょく真夜中の雑談でしかないので、あまり客観性のある話とはいえないでしょう。
とにかく男だけで考えていても埒があかない話ではあるので、可能なら女性の意見がほしいところです。
現代の女性読者って、ぼくのいうところの「魅力的な女性人物」を求めているんでしょうか? それとも、異なる価値観をもっているのでしょうか?
じっさいのところ、どうなんでしょうね?
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