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十七段雑記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2016.7.26 (Tue)

渡航(Speakeasy) 『どうでもいい 世界なんて ―クオリディア・コード―』 (ガガガ文庫)

朝の時報代わりに、砲弾が飛び交っていた。

グッドモーニング、チバ。

東京湾に架けられた巨大な橋へと至るレールの上を装甲列車が走っていく。鉄輪は悲鳴のように軋みを上げ、旋回する砲塔が無骨な音を立てていた。

きっと、海の向こうでは戦争が始まるのだ。

否。

始まるという表現は正しくない。

この戦争は終わったことがない。

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未知の敵〈アンノウン〉によって崩壊し,侵攻を受け続けている世界.防衛都市・千葉に住む千種霞は,戦闘科から出向となった生産科のブラックな職場で,パワハラ上司のもと日々勤労に勤しんでいた.

TVアニメ『クオリディア・コード』の前日譚・千葉編前編.東京編の「そんな世界は壊してしまえ」,神奈川編の「いつか世界を救うために」とはだいぶ毛色が違うかな.戦争が日常となり,人口の一割しかいない戦闘科が,のこり九割の非戦闘員の上に立つ世界,というか社会をいかにして,どのように変えるか,という.異能力は最低限しか描かれない.破滅はしないけどカタルシスもなく,楽しくない日常がだらだら続いていく息苦しさが底にあるかな.民主的な手続きや,政治的な根回しを簡単に捻り潰すことができる暴力という力,という事実をシンプルにはっきり書いていて驚いた.ライトノベルのオブラートと,気取ったテキストで包んでいるようで,それほど包む気はなさそう.まあ,「人類の敵は仕事」って書いてるもんな.後編を読まないとわからんな,と思いました.

2016.7.23 (Sat)

海津ゆたか 『ヒイラギエイク』 (ガガガ文庫)

ヒイラギエイク (ガガガ文庫)

ヒイラギエイク (ガガガ文庫)

ヒイラギの垣根」

「うん? 突然になんのこと?」

「あれはね、ただの垣根じゃないの。ヒイラギの葉っぱってギザギザしているでしょ。あのギザギザは、よその人が村に入ってこないようにする魔除けなの。ヒイラギに守られながら村の人は村の中だけを見ているのよ。世界のどこかで何万人が死のうとも、隣の家の跡取りが誰になるかの方がよっぽど大事なの。そういうせせこましいところが嫌いなの」

「そうなんだ」

「そうなの」

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長野県玉川村.中学二年生の荻原出海は,叔父の住むこの村で夏休みを過ごすことになる.村で出会った同級生の四人の少女と賑やかな夏を送る夏はとても楽しいもので.

第10回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作.花火,水泳,信州弁を話す白いワンピースの少女.ザ・夏というか,「完璧な夏の長野」といった風情のすこしふしぎ小説.と思いきや,「ひぐらしのなく頃に」のような不穏な雰囲気がじわじわと強くなり,そのうえさらに……という.いろいろな要素を詰め込んだ題材はとても魅力的なんだけど,どの要素も掘り下げと説明が足りない印象がある.結果的に,中途半端な中学生ハーレム小説になってしまっていた.ちょっと惜しいかな.それにしても,ハヤカワの『松本城、起つ』といい,今月は長野SFの月だな(こちらにも松本城が出てくるし,作者が長野県出身ということも共通している).

2016.7.21 (Thu)

浅倉秋成 『失恋覚悟のラウンドアバウト』 (講談社)

失恋覚悟のラウンドアバウト

失恋覚悟のラウンドアバウト

――特定保健用食品――

「あ、あの……ごめんなさい」あたしはたまらず博士に声をかける。「な、なんでこの拳銃『トクホ』なんですか?」

「ん……あぁ、それか」博士は小さく頷く。「本物の拳銃と見分けがつかなくなると困るからね、遊び心でロゴマークを入れておいたんだ」

「……いや、にしたって、他にいくらでもやりようがありそうな」

「摂取し続けると体にいい影響がありそうな感じで、なかなか魅力的だろう?」

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北関東と南東北の間あたりにある日の下町.この町で起こった,いくつかのちょっとした恋と嘘と諍いが,やがて町全体を巻き込む大きな渦になってゆく.時系列の重なりあう五つの連作短編と,その五つの集大成となる短編からなるドタバタ群像劇(?).どこかトンチンカンなひとびとの恋のすれ違いや,トンチンカンなアイテムが,軽妙なテキストでユーモアたっぷりに語られる.個々の短編は,舞台がひとつの町ということもあって『それでも町は廻っている』の小説版みたいな感じ.全員集合のフィナーレとなる表題作「失恋覚悟のラウンドアバウトは想像してたよりだいぶおとなしかった.まあ「ラウンドアバウト」だから衝突したり事故ったら困るわけだけど.お気楽なコメディとして悪くないので,それこそ「それ町」が好きなひとならさっくり読んでみるのがいいかもしれない

2016.7.17 (Sun)

相沢沙呼 『小説の神様』 (講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)

帰宅し、布団に籠もる。

僕は喘いだ。ひたすらに喘いだ。わけがわからなかった。

小説を書き続ける意義が、僕には理解できない。こんなふうに罵られて、こんなふうに嫌悪されて、それでも続けなければならない理由を、見付けられない。

僕は暗い部屋の中、毛布を被り、ひたすらに呻く。泣いたところで、心を軋ませる痛みが治まるわけでわないのに、それがわかっていながら、みっともなく涙を流し続けた。

小説なんて糞の役にも立たない。ただただ、それは僕を苛むだけ。

僕は小説が嫌いだ。

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中学生で覆面小説家としてデビューした千谷一也.その作品はネットで酷評され,売上も振るっていなかった.小説を書く意義を失い,書けなくなりつつあった一也の前に,同い年の人気作家,小余綾詩凪が現れる.詩凪と一也は,担当編集の提案により小説の合作をすることになる.

彼女には“小説の神様”が見えるのだという.小説家が「小説を書くこと」や,物語にできることについて書いた青春小説.凄まじい.吐いたであろう血反吐の跡が見える小説をはじめて読んだ.良いことも悪いこともひっくるめて,作者の経験したことの,おそらくすべてを叩きつけたのだろうな.端々から立ち上がる熱量が凄いことになっており,浮き沈みの激しい心理描写に胃が重くなり,心が引きずられる.売れたい,から始まる一也の小説に対する考え方も,かなりの面で作者の本音が入っているんだろうな,と想像させられた.

陽向と日陰に象徴される,キラキラした景色が美しく,小余綾はエロ可愛くて良い.ちゃんと太もももあるし.「物語を愛するすべての人たちへ捧げる」というのは嘘ではない.本当に,凄まじい傑作だと思います.

2016.7.16 (Sat)

小林泰三 『ウルトラマンF』 (早川書房)

「被験者の頭部についている装置は何?」

「あれが今回の実験の目玉です。あの装置の一部は頭蓋骨を貫通して、大脳皮質の中に挿入されています。前頭葉を直接制御する試みなのです」

「そんなことをして大丈夫なの? いろいろな意味で」

「どういう意味かはわかりませんが、怪獣から抽出した血清を人体に注入している時点で大丈夫ではありません。いろいろな意味で」

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「あなたが早田であるはずはない」光弘は言った。「以前にもあなたはその姿で僕の前に現れた。あなたは……ウルトラマンですね」

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ウルトラマンは地球から去った.科学特捜隊の井手たちは,対怪獣用特殊装甲の開発と同時に,早田進の肉体の解析を進めていた.その実験の際,かつてメフィラス星人の仕業で巨大化させられた富士明子隊員が,再び巨大化してしまう.

ウルトラマンが去った後の地球に,新たな光の戦士が現れた.『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』の間の時代を舞台にした,新しいウルトラマンの物語.小林泰三ウルトラマンと言えば『ΑΩ』だけど,巨大フジ隊員をフィーチャーするならあんなひどいことにはなるまい,と思って読みはじめたらもっとひどかったという.怪獣の細胞を利用した巨人兵士を始めとした,悪趣味というか外道さが炸裂している.ブルトンやバルンガの細胞を利用した兵器や,わりといい加減な描写で破壊されてゆく大阪,名古屋,京都が妙な味を出しているのも,実にこのひとらしいというか.終盤に向けて,ちゃんとヒーローものになることにむしろびっくりした.出番は少ないながら,強い正義感を示す早田の存在感が効いている.ゴモラジャミラ,ビースト・ザ・ワン,巨大ヤプール,Uキラーザウルス,そしてウルトラマンに激しい憎悪を抱く闇の巨人といった怪獣たちも,それぞれ個性を発揮している.楽しゅうございました.