草上仁 『よろずお直し業』 (徳間デュアル文庫)

よろずお直し業 (徳間デュアル文庫)

よろずお直し業 (徳間デュアル文庫)

目には見えないねじを巻き直すことでどんなものでも直すことの出来る男・サバロの旅と出会いの物語.
カバーにあるような「心暖まるファンタジック・ストーリー」とひとことでまとめられるようなものではないと思う.パッと見では「いい話」集なんだけど作者が「人間」に向ける目は厳しい.形の見えない「時間」や「絆」が確実に存在することを仄めかしつつも,それは「暖かい」だけの単純なものではないし,不変でもない.ということをシニカルなようでシニカルからいちばん遠い位置から描いている.どこか露悪的.あんま好きなタイプの話じゃないしラストは煙に巻かれたような感じでなんとなく釈然としないものだったんだけどね.

谷口裕貴 『遺産の方舟』 (徳間デュアル文庫)

遺産の方舟 (徳間デュアル文庫)

遺産の方舟 (徳間デュアル文庫)

時は未来,大規模な異常気象によって地球は壊滅状態に陥り,人類はそのほとんどが死滅していた.そんななか空母アレクサンドリアに集まった人々は人類の遺産たる芸術品を回収し保存することを使命としていた.
薄い…….ネタや小道具はかなり多く詰め込まれているものの言葉の羅列止まり.160 ページと物理的に薄いなかで深堀りは出来ず(せず),悪い意味で強引に話が進む.一冊にこんなに詰め込まないでそれぞれのガジェットを掘り下げていけば同じ厚さの小説が 5,6 冊は出来そうな気がするんだけどなあ.結果的にはポストアポカリプス SF の表面をなぞって体裁を整えただけで内容も薄いものになっていた.残念.SF2001 に「二一世紀を担う作家」として参加しました,という内容なのに妙にダウナーなあとがきがいちばん印象に残ったという.