ウォー・モーテル

シャニンはニコっとすると笑窪ができる。それが、作り笑いだろうと、そうでなかろうとできる。つい最近までベトナム人の富豪に三年の間、妾として囲われていた。妾宅としてあてがわれた富豪の別荘は彼女に言わせるとお伽話が具現化したような家だった。笑窪を作って、ホーチミンを少し若くしたような旦那に抱きついていればいい。簡単なことだ。でもその簡単なことができなくなったから、ここにいるのよ。幾らかの金を握ってベトナムを飛び出したシャニンは日本の某空港で何日か過ごした。それから親切な男を見つけてその男の家で身の上話をしている。アメリカはオレゴン州ポートランド出身。色々あったのよ、彼女は笑窪を作る。そうよ、色々なことが起きすぎたのよ。彼女は下着だけになる。二十五歳の割にはおっぱいが垂れている。髪の毛は根元が黒くなっている金髪だ。三年の間。ホーチミンは私を抱かなかった。シャニンは期待に胸を膨らませて言った。ねえあんたのアソコは勃起しないなんてことはないでしょうね?ああ神様!なんてこと!三年ぶりだわ!!で、それが済むとシャニンは煙草を吸いたいと言い出した。おれはシャニンにコートを貸してやる。シャニンはパンティーだけを履いて外にでる。とにかくアメリカ人は薄着だ。裸にコートがポートランド風なのだろうか。コンビニでライターとマルボロの赤を買って渡す。シャニンは三年ぶりにセックスをして煙草を吸っている。それからコーヒーを買って川へ行く。河原ではリトルリーグの練習の真っ最中だった。彼女は冗談っぽく笑ってコートをチラチラとはだけさせる。それをする度に薄ピンク色の乳首がお日様を浴びることになった。おれは、彼女を注視しておくことにする。全く厄介な女だ。彼女はそれから少し黙って煙草をおれにも勧める。おれは彼女が火をつけた煙草を咥える。じんせいは、戦争状態のモーテルみたいなものですね、先輩。意味がわからねえよ、とおれは言う。そう?彼女は笑窪を作る。そこら辺の茂みでおちんちん舐めてあげようか?彼女は再びコートの前を開ける。おれはアメリカ人みたいな素振りで、しょうがねえ奴だなって顔をする。それから二日後、シャニン・リー・ソロモンは置き手紙も残さずに、どこかまた彼女がいくべき場所へと帰っていった。

スターニー・スタン

彼女の髪を撫でていると、ミイラを思い出す。生贄に出された古代王国の処女のごとくトウモロコシの髭のような色に半分だけブリーチされた髪。豊かな髪。私の中年の腹に身体をぴたりと付けて心地よい寝息をたてている。滑らかな肌。若さ。それらが渾然一体として宇宙に打ち上げられて、無数の隕石と衝突を繰り返している。愛という日本語はかつてなかった。僕は彼女に説明する。手を使って、声を使って、真理を説く。彼女は見ている。僕の指を、僕の震える声帯を。貴方ってまるで、恐竜みたいなのね。彼女はそれをしながら、言った。僕は彼女の頬や舌の動きを眺めている。宇宙に打ち上げられた猿。宇宙に打ち上げられた犬。宇宙に打ち上げられた僕と彼女。いや、違うわ。貴方は、管制室で見守っていて欲しいの。彼女はだらしがない中年の肉付きの私に跨りながら言った。僕は管制室に引き返す。そこから、かすれる声で、命令を与える。彼女は生贄として宇宙船に乗り込んだ。酸素供給システムが壊れたわ。彼女は悲痛な声で顔を崩して訴える。彼女は膣でイケるタイプの女なのだ。私は彼女の髪を撫でる。彼女のお姉さんは小学生の時に死んだのだ。彼女の使命は宇宙船で犬や猿の代わりに打ち上がり姉さんの形見の貝殻型をしたポーチに蓄えられているガラクタたちを闇黒に還してやることだ。星に触れたか?僕は聞いた。彼女はけだるそうに、まあねと答える。愛という日本語はかつてはなかった。愛宕権現の当て字なのだ。サクリファイス。彼女の姉は生贄としてこの世から消えた。星がひとつ堕ちて、彼女の姉は妹に呪いをかけていった。星に触れると死も愛も何もかもがどうでもよくなるのよ、彼女は言う。僕は言う。君の瞳は虹のようだ。それって口説いているの?彼女は笑う。もう何回寝たかも忘れた相手を口説く男がいるの?僕は服を着る。彼女は彼女の部屋の玄関まで、ドブネズミ色のTシャツ一枚羽織って僕を見送る。僕は彼女の家を出て夜の星々を眺める。星は震撼し、歌っている。地上に残された恐竜たちは管制室に閉じ籠り壊れた酸素供給システムを直す方法を探している。トーストにはチーズを乗せる?正味の話。全く忙しくしている奴らには何も言うべきことがない、と彼はひとりごちながら、長い地下への道を堕ちていった。


悪。この世の悪のすべて。それらを集め、裏漉しをしてから、火がかけてあるひとつの鍋にいれる。ぐつぐつと悪が煮られていくと食欲がそそられるような香りに満ちる。悪のスープ。これを飲めば世界の王になれるという。しかしそれを飲んだものはまだいない。できたスープは煙のように蒸発して世界中へ還っていく。世界はそして再び悪に満ちる。私は嘆息して眠りにつく。殺処分を待つ犬や猫たちのことを思いながら。


カルタヘナソレイユヴィレッジ。複雑怪奇な呼び名のあるマンションの2階。そこに彼女は住んでいる。彼女の名はマダーライダー。美人だ。空の奴隷、キャビーンアテンダントという鳩バスガイドの亜種のような職業に従事している。マダーライダーは暇で忙しい。暇で忙しい上に性行為依存症である。性行為に飢えているが、勤務時間がマチマチなせいで、未来の約束を交わしている彼氏との会う機会は年に12回である。彼氏の名はラモンホスピス。牛のようにでかい身体をもつ。もちろん、あそこは大蛇のようにトグロを巻いている。だが、彼の心臓は蚤と同じくらい小さい。そのおかげで、マダーライダーの肉体的なケアを怠っている。いやラモンホスピスに言わせてもらえれば、こう答えるだろう。ああいう毒婦は年に2回以上は抱いてはいけない。フグのように淡白だが、舌が痺れ、やがてはそれが全身にまわることになるぞ、と。私に言わせれば、マダーライダーは決して淡白ではない。私は常に金欠だが、マダーライダーはその逆で、自分がやりたくなったというそれだけの理由で、大阪までの飛行機代を全額寄付してくる。喜捨という精神とは違う。何より彼女は酒を浴びるように飲む。自分がなくなるまで、アルコールを血に流し込む。私は彼女に呼ばれて急遽大阪に行く。酒場の隅で彼女を見つける。マダーライダーの目が据わっている。冗談のひとつも言いながら、抱き起こせば、泣き言と一緒にホテルのカードキーを手渡される。口からは異常な酒の香りがする。ウォトカ。ウィスキー。火酒。なんでもござれだ。マダーライダーを担いで高級ホテル(社費で八割が支払われる)に入る。どれだけ美人だろうと、彼女に付き合う男はそう多くない。何より、この職業についていて、私のような場末の作業員くんだり以外では、勘違いしたズラ頭の元上司ルインレイダー氏や5年付き合っているラモンホスピスとしか肉体関係がないことから、逆算してもらいたい。彼女は極度に男性にモテない。酒乱とは違う、もっとさかしまな狂気が彼女を神聖なものに変えている。マダーライダーは私とほぼ同じ身長だが、頭も小さく、豊かな黒髪はすばらしく、手足は長く、陰毛も薄く、巨大な脂肪分である乳房はさておいて、ほどよい大きさの乳輪はピンク色だ。脱がしてからベッドに横たえる。マダーライダーは泣き出す。あそこはもう既に洪水状態。嫌な臭いもない。やれやれ。私は彼女のアソコを舐め始める。最低でも30分は夢の国で遊ぶのを彼女は好む。まったくこれだけ書けば、単なるいい女でしかない。だが、真実は程遠い。彼女は空中を浮遊する。善悪の彼岸でたゆたう。文字通り、彼女は悪を煮詰めたスープのような女だった。差し詰め、悪魔が戯れに作った人造人間だった。この後で私はピルを飲んだ女のあそこに挿れたまま3発も射精しなければならなかった。人生の貴重な数時間が消し飛んでいった。


私にも人生があるのか。殺処分を待つガス室に待機する犬猫にも同じくらいに大切な人生があったのだろうか。私にも実は結婚をしたい女がいて、彼女の手料理などを食べて、セックスをしたり映画を観たりすることもある。レンタカーを借りて温泉旅行に行くこともある。だが、炎に包まれて助けを呼ぶマダーライダーの断末魔、これが聞こえてきだすと、ぞわぞわとしてくる。一回りも年下のかわいい彼女にフェラチオをしてもらいながら、胸を指で弾きつつも、マダーライダーの呪詛まじりの喘ぎ声が脳裏に浮かんでくる。宇宙に胎児化したマダーライダーが浮遊している。かわいい彼女の手料理や愛情の籠ったフェラチオ、そしてそれから、嘘をついて、かわいい彼女の家から帰宅する。自宅ではない。カルタヘナソレイユヴィレッジ。むつかしい判断だが、私にはこれしかないのだ。悪はこの世のあらゆる物質の中に溶け込んでいる。それを抽出して味わえる場所はそうはない。そうだ。残念ながら、ここにしかない。

儚く優美な細い指が異臭を放つ紫色に反り上がった陰茎を握るまで

春色のコートを羽織ったきょうの彼女は念入りに綺麗だった。録郎は彼女の細い首を絞める妄想をしながら、無言で彼女の後ろを歩く。振り向いては、笑顔を見せる彼女。歯が完璧に整っている。あれらの歯をペンチで一本一本全部抜き取ったらどれだけすっきりできるだろうか。青空と咲き出した桜が彼女をより一層美しく見せた。美しい彼女は、ソーダ水の中の泡ように、キラキラと光っている。ガソリンをかけて火をつけたい。車で轢きたい。彼女を沈める底なし沼はないのか。猛獣の檻はどこだ。録郎は彼女が好きで好きでたまらない。好きで好きでたまらないので、殺してしまわないといけない気がする。彼女の美しさや若さを留めることができないことだけが心に刺さる。百万本のナイフを刺されてもこんなに痛くはあるまい。録郎は彼女の細い指に恐る恐る触れる。彼女は変わらない笑顔で、録郎を見つめる。散歩中の犬に、朗らかに、染み渡るような声で話しかける。犬は尻尾をふり、彼女の美しい細い指を、やがて切断されるべき指を、ベロベロと猥褻に舐める。飼い主の老人も、彼女の首の細さや長い髪の繊細さに心を奪われている。犬に別れを告げると、少し悲しそうに、飼っていた犬を思い出したのだろう、彼女は彼女から指を録郎の太くて醜い指にからめてくる。録郎は、彼女の薄い瞳を覗く。彼女の眼球は今にも繰り出した方がいいくらい澄んでいた。有料道路の高架下は昼間でも薄暗く、鬱蒼とした雰囲気で人気も疎らだ。彼女を殺すには絶好の機会だ。録郎は彼女の手をしっかりと握りしめる。彼女は、少し困惑したような顔をしたけれども、コックリとうなづく。録郎はそれが何のことか、分からない。なるべくなら痛みのない方法で殺してあげたかった。即死をさせるには録郎の腕力は足りない。気絶させて、それから一思いに心臓を銃で撃つ。殺人志願者の録郎はとうとう暗がりへ彼女を誘った。

雑木林と有料道路の狭間から、二人がでてきた頃には夕陽も落ちていた。誰も歩いていないような開発が遅れている新興住宅地の一角を徒歩で歩いている。彼女はもう作り笑顔はやめて、パンツも履かずに帰路を急いでいた。録郎はまるで自分が凌辱された少女のようだと感じながら、何か別の物と化した女の斜め後ろをよちよちと付いていくことしかできなかった。

milky mother menace

「彼女」と別れて一番心配なことは、「彼女」が孤独なまま死んでいくことだった。自分が支えていなければ、彼女がやっていかれないと思い込んでいたのだ。だが、蓋を開けてみればどうか。彼女は充分やっていけていた。わたしが想像したような彼女はそこにはいなかった。彼女はすこぶる闊達だし、ガリガリ亡者にも見えない。わたしと別れる寸前の彼女は、頭髪が禿げかかり、太腿が細くなって、アソコと太腿の間に三角窓ができて向こう側の景色が見えていたくらいだった。餓鬼のようだと形容してもいいぐらい、ひどい有様だった。だが、数年経ってみて、彼女は生きていた。生きているどころの話じゃない。全く別人のようになって、やりくりをしているのだ。わたしが見た彼女の未来は常に老婆だった。孤独な老婆が場末の喫茶店か何かで「大好物」のドリアか何かを背中を丸めながら咀嚼する映像が散らついて離れなかった。だが、そうはならなかった。わたしの想像を超えて彼女は亡霊のように街を歩いている。わたしは彼女がまるで自分が体験したかのように、わたしの体験したことを吹聴して回っていることを知った(全くなんでもないことだ、何を言おうが彼女の自由であるし、第一わたしの思想は彼女のものでもある)。死者でもなく、亡者でもないが、道化師にもなれない。喋る石仏とでも呼んだらいいのか。そこには微塵の後悔もヒステリーもなく、絶滅した部族の最後の生き残りでさえしないような、彼女なりの「豪奢な」生活があった。貴方と別れたらきっと貴方の考えたことや貴方の思想をすべて忘れてしまう、と彼女は宣言し、実際その通りになっている。喫茶店で孤独にドリアを食べる老婆はいない。彼女はわたし以外の人間たちに囲まれている。彼女は己を取り戻している。頭髪も禿げかかっていないし、三角窓の向こう側で軍艦が大砲を撃っていることもないのだ。生者と亡者の違いなどはないのかもしれない。歩いて死に向かっている。かつてのわたしは彼女の手を引っ張って歩いていた。そして大事なことは、彼女もわたしの手を強く握っていたはずだということだ。トランプの数字がひっくり返ることはあるが、ルールそのものさえひっくり返ることができるというのを、わたしは学んだ。どんよりとした雲がたれこめる天気の日、わたしは喫茶店に入る。そこでドリアを注文する。氷水がある。水に映る自分は老婆のように見えなくもない。煮しめた昆布のような外套が自分を包んでいる。少し眠くなる。机に突っ伏してみる。膝の力が抜ける。目の瞳孔が開く。黒雲から無数の手が伸びてくる。老婆は雲にさらわれる時に、上空から、二人の人間が道を違えて歩き出すのを満足そうに眺める。幕。

アンダー・ザ・オール・マッドマン

不思議でならない。肉体関係のある女性から百発百中で、あなたは他人を見下している、と宣言される。百歩譲って、おれが他人を見下しているから君に何か迷惑をかけたのか、と問いたいが、女の脳味噌は容量が少ないのでついつい可哀想になって追求できない。ちなみに、脳味噌というのは比喩であって、脳髄で物事を判断したり理解するわけではない。断言しよう。おれは君を愛している。この話はこれで終わりだ。見下げ果てて何が悪いのだろう。他人はゴミ収集日にゴミを出さない。分別がないので、猪に餌をやる。その場しのぎで、なんでもやる。義憤に耐えないようなことを平気でする。他人を見下しているなんて、何を食ったらそんな発想が成立するのだろう。公平な社会。平等に与えられた機会。雇用均等法。馬鹿馬鹿しい。おれはそんな奴らとは死んでも握手はしない。公平さが、邪悪さをより研磨する。人間性は鈍磨される。夜は空気人形になり、昼はネジや工具になる。しかし、なぜに肉体関係のある女性に、死の宣告を受けねばならないのか。じっくり考える。肉体関係がある女は、つまり、友人ではないが、かなりの時間を一緒に過ごすから、そうなる。つまり、毒に当てられるのだ。鍵穴が錆びているのか、それとも鍵自体がひん曲がっているのか、よくよく吟味しないとならないところだが、なにせ時間がない。生きるには糧がいる。セックスも睡眠も食事も要る。泥舟とはいえ、80年も浮き続ける。美に殉死するには、手垢がつき過ぎる。豚みたいによがっておいて、そりゃないぜ。おれは他人を見下したことはない。分析しているだけだ。おれは自分を曲げる。これは反射だ。土下座する。仁義をきる。心頭を滅却する。女はバカなので、すぐに股をヌラヌラにさせる。餅つき大会の開始だ。えっさかほいさか。小股が切れ上がった女たちは自分の小股が切れ上がっていることに敗北している。敗北者は見下げるのみ、だ。おれはウィスキーを彼女のハイヒールに注ぎ、救い難いような日さえ乗り切る術を身につけている。これぞ、売国奴の真骨頂。誰も彼を愛さないまま、火葬場の扉がおいでおいでしている。その手には乗らないぞ(笑)。

犬神銀座

実の娘とはいえ、私は彼女と同じ時間を過ごしたことが殆どない。いや、彼女の顔を見たことだって数えるほどしかない。自分が父親だという自覚がないまま、彼女はどんどん成長していて、勝手に大人になっていたのだ。私が彼女に対して何らかのアドヴァイス欲求や何らかの心配、或いは何らかの慈悲心でもいい、そういうものを抱いたことなどあるか?答えはノーだ。彼女と待ち合わせ場所で落ち合うと、娘は朗らかな笑顔で私の車に乗り込んできた。時間ピッタリですね、と彼女は敬語で話しけてくる。私はロバートでいい、と話しかける。それに敬語はよしてくれ。娘は肩をすくめて、ではあたしもサマンサでいいよ、と返す。いい子に成長したことが、すぐに理解できた。私はロバート・レッドフォード。君はサマンサ・タバサ。OKだ。理解できる。車が発車する。どこへ行きたい?私は尋ねる。サマンサは答える。お父さんと車に乗りたいだけだから、どこへでもいいよ、どこか遠くへ行こうよ。私はうなづき、娘を盗み見る。美しかった。自分の子ではない、見知らぬ他人のような感覚が抜けない。サマンサは足が殆ど出た服装だった。肉付きが素晴らしい。美しい娘だった。私はひどく怯えた。彼女は娘だぞ、と自嘲した。いやらしい想像を娘に対して実の父親がするものなのか、理解できなかった。でも、私は事あるごとに、サマンサの腕や太腿や膨らんだ胸を眺めていた。彼女は途中で買い与えたスターバックスを飲み、笑い、話し続ける。私は曖昧な返事をする。聞き役に徹する。だが、その実際のところは、サマンサがどんな男を好み、どんな男とセックスライフを送ってきたか、最近したのはいつか?自分より年上の男と寝たことがあるのか?という下劣な想像が終始頭をかすめていくのだった。目的地を決めて山道を車で走る。道路は工事が続いていて渋滞し始める。回れ右をするには山の中へ入り込み過ぎた。サマンサは話し続ける。幼なじみの友達の事。アルバイト先での事。学業。未来の都市。金に使われる人生は送りたくない事。紋切り型の普通の意見。そういうものが、あり、山の渋滞があり、光が溢れている。工事現場を過ぎてから、高速道路に乗り、速度をあげる。サマンサはiPhoneを車のオーディオの横についているUSB端子に繋げて音楽を流し始める。こういう音楽が好みなの、と彼女は恥ずかしそうに言う。ロバートはこういう音楽はあまり好きではないかもしれないけど。私は、そんなことはない、と言った。音楽は詳しくはないが、ロックは好きだ。音楽がかかるとサマンサは少し静かになった。私は彼女の母親と自分の馴れ初めを簡単に説明してやった。お母さんらしい、とサマンサは言った。私は彼女の母親への愛情が一度も訪れたことなかった。だが、サマンサへの感情は本物らしかった。或いは本物により近い何かを感じた。リアリズムといってもいい何かを。

四時が来ると、サマンサは少しかしこまって電話をかけてもいいですか?と訊いてきた。もちろん、好きにするさ、と私は言った。サマンサは会社に電話をかけているようだった。クライアントとの交渉も終わりました、これから帰宅します。サマンサは静かに電話を切る。我々は予定を大幅に狂わせて諏訪湖にいた。洲崎さん、とサマンサが言う。あたしきょうは本当に楽しかったです、とサマンサは言う。会社には嘘の報告をしました。私は彼女が口を開くたびに、喜劇役者のように早変わりで表情を変えてみせた。これから、食事をして、この辺の適当な温泉宿をとりませんか?サマンサはそう言うと運転する私の腕にしなだれかかってきた。私は彼女を「実の娘」としてオーダーしたのであって、こんな盛りのついたメス犬などお呼びではないのだが、と内心思いつつも、渋々了承をした。その代わり、一緒に居る以上は、サマンサで居て欲しい。サマンサは笑って、へんなひと、言うと私の唇にキスをした。実の娘が口にキスをするのかどうか、私は理解できない。でも、彼女の胸の柔かさを感じて、すぐにムスコが大きくなった。おとうさん、変態みたいよ、娘の身体に反応するなんて!とサマンサは言った。私は恥ずかしくてならなかった。温泉宿に投宿して、仲居にも娘と温泉宿に来て羽を伸ばしていると説明し、「実の娘」のヴァギナを使って3回も抜いた。私は彼女の中で動きながら、お母さんと身体が似ている、君が抱かれた男たちについて全部話せ、と言った。サマンサはずっと付き合ってくれて、お父さん、お父さんと呼びながら股間を締め上げてイった。翌る日、私はサマンサ個人に多めに報酬を渡した後で(アフターピル代も含めた料金だ)、改めて、車で東京への帰路についた。帰りの車中のサマンサは無言だった。その方がずっといい。好感がもてる。私はアクセルを踏み、遠慮していたタバコに手を伸ばし、火をつけたのだった。