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十七段雑記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017.1.19 (Thu)

みかみてれん 『滅びゆく世界を救うために必要な俺以外の主人公の数を求めよ』 (スニーカー文庫)

直後、手が空振りした。

「あれ?」

違う。

俺の手首から先がない。

「――」

血が吹き飛び、海に混ざる。

斬り飛ばされたんだと気づいた頃には、もうなにもかもが遅い。

男の姿は見えない。視界は真っ赤だった。

言葉を叫ぶこともできなかったのは、喉が斬り裂かれていたからだと知った。

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現代日本と異世界を行き来できる力を手に入れた元会社員のジンは,現代から異世界に転生した少女,リルネの護衛を請け負うことになる.リルネの15歳の誕生日の夜.ひとりの来訪者によって,街が壊滅する.

カクヨムで発表された同名作品の書籍化.転生した魔法少女と,特に転生してないけど行き来ができる無職と,異世界の魔女と.いわゆる異世界転生ものとしては,オーソドックスな構成,なのかな? 章ごとのシリアスとコメディの温度差がけっこう大きくて変化が唐突だと感じる.漫画だと違和感が少ないんだけど,小説になるとどうしても気になってしまう.

ストーリーはまさにプロローグというか導入というか.「主人公(メサイア)」という言葉も思わせぶりに出てくるだけだし,意味が説明されることもないし,そもそも「滅びゆく世界」を感じさせる部分もあまりない.連載小説らしい,大きな物語の予感は感じられるし,説明しすぎないのは個人的にはいいと思うのだけど,現時点では引きも弱いかなあ.このあたり,とりあえずWeb版を読んで判断できるのは現代の良いところかもしれないですね.

2017.1.18 (Wed)

冲方丁 『テスタメントシュピーゲル 3 上』 (スニーカー文庫)

ああ、間違いない、あいつが戦っている――果敢きわまりない突撃精神に満ちた不退転かつ怖いもの知らずの少女――すなわち陽炎がよく知る涼月が、陽炎が知らないどこかで、まったくもっていつも通りの奮闘を繰り広げているのだ。

それがわかった――泣きそうになった。

待っていろ夕霧――心の中でもう一人の仲間へ呼びかけた/怯えの一切が綺麗に吹き払われるのを感じながら――私達の小隊長が道を切り開くぞ

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西暦2016年,ミリオポリス.憲兵大隊(MPB)に所属する三人の特甲児童は戦っていた.情報汚染への対抗ユニットを運搬する涼月,それぞれに戦いに直面する陽炎,夕霧.混乱を極める事態は,徐々に収束してゆく.

とうとう迎えたクライマックスの前半.バラバラに戦っていた三人が,ふたたび集結しようという,このカタルシス,この無敵感.きっとこれで彼女たちは大丈夫.いろんなものがこみ上げてくる.陽炎でなくても泣くというか,読んでる最中にいちいち涙腺が刺激されて仕方なかった.続きを早く読みたいという気持ちと,次で終わってしまうのがほんとに惜しいという気持ちがいっぺんに来る.完結が来るのをお待ちしております.

2017.1.11 (Wed)

清水杜氏彦 『うそつき、うそつき』 (早川書房)

うそつき、うそつき

うそつき、うそつき

これから始まるのは、ぼくが身につけた技術を正しく使用しなかったせいで、どれだけの人間が死んでしまったかって話だ。

ぼくは倫理なんて捨てられかけたおかしな社会で生きていて、そこで毎日ろくでもないことをしながら暮らしていた。

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首輪の登場はこんなふうに人々のコミュニケーションの在り方を少々歪めることにもなった。

言葉にされない相手の感情についての「察し・思い遣り・推し量り」の余地が極端に狭くなってしまったみたい。

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国民管理のため,すべての国民に首輪型嘘発見器の装着が義務付けられてから数年が経った.報酬と引き換えに非合法に首輪を外すことを生業とする少年,フラノは様々な事情を抱えたひとの首輪を外していた.彼はある目的のため,とある首輪を装着したひとを探していた.

あるディストピア社会で苦悩する少年の正義を語る,第5回アガサ・クリスティー賞受賞作.嘘をつけなくなった社会がどのように倫理を失い,どのような歪みを抱えてしまうか.すべての国民が機械を騙す方法を模索するようになった社会の描き方はどことなく『PSYCHO-PASS』を感じる.ただ,首輪というアイデアから展開されたためか,物語的に都合のいいディストピアというか,オーダーメイドされたディストピアといった趣がある.社会を語る視点のほとんども少年の目を通したミクロなもので,そういう意味では描写も物足りない.ディストピア青春小説だから間違ってはいないんだろうけど,個人的には物語的な窮屈さのほうが勝ってしまう印象だった.

2017.1.9 (Mon)

橘ユマ 『うさぎ強盗には死んでもらう』 (スニーカー文庫)

「……分かりました。『君の大切な人は復讐なんて望んでいない』……この台詞が、何故こんなにも神経を逆なでするのか。『綺麗ごとだから』ではありません。むしろその逆です」

「逆?」

「おそろしく、汚いからです」

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第1回カクヨムWeb小説コンテスト・ミステリー部門大賞受賞作.上海最大手のマフィア,九龍新会の運営する電脳カジノで1300万ドルを稼いた伝説の賭博師“うさぎ強盗”.彼を中心に,マフィア,人身売買組織,殺し屋集団,ハッカー,アパレル店員が殺し殺され,騙し騙され.舞台は2015年の京都と2014年の上海を行きつ戻りつし,ふたつの時間軸の関係がだんだんと明らかになり,やがてひとつになる.どの登場人物もいちいち魅力的で,手加減のないハイスピードな展開と群像劇の醍醐味をこれでもかと味わわされた.個人的に良かったのが人身売買組織の新人社員,篠原.彼の抱える矜持や,迎えることになるラストには本当に泣きそうになった.

銀河ヒッチハイク・ガイド』や『ニンジャスレイヤー』といったネタも出てくるので,ミステリ畑だけでなくSF畑やニンジャヘッズにも広く読まれるといいな.特に忍殺は唐突に出てくるんだけど,そこで安直にアイエエエとか言わせないのはネタの使い方としてすごく良いと思うんだよね.勢い重視で人物の関係とかわかりにくいところもあるけど,そういうところも含めて愛おしい.傑作だと思います.

2017.1.8 (Sun)

牧野圭祐 『月とライカと吸血姫』 (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫)

彼女が成し遂げた偉業は、この先、誰にも知られることはないかもしれない。

皆から褒めたたえられることもなく、歴史に名を残すこともないのだろう。

それどころか、過酷な運命にあらがえず、存在すらも闇に葬られるのかもしれない。

だが、真実は違う。

彼女こそが、史上初の宇宙飛行士(コスモノート)だ。

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世界を巻き込んだ大戦が集結して10年.ふたつの超大国,東のツィルニトラ共和国連邦と,西のアーナック連合王国は,戦場を宇宙に移し,宇宙開発という名の熾烈な競争を続けていた.共和国はロケットで人間を軌道上に送り込む「ミェチタ計画」を発令する.その裏では,人間を宇宙に送り込む前段階の実験として,吸血鬼を宇宙へと飛ばす「ノスフェラトゥ計画」が進行していた.

宇宙に犬を送り出すことに成功した東の超大国が,次に選んだ実験体は吸血鬼だった.冷たい戦争の時代に繰り広げられたもうひとつの戦争と,その裏側にあった真相を描いた「宙と青春のコスモノーツグラフィティ」.スペースバンパイアは関係ありません.

超大国の徹底した秘密主義と権力争いに縛られ,実験体と監視役という間柄にありながらも,宇宙への憧れと夢がふたりを強く結びつける.ストーリーそのものはとても素直だと思うので,旧ソ連宇宙開発史の流れとか,もろもろの固有名詞の元ネタをどれだけ知っているかで,どこまで面白がれるかが決まりそう.自分はそのへん詳しい方ではないので,詳しいひとに読んでもらってネタの解説とかしてほしいな.