マイケル・シェイボン/黒原敏行訳 『シャーロック・ホームズ最後の解決』 (新潮文庫)

シャーロック・ホームズ最後の解決 (新潮文庫)

シャーロック・ホームズ最後の解決 (新潮文庫)

結局そういうことなのかもしれない。本当に。

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1944 年 7 月.イングランド南部に住む養蜂家の老人は,線路沿いに歩いていた,肩にオウムをとまらせた少年と出会う.声を出せない少年は司祭のもとに引き取られて暮らしていたが,その司祭館の下宿人がある日死体で見つかり,それと同時に少年のオウムが姿を消した.
『ユダヤ警官同盟』マイケル・シェイボンによるホームズのパスティーシュ.引退して 41 年,89 歳となった老人の「最後の解決」.良かった.隠居していた老人は少年との出会いにより旺盛な行動欲を取り戻し,死を意識しながらもガタが来ている肉体に鞭打って事件を解決へ導こうとする.まともに動かすにも苦労する体で,喋れない少年といっしょに黙々と蜂蜜を集める場面.約 20 年ぶりに訪れたロンドンの思いもよらない変化にまったく動揺を隠せない場面.かつて名声を誇った知識の冴えはそのままでありながら,老いは肉体と精神を確実に蝕んでいる,という.150 ページほどの分量の中,様々な面から光をあて,非常に細やかに容赦なく描き出される老人の姿には作者の愛情がにじみ出ていた.それだけに,事件の解決ののちに導き出したひとつの結論はあまりに切ないものと感じてしまう.私にとっての初ホームズだったので拾えていないところも数え切れないほどあったと思いますが,それに関わらず素晴らしいものでした.