ジョージ・R・R・マーティン/中村融編訳 『洋梨形の男』 (河出書房新社)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

どんな意志の弱いデブでも短期間でみるみるげっそり痩せられる『モンキー療法』.いちおうホラーになるんだろうけど,デブのケニーが「デザートがいけないんだよなあ」「パンがいけないんだよなあ」とか言いながらあれやこれや,ほんとに旨そうにものを食うのがなんかやけに楽しい.ピザとスペアリブが食いたくなる.
思い出のメロディーは大学時代の友人グループで,ひとりだけ零落し取り残された女,メロディーの思い出と現在.呼ばれもしないのに押しかけてきて,かつて良かった時代の思い出をねちねち語るメロディーにはウザいを通り越して徐々に恐怖と狂気を感じてくるという.まあこういうひとけっこういそうな気もするけどね.
売れなくなった老小説家の家族の思い出が,現れた「子供たち」と交錯する『子供たちの肖像』.この一冊の中ではこれがベストだと思う.パッとしない人生を自分の生んだ小説の人物と語り合うことで浮き彫りにされるキャントリングは滑稽でありすごく哀れでもあり.
『終業時間』.持っていると満月の間だけ変身できる不思議な護符の変身の法則とは.スマートな話運びでたどり着く果てにあるのはのはあんまりな結末.好きすぎる.こういう話をもっともっと読みたい.
『洋梨形の男』は都会のアパートに引っ越してきたジェシーがその地下に住んでいた「洋梨形の男」に迫られる恐怖物語.身近にある恐怖と生理的な嫌悪感が合わさったぶよぶよの汚らしい男は都市型恐怖の象徴.
学生時代のチェス大会で臆病風に吹かれ,チームを敗退させたと言われ続けた男が復讐に転じる『成立しないヴァリエーション』.話そのものはかなり好きなんだけど,キャシーの豹変はもうちとなんとかならなかったのか.
以上短編六編.どれもハズレなし,面白かったです.