からて 『押し入れの中のダンジョンクラフト ―幸福で不幸で幸福な兄妹―』 (MF文庫J)

それは端から見たら狂った世界なのだろう。
一畳しかないはずの押し入れの中にこんな広い空間があるし、現実には存在しないモンスターがうようよしてるし、そのモンスターは尋常じゃない速度で成長する。
狂っていない点が一つも存在しない。
でも、それでも。
そこにあーちゃんがいるのなら、それは正しい世界なのだろう。

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かけがえのない非日常と。かけがえのない日常。
もう一つのかけがえのないものがあった。
だから僕は、どん詰まりに留まることができなかった。

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ある日のこと.高校生の椎名透が寮の押し入れを開けると,そこにはゲームのような広大なダンジョンが開けていた.訝しみながら侵入した透は,その中心にある大きな樹の根元で,死に別れたはずの妹に出会う.
こうして僕は今日も死んだはずの妹に会いにダンジョンに向かう.狂ったダンジョンで過ごす兄妹の,「幸福で不幸で幸福な」日々.デビュー作(感想)からしてそうだったけど,登場人物がみんな可愛いんだ.イラストや四コマもその可愛さに拍車をかけている.主人公の幼なじみである由美が特に可愛い.体型を気にしていて,前がはだけているのに胸じゃなくて真っ先にお腹を隠すとか,ちょっとびっくりするくらい可愛いじゃないですか.
だからこそ,死んだ妹を前にした透が周りが見えなくなって狂っていく,というか最初からおかしかったことがわかるのが本当に切ない.漂い続ける別れの予感.そして,彼を取り巻く周囲の人間の優しさに救われる,という.泣きそうになった.可愛らしくて切なくて優しい.とても良い作品でした.