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十七段雑記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017.2.19 (Sun)

柞刈湯葉 『重力アルケミック』 (星海社FICTIONS)

重力アルケミック (星海社FICTIONS)

重力アルケミック (星海社FICTIONS)

「若松から郡山まで何キロあった?」

「確か830キロでしたね。ここんとこ膨張ペースは安定してますよ」

「へー。おれの時は805キロだったよ。受験番号と同じだったんでよく覚えてる」

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僕たちが使う実験用重素は、先輩たちが合成に使っては教員が分解して再結晶、合成分解再結晶、合成分解再結晶、を何代にもわたって繰り返してきたものらしい。補充のための予算は基本的につかない。教授の定年退職などで研究室が解散する際、余った重素が学生実験用に受け継がれるのだ。戦時中は「重素の一粒、血の一滴」という格言があったそうだが、現代ではそれよりも枯渇しているわけだから何と比べていいのか分からない。

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重力を司る物質である“重素”の採掘によって,地球は断続的に膨張を続けていた.2013年,会津若松で生まれ育った湯川航は,東京の大塚大学理工学部に入学する.どこか遠くに行きたいという思いだけで,特に興味もない重素工学科でだらだらしていた航だったが,バイト先の古本屋で偶然見つけた「飛行機理論」が彼の人生を大きく変えることになる.

重力の素である「重素」の利用が実用化され,その採掘が原因で地球が膨張している世界.その世界での,現代日本の大学生を描いたボンクラ青春SF小説.理系の森見登美彦というか,なんともとぼけたボンクラ味がある.わりとあらすじ詐欺かもしれないけど,世界の姿から社会や大学生活まで,様々なレベルの描写がとても大胆かつ緻密.それでいて読んでいて肩がこらない.地球はどんどん膨張を続け,重素が実用化された代わりに「飛行機」の概念は忘れ去られていて,フロギストン,カロリック,エーテルの存在が証明(もしくは理論化)されたらしい世界.本当に楽しい.この世界の科学史を読んでみたくなる.良い青春SFでした.

2017.2.17 (Fri)

丈月城 『カンピオーネ! XX 魔王内戦2』 (ダッシュエックス文庫)

かくして、魔王内戦は終わった。

それはすなわち、最後の戦いのはじまりでもあった。

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生き残った者が「最後の王」との挑戦権を手にする魔王内戦.7人のカンピオーネたちの戦いが決着する.「最後の戦い」を前にしたバトルロワイヤルも,いまひとつ新鮮味がない.シリーズのお約束をしっかり踏襲しているのが裏目に出たのか,緊張感も薄い.まあ終わりも近いことだし,見届けたいと思います.

2017.2.15 (Wed)

ツカサ 『銃皇無尽のファフニールXIII スターダスト・クライ』 (講談社ラノベ文庫)

「そう――だから人間にとっての“光”に当たるものが何なのか。それを考えるべきだったんだよ。俺はさっき皆に名前を呼んでもらって、やっとその答えに辿り着いた。人間が他人や物を識別し、定義するために使っているのは――声に乗せた言葉だ

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かつてアトランティス大陸が存在した場所にある不可知領域.そこは,サード・ドラゴン,“真滅”のラグナロックの霧に包まれていた.その中には霧で再現されたアトランティスの都市が存在した.

クライマックスが近づきつつあるシリーズ13巻.終焉残滓(エンドマター)上位元素(ダークマター),他にも様々なドラゴンの名前が出てきて,伏線もあれやこれや.いかにもクライマックス前といった感じで情報量が多い.そして読むたびに言っているけど,ハーレムシーンは取ってつけたようでどうもうまくないよね.

2017.2.10 (Fri)

枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #01』 (スニーカー文庫)

「ちゃんと、見ておきたかったんだ。自分たちが、何のために命を遣うのか」

終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#01 (角川スニーカー文庫) | 枯野 瑛, ue |本 | 通販 | Amazon

人類が死に絶えてから五百年.浮遊大陸群(レグル・エレ)のライエル市は,隣の浮遊島を蝕んだ〈獣〉によって,滅びを目の前にしていた.護翼軍の四位武官,フェオドール・ジェスマンは,避難民が消えて閑散とした街でひとりの少女に出会う.

「終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?」の約5年後を舞台にした,次世代の黄金妖精(レプラカーン)たちを描く物語.反逆者として処刑された兄の背中を追い続けるフェオドール,世界を救うために犠牲となった先輩を追い続けるティアット.いなくなったひとに縛られた結果,いろいろなものをこじらせた,似ているようで似ていないふたりのすれ違いが可愛らしい.世界の置かれた状況説明は前シリーズで済ませたので,今後はそういう世界で生きる人々や社会の描写が濃くなっていく,のかな.楽しみに追いかけようと思います.

2017.2.8 (Wed)

柴田勝家 『ゴーストケース 心霊科学捜査官』 (講談社タイガ)

「お前は霊に肩入れしすぎる。あれは一種の自然現象、災害にすぎない。僕には、お前のように擬人化した霊と接する趣味はない」

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霊子科学の発展によって,霊の存在が実証された現在.地下アイドル,奏歌のCDを聴いたファンによる連続自殺事件が発生する.CDの呪いの科学的解明に,陰陽師にして心霊科学捜査官の御陵と,警視庁捜査零課の刑事,音名井のコンビが挑む.

陰陽師と刑事,ふたりのはみ出し者によるバディもの.「科捜研の女」みたいな話だとご本人が言っていました.作者の姿を強く投影しているであろう主役二人によってバディもののお約束を踏襲しつつ,地下アイドル(のファン)の世界と,CDの呪いがもたらす連続自殺事件を描いてゆく.ミステリとしては,人間の意識を司る「霊子」と,人間が死の瞬間に発する「怨素」の存在が鍵となる.雰囲気たっぷりに書いてるけど,事の真相はかなりバカだしトンデモない.ファンあってこそのアイドル,……ってそういう意味なんだろうか.SFファンより新本格ファン向けかもしれない.