梶ピエールの備忘録。 RSSフィード

2007-10-04

[][]ガンバレ、とにかくガンバレNHK。

 tomojiroさんに教えていただいくまで全く知らなかったのだが、中国の「いま」に鋭く切り込んだNHKスペシャルのシリーズ『激流中国』の内容に対する中国当局の「厳重注意」が記された「秘密文書」がネット上に漏れて公開され、話題になっているようだ。

http://www.danwei.org/internet/secrets_out_in_the_open.php(中文版は、こちら

 中でも問題とされたのがプロローグの「富人と農民工」 と第一回の「ある雑誌編集部60日の攻防」であり、いずれも「貧富の格差」「政府の報道規制」といった「負の面を強調しすぎており」「客観的ではなく」「視聴者に誤解を与える」としてNHKに報道姿勢の反省を促す内容となっている。

 その背景には、どうもこの番組(批判を浴びた回)が中文字幕つきでYouTubeなどを通じてネット配信され、中国のネットユーザーの間で大きな話題になった、ということがあるようだ。中文版のGoogleで検索した結果はこんなところだが、ざっとこれらのウェブ記事に目を通したところ(リンク切れも多いが)、大変興味深いことには番組を絶賛するような内容のものがほとんどなのだ。

 たとえばプロローグとして放送された「農民工と富豪」は、不動産投資で巨万の富を築いたディベロッパーの「華麗なる毎日」と、日当600円で建設現場ではたらく農民工の生活を対比させて描いたものだが、「衝撃を受けた」「これは中国の事実そのものだ」「ここに描かれた貧富の格差はあまりにひどい」「これって資本の原始的蓄積なのでは?」「涙なくしては観られなかった」などと、かなりの衝撃をもって受け止められたことが多くのブログや掲示板の書き込みからうかがえる。

 こういった中国国内での反響を考えると、冒頭の中国当局のNHKへの抗議文(もしそれが本物であれば)の意図も明らかになってくる。確かに『激流中国』あるいは最近NHK-BSで放送されたいくつかの中国を題材としたドキュメンタリーでは、それまでの常識ではちょっと考えられないほどの踏み込んだ取材・描写までもが許可されるようになっている。ここには、明らかに北京オリンピックを控え海外メディアへの情報公開を積極的に行っていることをアピールしたいという政府当局の意図がみられる。しかし、それはあくまでも番組が外国のみで放送される場合の話だ。中国国内では容易に観られないはずの番組が、ネット配信によってこれだけ話題になるとは想定外だったに違いない。それに慌てふためいて火消しに向かったのが冒頭の通達だった、と考えても、そう的外れではないだろう。これと前後してネットでの検閲も始まったようで、この辺の経緯はウィキペディアの記述に詳しい。

 こうしてみると、今NHKが真に向き合うべきなのは、矛先が自分たちに向かうことを恐れて圧力を加えてきた政府当局なのか、それとも『激流中国』を熱烈に支持し、「日本の報道番組は客観的ですばらしい」とまで言ってくれた中国の市民たちなのか、その答えは自ずから明らかだろう。大げさに言えばこの問題の帰結は今後の日中関係が「小泉は悪人だったのでダメだったが、(李嘉誠似の)福田さんはいい人なので関係は良好です」といった権力者の都合による「おためごかし」のレベルにとまるのか、市民レベルのより深い交流が可能になるかの分かれ目になるような気がしてならない。というわけで、今後の『激流中国』の内容に一層期待するとともに、番組に対する中国政府およびNHK双方の今後の対応にも注目したい。

[]がんばれNHK―子供の人権について―


BS特集 33か国共同制作 “民主主義” 〜世界10人の監督が描く10の疑問〜

中国 ≪こども民主主義≫Please Vote for Me(陳為軍 監督 中国)

10月19日(金)午前0:05〜1:00(18日深夜)

BS世界のドキュメンタリー

<シリーズ 世界の子どもたち>

売られる子どもたち

10月22日 月曜深夜[火曜午前] 0:10〜0:56

僕たちも学びたい 〜貧困と闘う子ども労働者たち〜(再)

10月23日 火曜深夜[水曜午前] 0:10〜1:00

BSドキュメンタリー

罪なき子を見つめて 〜中国 児童救助センター“太陽村”〜

10月20日(土) 後10:10〜11:00

人身売買される少女を救え! 〜ネパール・立ちあがる被害女性たち〜

11月3日(土) 午後10:10〜11:00

李言徳李言徳 2007/10/06 14:15 本日のエントリー、自分のブログでも参考にさせて頂きました。正直、『激流中国』が中国で反響を呼んでいたとは知らなかったです。貴重な視点をどうもありがとうございました。

kaikajikaikaji 2007/10/06 18:27 参考にしていただきありがとうございます。よろしければトラックバックを送っていただければと思います。

李言徳李言徳 2007/10/06 20:06 お返事ありがとうございます。自分のFC2ブログからトラックバック送信を送った上でコメント欄に書き込みを行ったんですが、どうやらうまく送信されていなかったようです。ただ、さきほど改めて何回か右のトラックバック先【http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20071004】に送信してみましたが、どうもうまく反映されませんでした。もしかしたらFC2ブログにおけるスパム対策絡みの障害かと思います。・・・というわけで、トラックバックできず恐縮ですが、念のため以下に関連する私のブログURLを記しておきます。http://ovhin.blog56.fc2.com/blog-entry-259.html

kaikajikaikaji 2007/10/06 21:48 >もしかしたらFC2ブログにおけるスパム対策絡みの障害かと思います。
 はてなは結構スパムTB対策がしっかりしているので、そうなのかもしれませんね。ブログを拝見しましたが、中国株に大変お詳しそうですね。また参考にさせていただきます。

左利き左利き 2007/10/07 07:12 どうもお久しぶりです。土地収用問題の番組など見てきましたが、ある雑誌編集部60日の攻防の方は観ました。かなり踏み込んだ内容だったので鮮明に覚えていますが、現在の中国では「YouTubeを見れる中国のネットユーザー」は国民の千〜1万分の1にも満たないんじゃないでしょうか?。良く真実は劇薬等と言いますが、一部の若者に同国の国民とあまりに乖離した価値観と対面させてしまっては、天安門事件の二の舞とならないでしょうか。彼らには知る権利があり真実に飢えているのも判りますが、ごく慎重に事を運ばないといたずらに不幸な境遇に遭う人を増やしてしまう危険を感じます。
とは言えおかげ様で中国内の反応も知れて又一つ理解が深まりました。

kaikajikaikaji 2007/10/07 12:01 >良く真実は劇薬等と言いますが、一部の若者に同国の国民とあまりに乖離した価値観と対面させてしまっては、天安門事件の二の舞とならないでしょうか。彼らには知る権利があり真実に飢えているのも判りますが、ごく慎重に事を運ばないといたずらに不幸な境遇に遭う人を増やしてしまう危険を感じます。

 左利きさん、こんにちは。仰るとおり直接『激流中国』を閲覧したネチズンは中国全体からするとわずかなものでしかないでしょう。しかし、別のエントリでも書いたように、「格差社会」の現実に対する疑問・批判の意識は、自身は決して貧しくはない中間層の間でかなり広範に形成されているように思います。で、NHKだけでなく日本のメディアや専門家が中国の現実を問題にする場合、政府だけでなくこういった市民の反応も視野に入れていく必要があると思うんですよ。特にYouTubeの普及によって、ドキュメンタリー番組は完全に「製作国」の視聴者だけでなく「当事者国」の視聴者のものにもなったといっていいと思います。その影響力が大きいからこそ、日本のメディアは少しづつでも海外の視聴者・ネチズンからの反応を拾い上げる努力をしていくべきだと考えます。