三田千恵 『トリア・ルーセントが人間になるまで』 (ファミ通文庫)

トリア・ルーセントが人間になるまで (ファミ通文庫)

トリア・ルーセントが人間になるまで (ファミ通文庫)

「ジンドランで、生きてくれる?」
顔を上げると、ランスがトリアをまっすぐに見ていた。
「うん」
その笑顔で、嘘をつく。
人間になったのだと、そう思った。

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小国ジンドランの第二王子ランスは,兄の王子から病に倒れた父王のための薬を手に入れるよう特命を受ける.サルバドールと名乗る集団から手に入れた秘薬(ルーセント)は,トリアという名の無表情な少女だった.
世界を救済するという集団の三番目の「薬」(トリア・ルーセント)であり,感情や好みというものがなかった少女が,小国の王子と出会い「人間」となるまでを描くファンタジー.世界の語り方は丁寧かつ重厚.三つの国が国交を結んでいるという世界の有り様や,世界の救済を目的とする集団,何があっても殺してはいけないという王家の教えにも,しっかりした理由をつけようとしているのがとても良いと思う.確かな説得力が感じられて読んでて気持ちいい.ストーリーそのものは後半に向けて急展開,というより正直デウス・エクス・マキナではないかと思うんだけどね.このあたりのバランスが取れていれば,さらに良い作品になってたはず.ちょっと惜しい作品だと思っています.