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十七段雑記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2016.5.23 (Mon)

今慈ムジナ 『ふあゆ』 (ガガガ文庫)

ふあゆ (ガガガ文庫)

ふあゆ (ガガガ文庫)

「それで、結局ジュゲムは誰なの?」

「ジブンタチは誰かであるが、誰でもない。名前もないと評したいが『名前がない』とジブンタチは観測されるので概念はある。強いて言えば意識の住人である」

ジュゲムの話は要点がまったく掴めない。

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心因性相貌誤認症とは,相手の顔が認識できず,代わりにまったく別の実像で人間の顔を認識するようになる病気.子供の頃の事故が原因で,心因性相貌誤認症を患うようになった少年,龍胆ツクシは,猟奇殺人事件の現場を目撃してしまう.犯人はハシビロコウの頭を持った人物だった.

帯曰く,“自我と認識の問題を巡る、最新の現代怪異譚”という第10回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作.認識されることで「自分」になろうとした「自分たち」の話を,集合的無意識や並行宇宙,怪異,都市伝説,超常現象といった各方面からのアプローチで描いている.煽り文句のとおり,「怪異」を描いたものとしても珍しいものではないかと思う.

テキストに凝りすぎたのか,目が滑りまくる(特に導入部)のが最大の欠点.ただでさえ面倒くさいテーマのうえに,主人公が自意識をこじらせた語り手なので,イラッとすることは間違いない.ただ,物語のきっかけである「心因性相貌誤認症」は,シンプルながらとても自然に描けていると思う.いろいろと詰め込んだわりには,衒学趣味に走ることもなく,案外わかりやすいと思うのよ.導入で受ける印象も,読んでくうちに変わる,のではないかな.最初から最後まで徹底して残酷で,徹底して尖りまくっている.広くすすめはしないけれど,個人的にはとても良かったと思いました.

2016.5.22 (Sun)

水沢夢 『ふぉーくーるあふたー2』 (ガガガ文庫)

ふぉーくーるあふたー 2 (ガガガ文庫)

ふぉーくーるあふたー 2 (ガガガ文庫)

「うーん、この想像力の逞しさは、さすが作家志望だと思うよ……」

「新人賞って、こういう暴走ちゃんを振るい落とす儀式なんスね」

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二代目魔星少女・レイアーテラこと,地平遥を主人公に据えた『魔星少女リフレイア』のセカンドシーズンが始まった.しかし,彼女の意気込みと裏腹に視聴率は右肩下がり.視聴率を上げる新アイテムの研究のため,東京の大型玩具店に赴いた一行は,出版社に襲いかかる怪人の出現に出くわす.

4クールを終えた後の魔法少女の物語.のはずなのだけど,なぜか作家志望者と編集の戦いに終始している変な巻.一巻に引き続き,『俺、ツインテールになります。』とノリがそっくりで,「俺、〜」で取りこぼしたネタでさらに一冊,というように見える.「俺、〜」とネタがかぶらないようにしているためか,物語の設定がふわふわしている気がするのよな.この作品単体ならともかく,同じ作者で・同じようなテーマで・同時並行で進んでいる作品があることを考慮すると,こちらはかなり微妙ではないかなあ.物語を書く人工頭脳という,旬のネタを取り込んでいるのは(かなりあっさり目だけど)良かったと思う.

2016.5.19 (Thu)

森川智喜 『トリモノート』 (新潮文庫nex)

トリモノート (新潮文庫nex)

トリモノート (新潮文庫nex)

自然科学のもたらしたものを信じられないのではない。

自然科学という考えかたそのものがまず信じられない。

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自白という証拠も、とらえようによっては物証の一種といえるのではなかろうか。

なぜならばあくまで唯物的な価値観を採用するならば、人というものがそもそも一種の物体であるからだ。コンピューターに接続されているキーボードを指で叩き、画面にアウトプットされた記号を犯罪の証拠と捉える。脳に接続されている身体を鞭で叩き、口からアウトプットされた言質を証拠と捉える。

一見、同じではないか?

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時と場所は,18世紀後期のお侍さんの国.岡っ引きの娘,お星は,山からの帰りに藪の中で光る円盤を発見する.白色に光る円盤の中には,見たこともないたくさんのアイテムが並んでいた.不思議なアイテムにお星と,幼なじみで学問好きの舟彦は興味津々.これらのアイテムを使って,「確乎たる」犯罪捜査をやろうじゃないか.

江戸時代によく似たお侍さんの国を舞台にした「科学的捕物帳」.ふたりのティーンエイジャーが,円盤のなかで見つけた一つ目小僧=インスタントカメラや指おばけ=指紋検出を駆使して,冴えない岡っ引きの代わりに難事件を解決してゆく,というライトめなミステリ.いくら学問好きとはいえ,ルミノール反応や指紋検出キットを初見で使いこなすのはすごい.というか,本格ミステリらしいご都合主義だと思うんだけど,カタカナや英語をやけに多用する軽い語り手が,うまいこと雰囲気を作っていたと思う.科学的捜査にこだわる舟彦と,あまりそういうことを気にしないお星や周囲の人々の対比も良かったと思う.あくまで軽めに書いてるけど,かなり重要なテーマだよねたぶん.良かったです.

2016.5.17 (Tue)

バリントン・J・ベイリー/冬川亘訳 『カエアンの聖衣』 (ハヤカワ文庫SF)

カエアンの聖衣 (ハヤカワ文庫 SF 512)

カエアンの聖衣 (ハヤカワ文庫 SF 512)

「カエアンの服って、ほんとにそんなにすごいのかい?」グラウンがわめいた。「だって、それじゃまるで魔法じゃねえか!」かれはケタケタ嬉しそうに笑った。「魔法のスーツだ!」

「科学だ」マストが怒りを抑えて訂正した。「カエアン人しか知らない特別な科学だ。催眠術みたいなもんだ」

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カエアン人にとって,衣裳とは一つの哲学であり人生観,唯一絶対の人の道である.服飾家(サートリアル)のペデルは,カエアン人の難破船から持ちだした積荷から宇宙に五着しかないフラショーナル・スーツを手に入れるが,その美しいスーツには恐るべき力が秘められていた.

“服は人なり”を体現するカエアン文明の成り立ちと秘密.『キルラキル』のネタ元のひとつにもなったというワイドスクリーン・バロック.蝿の惑星だの,宇宙を生身で飛ぶヤクーサ・ボンズだの,一生を金属スーツのなかで送るソヴィヤ人だの.ポンポンと飛び出すアイデアは,大風呂敷を広げるというより,風呂敷の上におもちゃを並べたかのようなガチャガチャ感がある.そして最終的にえいやで畳み掛ける力技感.

カエアン人のたどり着いた境地は今でも古びていないと思うし,伏線は綺麗に敷かれていてエンターテイメントとして楽しい.出版されたのが1983年とはいえ,テキストや固有名詞は思った以上に古めかしく感じた.まあ読んでいくうちに気にならなくはなった.今から読むなら,つい最近出た新訳のほうがいいかな.楽しゅうございました.

2016.5.8 (Sun)

水野昴 『偽る神のスナイパー』 (ガガガ文庫)

偽る神のスナイパー (ガガガ文庫)

偽る神のスナイパー (ガガガ文庫)

死者が蘇り、生者を襲う――その奇妙な現象が最初に確認されたのは八年前である。

中欧のある都市を起点に発生したその現象は、疫病が風にのって拡散するように、またたく間に世界全土へと広がった。

死してなお眠りを許されぬ、無数の亡骸たち。

――名を、レヴナント。

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死者が蘇り,〈レヴナント〉と呼ばれる屍と化し生者を襲う.世界中にまたたく間に広まったその現象によって,地球人口の七割以上が失われた.対レヴナント部隊に所属する元スナイパー,円吹芽は,レヴナントと同じ力を持った少女,ザイシャと契約し,人々を守る新たな力を手に入れる.

過去のトラウマによって,引鉄を引けなくなっていたスナイパーの少年が,戦うことを取り戻す.独特のどこかゲーム的な設定が細かく,物語に入りにくいのと,主人公を中心に,登場人物たちの言動がいちいちストレスになりやすいのとで全体的につらい.人命を救うことを何よりも優先する主人公というのはよくある話ではあるけど,目の前のひとを救うために暴走し,命令を無視して死にかける,というのを当たり前のことのように繰り返すのがなあ.