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2010-06-16(水)

とにかくまずこれくらいは押さえておくべき少女漫画二〇作。



 出来ればお暇なときにでも、お勧めしたい、または一度読んで見てもらいたい少女マンガ一覧を作っていただけるとありがたいなぁと思い、メッセージを送りました。
 昔の漫画というものに対してアプローチをしようと思っても、時間的制約や金銭的制約の中でなかなか思いっきり手を出すことが難しいです。しかし、読むべき漫画というものは少なからずあるのではないかのように思いました。出来れば一度、多くのお勧めを出してほしいです。

 少女漫画、少女漫画ね。ちょうど昨日、かんでさんと話をしていて、「少年漫画と少女漫画、もし片方だけをのこして二度を読めなくなるとしたら、それはまあ少女漫画を選ぶよね」という話をしたのですが、ええ、好きですね、少女漫画。

 まあ、いまの作品だけを見ればあるいは少年漫画を読んでいた方がよほどおもしろいかもしれないけれど、少女漫画には過去の財産がありますからね。

 およそ文学でも、芸術でも見ないような天才、奇才がたくさん現れ、それぞれの麗質を最大に発揮して数々の傑作、名作を生み出してきたのが、日本の少女漫画の歴史です。その広大なる世界!

 どう生きようとしょせん一○○年足らずの人生、少女漫画を読まずして死ぬなかれ、とすらぼくは思う。

 といってもぼくも古今の名作を片端から読んでいるというわけでもないので、けっこう読み逃しがあるのですが、まあ、ぼくのしっている範囲で必読の作品をいくつか挙げておきたいと思います。順不同。

 ちなみにぼくのベスト・オブ・少女漫画はめるへんめーかーの『森にすむ人々』です。まあ、大半のひとがしらないであろうマイナーな作品ですが――でも好きなんだよう。いい話なんだよう。

 さて、では、どこから話しはじめましょうか――まずは24年組の代表作を端から、とかいいだしているとさすがに長すぎる記事になってしまいそうなので、有名どころを10作、ではさすがに少ない、20作に絞って紹介することにしましょう。あの作家もこの作品も入っていませんが、まあ仕方ない。では、行きましょう。

・萩尾望都「半神」

半神 (小学館文庫)

半神 (小学館文庫)

 萩尾望都から一作。あまりにも有名な傑作短編です。なぜ、『ポーの一族』や『トーマの心臓』や『メッシュ』や『銀の三角』や『残酷な神が支配する』や――とにかく数ある名作長編ではなくて、「半神」なんだ、というひともいるかと思いますが、まずこの作品を読んでもらうのが萩尾望都の天才をいちばんよくわかってもらえると思うのです。

 もちろん、『ポー』や『トーマ』も傑作なんだけれど、抽象的で難解なところもある。『銀の三角』にいたっては何度読んでもよくわからない。『残酷な神が支配する』から入ると酷烈すぎて拒否反応を示す可能性がある。その点、『半神』はわかりやすい。

 といってもわからないひとにはわからないかもしれませんが――これを読んで何も感じないようなら少女漫画読むのはやめた方がいいのでは、とすら思いますね。

 わずか16ページの小宇宙、そこに込められた絶望、暗黒、再生、愛情、憎悪、そしてただしたたり落ちる涙――名作とはこの作品のためにある言葉でしょう。

・竹宮恵子『地球へ…』

地球へ… 1 (Gファンタジーコミックススーパー)

地球へ… 1 (Gファンタジーコミックススーパー)

 竹宮恵子から一作。この方も幾多の名作を物しておられる斯界の超大物ですが、そのなかから一作を選ぶならこれかな、と。少年愛描写に抵抗がないなら『風と木の詩』も必読ですけどね。でも、あれは痛くて痛くて――わりと好みが分かれると思います。

 あと、『ファラオの墓』も良いんだけれど(スネフェル萌え!)、竹宮さんから一作選ぶのにあれを選ぶのは趣味に偏りすぎかなあ、という気が。

 で、『地球へ…』。最近テレビアニメ化されましたが、やはり原作を読むべきだと思います。作中のSF描写はいまとなっては古びていますし、その他にも時代を感じさせるところは多々ありますが、そういう次元を超えて名作だと思う。

 人類のなかの異分子、反逆者ミュウと、人間たちのたたかい! そしてすべては地球(テラ)へと収束する――その緊密な構成よ! いまなら全20巻の大作になるところを、非常にタイトにまとまっているので、読みやすいはず。名作中の名作ですね。

・山岸凉子『アラベスク』

アラベスク 完全版 第1部1 (MFコミックス)

アラベスク 完全版 第1部1 (MFコミックス)

 萩尾望都、竹宮恵子と来たら、やはり山岸涼子を挙げておくべきでしょう。本当は大島弓子の『綿の国星』とかも挙げておくべきなんだろうけれど、どういうわけかぼくは大島弓子の良き読者じゃないんだよなあ。ふしぎと惹かれない。何かチャンネルが合わない感じ。妙なものですね。

 で、山岸凉子から代表作を一作、となったら普通は『日出処の天子』を選ぶのかもしれないけれど、ここは『アラベスク』を選んでおきましょう。山岸凉子畢生の大作、バレエ漫画の金字塔です。

 のちに山岸さんは『舞姫 −テレプシコーラ−』でふたたびバレエ漫画に挑み、そして見事な成果を挙げるのですが、それもこの『アラベスク』の達成があってこそ、です。

 すべての試練を乗り越えてさいごに主人公ノンナが踊る、ラ・シルフィードの、その、時をとめるかのようなうつくしさ――美の持つ力を感じさせる漫画です。

 バレエ漫画には名作が数々ありますが、ぼくにとってはまずなんといっても『アラベスク』!なのです。

・美内すずえ『ガラスの仮面』

ガラスの仮面 1 (花とゆめCOMICS)

ガラスの仮面 1 (花とゆめCOMICS)

 そして、そして、『ガラスの仮面』! おお――『ガラスの仮面』! まあ、ある意味荒唐無稽の極みみたいな漫画ではありますが、でも、世の中にこれほどおもしろい物語があろうかというほどおもしろい、ストーリーテリングの教科書みたいな作品です。

 おそらく、日本の歴史で最もつよく完結を求められた作品なのではありますまいか。それにもかかわらず、永久に完結しそうにないところが悩ましいわけですが、それでもこれは読むべき。波乱万丈、疾風怒涛のおもしろさ!

 たしかに絵柄は古いし、内容も古いのだけれど、一読すればそんなことは全く気にならないはず。とにかく、先が気になること気になること。

 不世出の演劇の天才、北島マヤ。そのライバルとして、絶対の天才に追いつこうと研鑽を続ける姫川亜弓。ふたりの少女のぶつかり合う姿に全く惹かれないひととは、ぼくは友達にはなれませんね。巧みに盛り込まれた劇中劇の数々も見物。ぼくは『女海賊ビアンカ』が好きですね。

・池田理代子『ベルサイユのばら』

ベルサイユのばら 1 (フェアベルコミックス)

ベルサイユのばら 1 (フェアベルコミックス)

 で、『ベルサイユのばら』です。『ベルばら』! しらないひとはいないでしょう。フランス革命前夜のフランス王国を舞台に、架空の人物オスカルとアンドレを配し、ドラマティックかつオリジナリティ豊かに描き出した史劇漫画の傑作。

 読んでいないひとは案外かるく見ているかもしれませんが、その内容の密度は驚くべきものがあります。

 しかしまあ、なんといってもその最大の功績はオスカルというキャラクターを生み出したことにあるでしょう。男装の麗人数あれど、ただひとりといえば、これはオスカルということになるはずです。

 現代の視点から見ると大仰ではあるかもしれないけれど、すべてが革命と悲劇へと転がり落ちていくその構成の妙は、いまのぼくたちにも訴えかけてくるものがあるはずです。

 この作品がもしなかったら、田中芳樹の『銀河英雄伝説』もああいうかたちではなかったかもしれない――そんなことを思わせる世紀の名作。ぼくは高校の図書館で読み耽りました。

・魔夜峰央『パタリロ!』

パタリロ! (第1巻) (花とゆめCOMICS)

パタリロ! (第1巻) (花とゆめCOMICS)

 『パタリロ』です。とひと言でいって説明を終えてしまいたいくらい有名な作品ではありますが、案外読んだことがないひとも少なくないかもしれません。

 というのも、長い。少女漫画史上最長の作品だからです。ひとつ少女漫画だけではなく、日本のギャグ漫画でも最も長い作品だと思います。

 最近はさすがにマンネリの気配もありますが、しかし、初期のおもしろさといったらない。マリネラ国王にして超絶の頭脳を持つ天才少年パタリロの八面六臂の活躍(と大失敗)がコミカルに描かれます。

 この作品のすごいところといえば、エンターテインメントのあらゆる領域を制覇しているところでしょう。SFになったかと思えば、ときには推理ものにもなる。魔界の大冒険を描いたかと思えば、タイムスリップして史劇を描いたりする。

 とにかく節操がないといいたいくらい、さまざまな展開で満ちているのです。それはまあ、八十巻近く続いていれば一通りのことはやりつくしてしまうでしょうが、それにしても――の名作です。

・一条ゆかり『プライド』

プライド (1) (クイーンズコミックス―コーラス)

プライド (1) (クイーンズコミックス―コーラス)

 一条ゆかりはあるいは過小評価されている作家かもしれません。少女漫画を代表する大御所であることは間違いないのですが、24年組のような半ば神格化といいたくなるような高い評価とはそれほど縁がない気がします。

 しかし、少女漫画のある側面を代表する作家であることはたしかでしょう。男性的な評価軸からずれたところで、最も少女漫画らしい作家、それが一条ゆかりなのではないでしょうか。

 その、綺羅星のような作品からひとつ、と考えたとき、最新作である『プライド』を選ぶことにしたのは、いちばん一条ゆかりらしい作品であると考えたからです。

 その結末には実は不満がないこともないのですが――けれど、全体を通してみると、まさに一条ゆかり、絢爛、豪華、そしてひととして生きることの凛然たるプライドに満ちた、華やかなことこのうえない傑作です。

 オペラの世界で華を競うことになったふたりの少女のたたかいを通して、一条さんはこう問うているかのようです。誇り高い生き方とは何なのか、と。

・清水玲子『月の子』

月の子 (第1巻) (白泉社文庫)

月の子 (第1巻) (白泉社文庫)

 少々世代が下がって、清水玲子の『月の子』。このひとも『輝夜姫』だの、『秘密』だの、代表作には事欠かない方ですが、ぼくはなんといっても『月の子』を挙げたい。

 この頃の清水作品の絵柄の繊細なこと。そのイラストレーションの麗しさだけでも読む価値があるといっても過言ではないでしょう。もちろん、物語もおもしろい。

 おもしろいなんて通り一辺倒の表現で済ませられるものではなくて、それはもう、深い、暗い闇の迷宮をさまようような展開が続きます。

 それではダークなだけの内容なのかというとそんなことはなく、少女漫画史上これほど華麗な作品もまたとはないのではないか、と思わせるほど気品高く典麗なイメージがあふれんばかりに登場します。

 何しろ産卵のため宇宙の彼方から地球へ帰ってくる人魚たち、というイメージからして美しい。そしてあのクライマックス! チェルノブイリ原発を巡って戦いあう人魚たちの聖戦の向こうにあるものとは? それはご自身の目でお確かめを。

・成田美名子『CIPHER』

Cipher (第1巻) (白泉社文庫)

Cipher (第1巻) (白泉社文庫)

 成田美名子から『CIPHER』をお薦めさせていただきます。

 このひとも一作、となると悩むところ。それはもう、『エイリアン通り』もある。『NATURAL』もある。ぼくは『NATURAL』が非常に好き、というかほとんど生涯の指標として崇めているといってもいいくらいなんですけれど、でも一作となると、やはり代表作『CIPHER』を選びたい。

 なぜ、この作品が成田美名子の代表作なのか。それはきわめて奥深いテーマを扱っているからです。外見では全く区別できないほどよく似た双子の青年を扱ったこの物語は、成田さんの世界が、それまでのひたすらに華やかなものからひとの深層心理の闇を扱ったものへと変わるそのプロセスをそのままに表しています。

 中盤であきらかになるふたりの暗い過去、そして起こる衝撃的な事件を経て、大いなる和解へといたる展開は、涙なしには読めません。「赦し」の作家、成田美名子の本領発揮の名作です。ぜひ、ご一読ください。あなたのしらない世界がそこにあるかもしれません。

・川原泉『笑う大天使』

笑う大天使(ミカエル) (第1巻) (白泉社文庫)

笑う大天使(ミカエル) (第1巻) (白泉社文庫)

 川原泉から『笑う大天使』を。本当は『銀のロマンティック…わはは』の神がかり的な表現を推したい気もちもあるのだけれど、ここはやはりわが最愛の『笑う大天使』を挙げておきましょう。

 寡作といえば川原泉、川原泉といえば寡作、というくらい作品数が少なくなってしまった最近の川原さんですが、しかし、この人は天才です。

 どこがすごいのか。それは作品全体がメタ少女漫画というか、少女漫画のパロディになっているところ。生真面目に少女漫画をやるのは何だか照れる、そんな柄でもない、しかしそれでも耽美華麗な世界には憧れる――そんな想いが、川原泉のオリジナルな世界を生み出したのではないかと思います。

 とにかく、このひとの作品は読んでもらうよりほかにない。最近の作品からはその天才の輝きが失われたように見えることがざんねんではありますが――とにかく『笑う大天使』と、『銀のロマンティック…わはは』と、そして短編の「架空の森」くらいは読んでおいてもらいたいところですね。

・吉田秋生『BANANA FISH』

Banana fish (1) (小学館文庫)

Banana fish (1) (小学館文庫)

 ぼくは吉田秋生の良い読者ではありません。『吉祥天女』も読んでいないくらいで――いつか読もうとは思っているのですが、このひとの世界はときにあまりにも暗く、シリアスで、気軽に手をだせるようなものではないので、どうしても後回しにしてしまうのですね。

 しかし、それでもなお、このひとが少女漫画を代表する作家であることは認めざるをえません。で、代表作をひとつ選ぶとするなら、ここはやっぱり『BANANA FISH』を選ぶことになるでしょう。

 先ほど、『ベルサイユのばら』の功績はオスカルというキャラクターを生み出したところにある、といいましたが、そのようないい方をするなら、この作品の栄光はアッシュ・リンクスという主人公を生み出しえたというその一点にあるでしょう。

 ふれれば切れるジャックナイフのような、凶暴な鋭さを秘めた野生の天才少年。さまざまな人種が入り乱れるアメリカを舞台に、アッシュの過酷な冒険が続きます。だからこそ、その結末には涙、また涙。

・槇村さとる『おいしい関係』

おいしい関係 1 (YOUNG YOU漫画文庫)

おいしい関係 1 (YOUNG YOU漫画文庫)

 ぼくが槇村さとるという作家をしったのは、東京に行ったとき、ふらりと立ち寄ったあるネットカフェでした。何か読む漫画はないかいな、とふらふら探していたとき、ふと目に入ったのが全16巻のこの作品。

 何となく読みはじめたがさいご、あっというまに引き込まれ、作品世界の虜となっていました。その場で16冊を一気に読み進めてしまったことは懐かしい思い出です。

 この作品が特徴的なのは、成熟した大人の世界を描き出しているということでしょう。ある意味、もはや「少女」漫画ではない、大人の女性のための恋と仕事と、そして誇り高い生き方の教科書、そんな印象を与える作品です。

 同じく料理をテーマにしていても、たとえば『美味しんぼ』のうんちく宇宙などとは全く違う世界で、男女の嗜好の差というものを考えさせられます。

 主人公の恋のライバルにあたる女性がフェアに描かれていることも好印象(ぼくは彼女が好きだ!)。少女漫画はここまで来たのだ、と感慨深くなるような、そんな一作です。

・樹なつみ『OZ』

OZ 完全収録版1

OZ 完全収録版1

 樹なつみから一作、何を選ぶか。近頃アニメ化された『花咲ける青少年』もいいのだけれど、ここは短くタイトにまとまっている『OZ』を挙げておきましょう。

 樹なつみという作家が素晴らしいのは、作品を未完で放り出さないことです。いままで数多の連載を抱えてきていますが、そのすべてがきちんと完結しています。もちろん、『OZ』も完璧なかたちで完結しています。

 少女漫画には独特の「キラキラしたもの」が欠かせないと思うのですが、樹作品にはその「キラキラ」が多量に含まれています。とにかく華やかで、ドラマティック。

 エンターテインメント性の高さ、という意味では、今回挙げた20人の作家のなかでも抜群であるかもしれません。

 『OZ』は核戦争によって崩壊したアメリカを舞台に、若き傭兵ムトーと、伝説の科学都市オズの関係を綴った作品です。中性的な容貌を持つアンドロイドなども登場し、多少ボーイズ・ラブ的な、まさに少女漫画!としかいいようがない世界が繰り広げられていきます。

・高河ゆん『アーシアン』

完結版 アーシアン 1

完結版 アーシアン 1

 これを少女漫画と呼ぶのも微妙な気がしますが――でもまあ、カテゴライズ的には少女漫画に入るであろう高河ゆんの代表作。

 『源氏』とどっちがいいか迷いましたが、『源氏』は未完なのできちんと完結している(その上、単行本が出ている)こちらを選ぶことにしました。

 長年にわたって人類を監視している異星の天使たちがくり広げる愛と悲劇のドラマであるわけですが、この作品の見所は物語よりもむしろそのセンスでしょう。

 いや、この頃の高河ゆんは本当にとんがっていた。ある種の天才ですね。いまの高河ゆんからは失われてしまった「何か」があったのですね。それが何なのかという判断はむずかしいところですが。

 そういえば、この手のBLと紙一重の少女漫画って少なくなったな――BLがジャンルとして確立したので、あえてそういうシチュエーションで少女漫画を書く必要がなくなったのだろうか。

 とにかく、一時代を代表するエッジの利いた傑作です。読んでおいて損はないところでしょう。

・矢沢あい『NANA』

NANA (1)

NANA (1)

 『NANA』です。『ポーの一族』や『アラベスク』が往年の名作なら、これはまさに現代を代表する傑作。

 田舎から上京してきた少女ナナがスターダムにのし上がっていくプロセスと、彼女の友人であるハチがさまざまなトラブルに巻き込まれる物語(半分は自業自得)を絡めて描いた超人気作。少女漫画としては最高のセールスを誇る作品なのではないでしょうか?

 とにかくそれくらい高い人気を得た作品で、少なくとも現代の少女漫画のなかでは最も人気を誇る作品であるといえると思います。

 その秘密は一面で華やかな芸能界の描写にあるでしょうが、物語はそこに留まらないダークな展開を見せはじめています。延々と続く悲劇。いつまで経ってもたどり着くべきあしたが見えない展開は、読者に過剰なまでのストレスを強いるもの。

 それゆえ賛否両論の展開ではありますが、ぼくはすばらしいと思う。現代という時代を象徴する作品といえると思います。ある意味、旧態依然とした少女漫画に革新を強いる一作。

・よしながふみ『大奥』

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

 男女逆転大奥! 美男子三千人! といったキャッチーでセンセーショナルなテーマにまず目が行きがちな作品ではありますが、しかし本当の魅力はそこにはありません。

 なんといってもくり返す悲劇と男女を問わず凛然とした佇まいの人々を高い漫画力で描いているところに真のおもしろさがあるといえるでしょう。

 物語は八代将軍吉宗の時代から始まり、三代将軍家光、五代将軍家綱を描いていくわけですが、いずれも聡明にして気高い将軍たちです。しかし、その生涯は決して幸福なものではありえません。

 愛を得ては失い、誇りを高く保つ道もなく、泥のような道を歩むばかり。読者は読みすすめるうちに、「男」とは何か、「女」とは何なのか、否応なく考えざるをえなくなっていくでしょう。

 この作品、その奇想が評価されてか、海外のティプトリー賞を受賞したそうです。ティプトリーファンのぼくとしてはそれも嬉しいニュースでした。はたして幕末まで物語が続くのか、どうか。完結のその日を楽しみにしています。

・CLAMP『東京BABYLON』

東京BABYLON―A save for Tokyo city story (1) (ウィングス文庫)

東京BABYLON―A save for Tokyo city story (1) (ウィングス文庫)

 高河ゆんを選ぶなら、CLAMPからもまた一作選ばなければなりますまい。そういうことなら、作品はこれ、『東京BABYLON』で決まり。『X』もいいけれど、あれは未完のままだからなあ。

 色々な意味でこのうえなくCLAMPらしい作品です。現代まで続く陰陽師の家系の当主である皇昴とその姉、皇北都、暗殺者の系譜桜塚護の一員ではないかと思われる桜塚星史郎、その三人が現代東京を駆けぬけていく、といった筋立ての作品ではありますが、こう説明しただけではその魅力は伝わらないことでしょう。

 絵柄はもちろん、台詞のひとつひとつにいたるまでみなぎったそのセンスは印象的だったものです。いまのCLAMPに物足りないものを感じているひとも、これだけは読んでおいてほしいものです。

 結末には例によって衝撃の大逆転が待ち受けているわけですが、連載当時、これには唖然とさせられたものです。悲劇、とそうひと言でいって済ませるわけにもいかないような悲劇。CLAMP独自の作家性があふれる作品です。

・田村由美『BASARA』

BASARA (1) (小学館文庫)

BASARA (1) (小学館文庫)

 『BASARA』! この作品に対する思い入れは深いものがあります。何しろ連載の佳境をリアルタイムで追いかけましたからね。

 初めの辺りは、文明崩壊後、荒廃した日本を舞台にした戦国乱世もの、としか見えないのですが、主人公たちがたがいに不倶戴天の敵同士としらないままに恋に落ちる辺りから、俄然、おもしろくなってきます。

 いや、これはもう、少女漫画、少年漫画を問わず、90年代以降の日本の漫画では最もおもしろい物語なのではないかと思っています。それくらい、破格におもしろい。

 過剰なご都合主義? その通り。しかし、この際、いい切ってしまいましょう。ご都合主義のない物語などおもしろいないのだと。作者が楽をするためのご都合主義はまずいですが、物語をおもしろくするためのご都合主義は全くかまわない。

 そしてクライマックス、それまでのすべての伏線が活きていく怒涛の展開は忘れようとしても忘れられるものではありません。ストーリーテリングのお手本のような展開なのでした。

・羅川真里茂『ニューヨーク・ニューヨーク』

ニューヨーク・ニューヨーク (1) (白泉社文庫)

ニューヨーク・ニューヨーク (1) (白泉社文庫)

 羅川真里茂から一作。『しゃにむにGO』でもいいのですが、やはりこの作品を選びたいと思います。その名も『ニューヨーク・ニューヨーク』。

 ニューヨークの街を舞台に、ともにゲイである警官とウェイターのカップルのさまざまを綴った作品です。いわゆるボーイズラブものではありますが、世間にあふれるBL作品と内容的に一線を画していることは自他ともに認めるところでしょう。

 なんといっても革新的なのは、描写におけるリアリズム。アメリカという国、ニューヨークという街、そのなかでゲイとして生きるということはどういうことなのかを、丹念に描き込んでいます。

 なかでも家族にカミングアウトする場面は感動的。ゲイである息子をなかなか受け入れようとしない母親が、やがて心を開いていく場面には、何度読んでも感嘆させられます。

 そのあと、物語は殺人鬼による拉致監禁事件へと進んでいくわけですが、「ハッピーエンドのその先」まで描き込んでいるところがまた素晴らしい。文句なしの名作です。

・羽海野チカ『ハチミツとクローバー』

ハチミツとクローバー (1) (クイーンズコミックス―ヤングユー)

ハチミツとクローバー (1) (クイーンズコミックス―ヤングユー)

 さいごに、いかにも少女漫画らしい少女漫画ということで、羽海野チカ『ハチミツとクローバー』を挙げておきましょう。

 今回取り上げたほかの作品は恋愛などやっている場合ではない、というものも少なくないのですが、これは王道、ド直球の恋愛漫画。「全員片思い」の五角関係が、ある結末にいたるまでを10巻で描いています。

 最終巻、「ハチミツとクローバー」というタイトルの意味が明かされるとき、深い感動が読者にもたらされることでしょう。「青春スーツ」を初めとする独特の造語なども印象深い、ラブコメディの歴史的傑作です。

 現在、羽海野さんは活躍の場を青年誌に移して、『3月のライオン』を連載中であるわけですが、その少女漫画スピリットは失われていないと思います。

 どこかふわふわしたような絵柄に似あわぬ、人間性の暗黒を正面から見据える「目」のつよさがたまりません。まあ、このひとも一種の天才ですよね。本物の天才がうろうろしているのが少女漫画業界の凄さであります。



 そういうわけで20作選んでみました。『麒麟館グラフィティー』とか『ワン・ゼロ』とか、あるいは『フルーツバスケット』なども選びたいところでしたが、どうしても20作には入らなかった。少女漫画の深遠を覗く、そのきっかけにでもなれば幸いです。