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十七段雑記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2016.12.3 (Sat)

岡本タクヤ 『異世界修学旅行4』 (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 4 (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 4 (ガガガ文庫)

だが、俺たちはそれを知っている。実際に見たことがなくとも、俺たちはその姿を幾度となく眼にし、そして彼女の名前を知っている。そう、その名は――。


――自由の女神


「ここは、アメリカだったのか……」

からからに渇いた喉から、ただその言葉だけがこぼれ落ちていった。

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中世ファンタジー風異世界で行方不明のクラスメートを集めつつ,プリシラたち一行は修学旅行を続けていた.巫女託宣に従い,海へ向かうために訪れた港町で,彼らはエルフが住むという幻の島の噂を耳にする.

伝説のエルフの島は実在した.『指輪物語』というか,行きて帰りし物語を強く意識したのであろうシリーズ四巻.ひょっとしたらDASH島かもしれないけど,一貫したテーマが感じられる.楽屋ネタも含めておバカでお気楽なネタの中に,なんだかんだと教養と趣味の良さが見える,気がして良い.かなり馴染んできたハイファンタジー宝田を始め,それぞれに個性がありつつ嫌みのないキャラクターたちのバランスの取れたやり取りも楽しい.安直なタイトルだけどちゃんと「修学旅行」なんよね.引き続き楽しんでおります.

2016.12.1 (Thu)

カミツキレイニー 『七日の喰い神 4』 (ガガガ文庫)

七日の喰い神 4 (ガガガ文庫)

七日の喰い神 4 (ガガガ文庫)

「……この女さえおらんかったら、お前の歯車もくるうことはなかった」

「彼女がいなければ――」

龍之介はやはり微笑みを湛えたまま。

「僕はただの悪党だったよ」

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祈祷士協会を解散させようとするGHQと,解散させまいとする祈祷士たちの対立は,中部支局長の暗殺によっていよいよ火蓋を切ろうとしていた.一方,関東支部局長の龍之介は,戦時中からのある悲願を遂げようとしていた.

六花のマガツカミをめぐる戦いが完結する,シリーズ最終巻.「戦後」の時代に六花のマガツカミが生まれることになった,シンプルな理由が明らかになる.弟 vs. 想い人となる最後の戦いといい,振り返ってみると,ひとりの女性をめぐる徹底的にシンプルな話だったのかもしれないね.良い最終巻でした.

2016.11.26 (Sat)

川岸殴魚 『人生 ぷち』 (ガガガ文庫)

人生 ぷち (ガガガ文庫)

人生 ぷち (ガガガ文庫)

三人が三人とも激しく主張をぶつけ合う。

反物質VSゼウスVS筒香。ダークエネルギーVSポセイドンVS中畑。いずれが魅力的なのか、三つ巴の戦いが展開される。

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中高生(たぶん)から次々と送られてくる人生相談を,おなじみの第二新聞部が快刀乱麻に解決してゆく.読売中高生新聞に連載していた『人生 ぷち』の総まとめに,書き下ろしとイラスト描きおろしを加えたシリーズの最終作.しかし,メインの登場人物で影も形も見えないひとが3名ほどいるのは触れてもいいものなのかな.

読んでみると番外というか,公式の二次創作のようなイメージ.あらゆる相談ごとへの回答を,すべて4ページという同じ尺で完結させているのがなかなか痛快.単行本化したものをまとめて読んでいるからだと思うけど,第二新聞部無双というか川岸殴魚無双というか,とにかくすごい無双感がある.もともと題材的に向いているのもあるのかな.連載でも,ギャグの安定感は本編と変わらない.さすがでございました.

2016.11.22 (Tue)

ツカサ 『天球駆けるスプートニク 未到の空往く運送屋、ネジの外れた銀髪衛精』 (ノベルゼロ)

西暦二〇三〇年七月七日、旧日本時間で十六時三十二分十六秒――その瞬間に人類は空を奪われた。

全天を覆い、地上へ降り注いだ無数の光。それらは性格に周回軌道中の人工衛星と飛行機を貫き、撃墜した。

その一時被害による死者は約九十万人。落下物や火災などによる二次的な犠牲者は、世界中で五百万人以上。

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西暦2030年.地球上空に現れた正体不明の72機の飛行物体,“衛精”によって,人類は199フィートより高い空を失った.それから17年後の西暦2047年.北太平洋の最速横断記録を持つ運び屋,イバ・タクロウの元には,今日も様々な依頼が転がり込んでくる.

地球は200フィートより高い空を奪われた.思考実験の一種のような状態になった近未来の地球を舞台に,運び屋の男と犬耳銀髪少女を描く.200フィート(約60メートル)という超低空を飛ぶことを強いられる(それより上空に行くと衛精に撃墜される)超低高度飛行艇(ULF)のスピード感があまりないのが惜しいかな.あと,舞台やテーマの大きさに対して,描かれる視点はあくまで主人公寄りのミクロなもの.それもひとつの方法だし悪いわけではないのだけど,もしシリーズ化するのであれば,今回の主人公ふたりにこだわらず,この魅力的な世界の地球をもっとマクロな視点で描いてくれるといいな.例えば生態系の変化とか,政治経済とか触れてないに等しいし.あとがきにあるように主人公をあえて「大人」にしたのであればいくらでも書けそうじゃないですか.

2016.11.20 (Sun)

希 『妖姫のおとむらい』 (ガガガ文庫)

妖姫のおとむらい (ガガガ文庫)

妖姫のおとむらい (ガガガ文庫)

両岸に迫る地層の壁に、化石が露出して延々と連なっていって、しかもそれが古代の恐竜やら虫やらの生き物が石となったものでない。

「なんで、こんなのがこんな風に……?」

『ご存じないと? お前さまたちが写真機、カメラと呼ばれる器械でしょう』

「いやそれくらいは判るんだが……」

半の困惑を見抜いた風なタイミングでまた響いてきたこだまの通り、どう見てもカメラ、それもクラシックなスタイルのものばかりが化石となって岩壁の面に露出していた。

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大学生の比良坂(なかば)は,同じ場所に長く留まり続けると徐々に味覚が失われるという病に取り憑かれていた.その体質ゆえに放浪癖のある半は,旅先で不思議な空間に迷い込み,笠縫と名乗る姫に出会う.

独特で癖の強いテキストと,レトロな雰囲気で描かれる幻想小説.いかにも和風の舞台に,妖怪といった道具立てなんだけど,ストーリーの大筋は「不思議の国のアリス」のようでもある.アリス=男子大学生が,逃げるウサギ=妖姫を追ううちに,こちら側とあちら側を行き来する.行き来して何をするかというと,ものを食ったり酒を飲んだりするという.描かれるのはカメラの化石の峡谷,商店街の裏にある半地下の商店街といった景色に,最も幸福な瞬間をフラッシュバックさせる琥珀のパン,ツグミ貝の殻から生まれる月の酒といった食い物や酒.食べ物が大きなテーマだけあって,食べ物の描写には力が入っているし,イセッタに乗っての海釣りの描写も良い.派手さはあまりないけども,しみじみと良い幻想小説だったと思います.