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十七段雑記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017.6.28 (Wed)

坂下谺 『スクールジャック=ガンスモーク』 (ガガガ文庫)

防人はずっと苦悩してきた。こんなテロを引き起こしていいのかと。

だが彼がこの国に帰ってから二年を経ても、世界は変わらなかった。

ならばもう、自分たちの手で変えるしかないではないか。

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戦争を変えた二足歩行兵器,機巧外骨格.その搭乗者養成学校を狙うテロが発生した.機巧外骨格の整備士として学校を訪れていた黒宮凛児は,学校でトップクラスの操縦技術を持つ花枝連理と手を組み,因縁を持つテロリストと対峙する.

かつての戦争が生んだ栄光と呪いの結実.国を憂いた元軍人と,その部下だった元少年兵が対峙する,第11回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作.ダイ・ハードというか,学校にテロリストというか,ストーリーはあらすじからだいたい想像したとおり.新鮮味はあまりなく,一面的な印象が強い.テロリスト側が通り一遍の悪役で,いまいち義や魅力を感じないし,せっかくの「葦原皇国」という舞台も,いまいち活かしきれていなかった.

2017.6.26 (Mon)

枯野瑛 『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? #EX』 (スニーカー文庫)

誰もが、この亡国の王女に、悲劇の主人公であることを求めた。「かわいそうな女の子」であることを求めた。暖かな部屋から眺める雪景色のようなものだ。不幸な他人を見ることは、自分は不幸ではないと信じる人々にとって、ほどよい娯楽になった。

そしてリーリァは、素直な少女だった。

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今さらすぎるかもしれないけれど。

人に話したら、呆れられるかもしれないけれど。

クトリ・ノタ・セニオリスは、恋を始めているのだと。

少女はようやく、自分の中のその感情に、名前をつけた。

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「終末なにしてますか?〜」シリーズの外伝.500年前の正規勇者(リーガル・ブレイブ)リーリァの物語と,少し前の黄金妖精(レプラカーン)クトリ・ノタ・セニオリスの物語を描く.周囲の期待に応えすぎて空っぽになった勇者が,兵器として死ぬことが運命づけられた妖精が,500年の間を空けてひとりの準勇者(クアシ・ブレイブ)に恋をし,わずかな救いを手に入れる,という.なんというか,帰れる場所であり,つなぎとめる存在として描かれた主人公像が,よりわかりやすく描かれているような気がした.語り手がいつもと違うからなのかな.良かったです.

2017.6.21 (Wed)

ボストン・テラン/田口俊樹訳 『その犬の歩むところ』 (文春文庫)

犬というのは善意と愛を理解する生きものだ。だから人間にそれを求める。善意も愛も純粋な感情であり、創造の荘厳な産物だからだ。さらに善意と愛は消え果てたいくつもの魂を生き返らせる無限の夢だからだ。

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その犬の名前はギヴ.山奥の檻を食い破り,傷だらけになりながら山道を歩いていた彼は,イラクからの帰還兵,ディーン・ヒコックと出会う.人と静かに寄り添い生きてきた彼は何を見たのか.

ケネディ暗殺,9・11カトリーナ,数々の戦争.悲劇の中でも,ひとにはいつも犬が寄り添っていた.アメリカという国で様々なひとと出会い生きた,ある犬の物語.描かれる事件は悲しいこと,辛いことばかりだけど,物言わぬ主人公のギヴの強さやしなやかさに強く救われる.裏切られ,傷つけられても強く生きていく.昔飼っていた犬を思い出してじんわりしてしまった.犬が好きなら読んでみるといい.

2017.6.16 (Fri)

森川智喜 『バベルノトウ 名探偵三途川理 vs 赤毛そして天使』 (講談社タイガ)

「さっぱりわからんな!」

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地上に舞い降りた三人の天使たち.人間に見つからぬよう天界に帰るまで休息を取っていた彼女たちは,姿を見た男に小さな奇跡たる〈言語混乱〉を与える.地球上に存在しない言葉しか使えなくなった男を助けるために現れたのは,ふたりの高校生探偵,緋山燃と三途川理である.

言葉を奪われ,どこにもない言語を与えられた探偵たちの推理対決.今回は三途川が珍しくちゃんと仕事してるな……と思ってたら,やっぱり三途川だったという.未知の言語を解読し,何が起こったのかを検証する,という作業をわかりやすく描いているけど,ミステリとしてはかなり地味だし,架空言語SF的なものを期待するとかなり物足りない.もともと一冊ごとに完結で時系列もバラバラなシリーズではあるけど,特に今回ははじめて読むひと向けかもしれないと思いました.

2017.6.13 (Tue)

旭蓑雄 『フェオーリア魔法戦記 死想転生』 (電撃文庫)

例えば、と先生は続ける。本の限界を考えてみるといい。ページがなくなれば本と呼ばれなくなるか? あるいは文字か? 本が本足りうるには、何が必要なのか? 本の限界とは何なのか? その答えこそ、本という概念のデッドロックだ。

「そして死世魔法の目指す理想は、世界のデッドロックを外すことであるともいえる」

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世界は人の中にあるが、人は世界の中に存在している。独我論は昇華され、実在論は解体され、お互いの世界は境界線で一致する。

世界のデッドロックが、いま外れようとしている。

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死者の魂を操り,無尽蔵の兵器として運用することのできる死世学者の出現は,死の持つ意味を大きく変えた.稀代の死世学者,クレッシェンド・イマジナルと,その幼馴染みにして死霊器兵であるトトポンは,黒曜都市共和国(オブシディア)の傭兵として新教国からの首都防衛戦に参加する.

意識は世界の中にあり,意識は世界の中にある.参考文献としてラマチャンドランやらウィトゲンシュタインやらをあげている戦記ファンタジー.冒頭近く,死霊器兵と人間が槍衾をなす戦場の場面から浮かんだ第一印象は『屍者の帝国』ファンタジーかな.言葉のチョイスや問題意識もどことなく伊藤計劃っぽいかもしれない.多様性を求めて,感染し変化し増殖する魔法陣.思考では死を認識することはできない.死を認識する手段としての,“思考”という器官の外適応.頭の中にある「社会」.そもそも認識ってなによ,という.

衒学的なところもあるけど,温度低めで雰囲気十分のテキストで,次々と語られる理論がひたすら楽しい.この世と《彼の世》を利用したあるトリックや,「狂人」と評価されるヒロインの真に迫る描写も良い.傑作ではないかと思うのです.