一肇 『少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語』 (角川書店)

「これだけは云っておく」
宝塚は蝉のような声を轟かせた。
「才条三紀彦は女々しいやつであった。でかいことを云うだけ云ってあれほどの映画を完成させずに逃げた。あの世まで逃げてしまった。もう今更誰も糾弾せぬだろうからオレだけでも云う。そして、何度でも云おう。完成しない映画ほど罪の重いものはない」
振り返り、宝塚のその視線を受け止めた。
「手伝ってくれた人たちの努力、投じた予算と時間、期待した人々の思い、何より生まれ来るはずだった物語――そのすべてに対する裏切りだ。万死に値する」

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十倉和成は,熊本から東京のお坊ちゃん私大へ二浪の末に進学した20歳の大学一年生.ある目的を胸に抱きながらも流されるように日々を送っていた彼のもとに,下宿のボロボロの天井裏から絶滅危惧種大和撫子が這い降りてきた.
天井裏から現れた少女と,死んだ友人を追って上京したものの何をしたらいいのかわからない大学生がたどっていく道について,という青春ミステリ小説.森見登美彦とか万城目学とか針谷卓史とかの系統になるのかな.あるいは道半ばにして逝ってしまったハルヒを追って,その遺したものの真意を見出そうとするキョンの話,みたいな? 時代がかっていながらユーモラスで読みやすいレトロポップなテキストで,軽く読ませてくれる話なのかと思っていたら,「未来永劫変わらぬもの」を探求した友人の死の謎にはじまり,「映画を撮ること」に関わる人たちが持つ熱気と狂気,そして主人公の前に現れる幻想の数々と,重層的に話が加速してゆく.まさに「暴走」としか言えないクライマックスシーンは,なんとなく勢いに任せた若書きのように見えたのだけど,ある程度は狙って書いたものなのかな.この作品を「第2の処女作」と呼んでいる作者プロフィールを読んで思いました.