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十七段雑記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2016.6.22 (Wed)

ハマカズシ 『勇者に期待した僕がバカでした』 (ガガガ文庫)

魔王は全員の不安そうな顔を見渡し、口を開く。

「この世界の悪は僕たちがまとめて引き受けよう。大丈夫、責任は僕が持つから」

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30年ぶりに現れた勇者を前に,魔界は大わらわ.しかし,その勇者は30歳職歴なしのニートであった.ダメな勇者をなんとか盛り立てようと,魔王ゴルディアスと四天王,そして魔王秘書のエルブランコとその部下の新人ウニベルたちは奮闘するも,やることなすこと,奇跡的にうまくいかない.しかしこれも仕事,文句は言っていられない.

第10回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作.ファンタジー世界における勇者や魔王共存関係の話.最近では珍しくなさそうな話ではあるのだけど,魔王の上司と空気の読めない部下に挟まれる中間管理職が主人公というのは新しい,のかもしれない.想定読者の年齢層の上昇を感じる.

登場人物は空気の読めない部下,プレッシャーをかけてくる上司,パワハラをかけてくる取引先,そしてダメ人間すぎる勇者と揃っており,読んでる最中のストレスは高い.それぞれが成長と信頼を見せてゆく中盤からの,終盤の畳みかけるような展開は悪くなかったのだけど,ちょっと性急だったかな.悲劇のダメ人間だと思われていた勇者が実は……というくだりはもっと拡げられた気がする.

2016.6.19 (Sun)

深沢仁 『英国幻視の少年たち2 ミッドサマー・イヴ』 (ポプラ文庫ピュアフル)

妖精の国へ行くときに、持っていくもの。

サフラン、新鮮なミルク、焼きたてのパン。

機械類、特に時計は携帯しないこと。服装はアースカラーが望ましい。香水など、人工的で不自然な香りは身につけないように。靴は革靴を。

宝石は、本物ならばつけていってもよいが、その場合は盗まれることを覚悟するべし。

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お前らイギリス人はだからだめなんだよ。シェイクスピアの読みすぎだ。そんな悲恋、時代遅れなだけで面白くもなんともない」

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カイが生活能力ゼロのランスと同居を始めてから約半年.夏至が近づいてきたある日,ウィッツバリーで子供が妖精に連れ去られる事件が起こる.子供を連れ戻すため,カイはランスに付き添って妖精の国に行くよう,英国特別幻想取締報告局から命じられる.

夏至前夜(ミッドサマー・イヴ)は,妖精の国とこの世界がもっとも近づく日であり,ウィッツバリーのどこかに妖精の国への道が繋がるという.現代英国のファンタジー第二巻のテーマは取り替え児(チェンジリング).「寂しさも優しさも、ほとんどおなじ」という作中の思想が,テキストと物語の両方に反映されているのな.一巻(感想)の時点では冷静な印象が強かったテキストも,今回はどっかしらぶっきらぼうさと温かさ(とイギリスらしい皮肉)が感じられるものになっている.

意思表示が下手くそで,嘘はつかないけど本当のことも言わないという,ふたりの共通点と距離感がえっらいかわいらしいのよ.どっちも男なんだけどさ.性格の悪いイギリス人たちや,無邪気な妖精たちもいちいちほんとかわいい.終盤に描かれる,妖精の国の不思議な緊張感も素晴らしい.英国の竜宮城,という例えには膝を打った.続きが出ることもすでに決まっているようで,本当におめでたい.現代ファンタジーや,男同士の友情()が好きなら,男女関係なく読んでみるといいと思うよ.

2016.6.15 (Wed)

新八角 『血翼王亡命譚 II ―ナサンゴラの幻翼―』 (電撃文庫)

六つ時の鐘が鳴って、彼が帰る。相変わらず無愛想に、でも手をこちらに振りながら書棚の影に消えていく彼を見送った。

すると静けさがやってくる。大きくて暗い静けさが書庫の底から滲みだす。夕陽が地平線へ消え入る寸前の、命を尽くすような残照が訪れる。

書庫が燃えるようだ。

そして燃えるような孤独があるのだ。

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私を愛せ。

私だけを愛せ。

全てが終わってしまってもいいから、それでも私だけを愛せ。

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「翼人の墓」と呼ばれる街,ナサンゴラへ行くことにしたイルナとユウファたちは,ナサンゴラ出身の行商人,ジルとサーニャの母娘に道案内を依頼する.古い坑道を抜けた先にある街に辿り着いた一行だったが,街に現れた凶兆によって,自警団にとらわれてしまう.

大きな災いに巻き込まれた古い街の,「母娘」を巡る長大なる悲劇.すごかった.類を見ない魅力的な世界をさらに拡げつつ,「親子」に焦点を置いた物語が描かれる.鳥によって造られた世界,生体機械である虫,かつて存在したという翼人.アイデアの面白さにアウトプットがまったく追いつかなかった感のある一巻(感想)から比べると,信じられないほどの長足の進歩が見られる.小説としては粗いところはまだあるんだけど,剣戟(燕舞)や場面の描写はときどきハッとするほど美しい.一巻があれで,二巻がこれだとすると,三巻がどうなってしまうのか,本当に想像がつかない.今のうちに追っておくと自慢できるようになるかもしれないぞ.

2016.6.14 (Tue)

カミツキレイニー 『七日の喰い神3』 (ガガガ文庫)

七日の喰い神 3 (ガガガ文庫)

七日の喰い神 3 (ガガガ文庫)

天真爛漫な眩しい笑顔を見て、誰かが「まるで天使だ……」とつぶやいた。店内がざわつく中、七日だけが腕を組み、冷静に変身を見つめている。

「……いや、あんな太い天使いる?」

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「六花のマガツカミ」のひとり,ヘリアンサスが密かに護送されるとの情報を得た古川七日とラティメリアは,高級蒸気機関車カムパネルラに乗り込む.何の因果か,そこに集うかつての「六花隊」.それぞれの思惑を乗せて,汽車は走り続ける.

二巻(感想)がかなりヘヴィだった反動か,コメディタッチな始まりで,アクションも多めの三巻.コメディといっても,連続殺人や連続人喰いが出たりはするのだが.止まらない汽車のなかで,大量のマガツカミと戦う,化け物揃いの元六花隊.それぞれの思惑が交錯するも,良い意味でシンプルなストーリーになっていると思う.イラストもシーンや幕間にうまくマッチさせており,ストーリーを盛り上げている.なんというか,小説とイラストが良いフィードバックをしているように見えるのよね.良い作品だと思います.

2016.6.9 (Thu)

東亮太 『異世界妖怪サモナー 〜ぜんぶ妖怪のせい〜』 (スニーカー文庫)

ビキニアーマーっ! ビキニアーマーっ!」

興奮のあまり、俺はそのステキな名詞を叫び続けた。だってそうだろ。ビキニアーマーと言えば、紛れもなくすべての異世界ファンの夢と憧れと煩悩の象徴。つーか、これで決まりだ! ここは異世界以外の何物でもない!

「よっしゃ、ついに俺は異世界に来たんだ! すげーよ、本物の異世界だ! 本物のビキニアーマーだっ! いやっふぅっ! ……で、あんた誰?」

ビキニアーマーのついでに訊かないでっ!」

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異世界が大好きなラノベオタクの高校生,神野琥珀は,ある日本当に異世界に転生してしまう.しかも予言の召喚師(サモナー)の能力つき.ビキニアーマーを着た冒険者志望の女騎士との出会い,そしていきなりモンスターに襲われるふたり.さっそく能力を発揮するコハクだったが,彼が召喚できるのは元いた世界である日本の妖怪だけであった.

京極夏彦も大推進」らしい異世界妖怪ファンタジー.最近の異世界転生もののお約束を忠実になぞりつつ,妖怪というエッセンスをうまく使って,絶妙に外してくれる.どこがすごい,というわけではないけど,軽妙なコメディとしてよくまとまっていると思う.主人公の名前がある伏線になっているのはちょっと良かったかな.知ってるとニヤッとできると思う.しかし前作でもちょっと思ったけど,つくづく器用貧乏な作家だよなあ.お気軽な気持ちでどうぞ.