王城夕紀 『天盆』 (中央公論新社)

天盆

天盆

「お前、なんで嬉しそうに参りましたって言ってるんだよ」十偉は喜々としている凡天に呆れる。
まいりました、まいりました、と連呼する凡天に、うるさいうるさい、と口を塞ごうとする十偉を面白そうに見ていた二秀であったが、ふと、
「そう言えば、凡天が言葉を話すのを聞いたことがあったかな」
十偉はその言葉に手を止めて、二秀と見合う。楽しそうな凡天を見て、十偉は鼻白んだように、呟く。
「初めて喋った言葉が『参りました』って、お前」

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才がないことなどすぐに知れた。
ならば、血を吐くまで努力をすればいい。
努力で、才に食らいつけばよい。
ただ、それだけのこと。

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「天盆」とは,12×12の升目にそれぞれ12種類の駒を並べて争う盤戯である.天盆に長けた者が政を司る小国「蓋」の,貧しい食堂の13人きょうだいの末っ子である凡天は,その天盆の才により歴史の転換の渦中に立つことになる.
第10回C★NOVELS大賞特別賞受賞作.架空のゲーム(将棋のようなものを創造すればほぼ間違いない)が根ざした架空の国の架空の歴史を,ひとりの天才とその家族を中心に描く.あらすじを見て手に取ったらこれが傑作だった.流れるような語りに心掴まれ,そのまま一気に読んでしまった.ゲーム小説としては宮内悠介「清められた卓」を思い出した.ただひたすらに天盆を楽しむ凡天の凄みに,それぞれの考えを抱えながら,国よりも大きな「天盆」に臨む人々.家族小説が好きなひとも読んでみるといい.不穏な空気を纏いながら,爽やかで余韻が残る.傑作でした.