ドン・ウィンズロウ/中山宥訳 『夜明けのパトロール』 (角川文庫)

薄く伸びた海のふちが、砂浜を柔らかな銀色の毛布で覆う。
東の丘からまだ太陽が顔を出したばかりで、パシフィックビーチの町は眠りの中にある。
大海原の輝きは、青でもなく、緑でもなく、黒でもなく、その三つを混ぜた不思議な色を帯びている。
それを横切る白い筋のうえで、ブーン・ダニエルズが、使い慣れたロングボードをあやつっている。愛馬にまたがるカウボーイのように。
ブーンはいま、“朝焼けサーフィン”(ドーン・パトロール)の真っ最中だ。

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カリフォルニア州最南端のサンディエゴ.生まれついてのサーファーである私立探偵ブーン・ダニエルズは,サーフィンを人生の一部として,仲間の“ドーン・パトロール”たちと日々波乗りを楽しんでいた.20 年ぶりの大波が間もなくパシフィックビーチに到達しようというある日,新人の美人弁護士補がブーンに仕事の依頼を持ってくる.
渋々引き受けた,さほど難しくないと思われた行方不明者探索が,6 人の仲間たちの有りようを大きく揺さぶることになる.アメリカのある書評では「サーフ・ノワール」と称されたそうな.ジョニー・バンザイ,デイブ・ザ・ラブゴッド,ハイ・タイド,ハング・トゥエルブ,サニー・デイ,そしてブーン・ダニエルズ.“ドーン・パトロール”の面々はもちろん,登場人物がいずれも人間的魅力満点で,それぞれにすげーカッコいい.場面展開も恐ろしく軽快で,良い意味でするする読める.西海岸のサーファー文化に対する描写も愛情たっぷり(「ビーチ・ボーイズの脳みそを粉々に吹き飛ばしてやりたい」がその極みではないか).素晴らしい作品でした.続編の邦訳も予定されているそうで,今から刊行が待ち遠しい.