2010-10-27
りんごの丸かじり。
当地で<きのこブーム>と時を同じくして訪れるのが、<りんごブーム>。早朝のきのこ採取を終え、冷えた体を暖めに給湯室へ戻り、食べたら食べた分だけ補給されるりんごの山から一つかみ。齧りつく前に軽くゴシゴシ、俄かに艶やかな光を放ち始める深紅の果皮とシャンパン色の果肉、そのコントラストに暫し見惚れる。
りんごを前にすると、過去から滲みだしてくる情景がある。時は、冷たい雨がそぼ降る季節。私は病人の枕辺に座り、独り本に目を落とす。どれほど時間が経過したろうか、彼の規則正しい呼吸音と雨音が充たす空間で、誰かが置いて行った見舞いの果物籠にふと目に留まった。何もかもを陰鬱の湖(うみ)に沈めてしまう蛍光ランプのもと、籠から覗くりんごだけが宝石のように瑞々しい。やにわに手に取り、慈しむように磨く。磨けば磨くだけ艶やかさを増してゆく丸い深紅の果実、それをただひたすら力を込めて磨き上げる。こころを空洞(から)にして、彼を蝕む病も、溢れ出そうな自身の感情も、世界を満たす汚点も哀しみも、何もかもを消し去るように。―――それが、あの頃の私の日課だった。
実は当地に移住するまで、りんごはそれほど食指の動くフルーツではなかった。たしかに病に伏したとき、育ての母が枕元に運んでくる「すりおろしりんご」は、熱にうなされ脱水症状を起こした四肢に沁み渡る滋味があったが、基本的にりんごは生食よりジュースやスイーツに加工された方が好みだった。それが当地に来て、何気なく漬物と共に供されたものを口にして驚いた。同じりんごでも、今まで口にしてきたものと地場産とではレベルが違う。これがりんごなのか、ただ八つに割っただけの生のりんごが、これほど瑞々しくて美味なるものか、と。衝撃は同僚のりんご園へ収穫の手伝いに行った折、さらに確信へと姿を変えた。―――りんごは<丸かじり>こそが一番美味いのだ、と。
そのときのりんごが同僚一家の自家用に収穫したものと知り、ますます興味が沸いた。彼の家で栽培しているのは、気品のある酸味が特徴で煮崩れしにくく、加工用としても人気の高い「紅玉」、堅く締まった果肉を特徴とし、越冬も可能な寒さに強い「ふじ」。「ふじ」に関しては十一月が収穫の最盛期、「紅玉」に関しては、昨年碧猫さんのアプフェルクーフェンエントリを拝見したとき既にシーズンが終わっており臍を噛んだ記憶があるため、即座に一年越しの買付け予約を入れていたものである。
「紅玉って、一時期あんまり見かけなくなかった?」
首を長くして待ちわびた採れたての「紅玉」を携え出社した友人に、さっそく水を向けたところ、かつて「国光」とともに日本の二大品種として主流であった「紅玉」は、甘味の強い他品種に押され生産者が減ってしまった事、その後、手作りスイーツブームに乗って徐々に人気を回復し、最近また生産が増えてきたこと、味はがっしりとした幹の老木の方がよく、若い木から採れたものは酸味が強い尖った味になる。あの美しい深紅の果皮に水玉模様の黒い斑点ができ始める頃が、食べごろの目安であることなど、さすが本業だけあって淀みのない口調でご講義頂いた。これまで、できるだけ黒い斑のないものを選んでいた筆者としては目から鱗だったのだが、如何だろうか。
さて、連日の丸かじりはもちろんだが、「紅玉」は他品種に比べてボケやすいという特徴があるうえ、なにしろ消費担当が一人の我が家にとって、今年はあり余るほどの入荷量。なにより碧猫亭へのテロ返し(?)として「秋に美味しかったもの」特集を組むならば、やはり少し手を加えた方がよさそうである^^;
▽食材一覧
| 紅玉りんご | 6個 |
| 赤ワイン | 400〜600cc |
| 白ワイン | 400〜600cc |
| 砂糖 | 紅白それぞれ、りんごの30〜40% |
| レモン | 1個 |
▽レシピ
| 01 | りんごの皮をむき半割にすれば、スプーンで芯をくり抜く。 剥いた果皮は後で別利用するので、捨てずにとっておく。 | ![]() |
| 02 | ![]() | りんごは半量ずつ別なべに入れ、それぞれ砂糖とレモン汁を加える。 |
| 03 | それぞれの鍋に、ワインをりんごがかぶる程度まで注ぎ入れる。 | ![]() |
| 04 | ![]() | 落し蓋をして火にかけ、煮立ったところで弱火に切り替えて15分。 お好みでシナモンを加えてもよい。 竹串がすっと刺さるようになれば火を止めて、そのまま自然に冷ます。 |
身近な素材であっという間に作れる割に、二色並べると見栄えがして、おもてなしの際に重宝します。
コンポート液に浸しておけば、3〜4日の冷蔵保存が可能。
水を一切使用しないで作ったコンポート液は、ソーダで割って飲用する他、アップルフレーバーのワインゼリーにも利用できます。
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まだ十分に果肉にワインが沁み込んでいないため、若干色ムラが気になりますが、ひと晩おけば真っ赤なコンポートが出来上がります。
▽食材一覧
<<フィリング>>
| 紅玉りんごの赤ワイン煮(半割のものでなく、薄くスライスしたもの) | 2個分 |
| シナモン | 適量 |
<<アーモンドクリーム>>
| 全卵 | 3個 |
| 無塩バター | 225g |
| 砂糖 | 125g |
| アーモンドパウダー | 300g |
| バニラエッセンス | 適量 |
▽レシピ
焼き型から外し、アイスクリームにシナモンスティックを添えれば、出来上がり。
あつあつを召し上がれ。
上から粉砂糖を少しだけふるうと、りんごの赤ワイン煮の色がさらに惹き立ちます。
奥に見えるのは、焼き型から外す前の状態。
りんごと赤ワインのエキスがほんのり沁みて、きつね色に焼き上げたアーモンドクリームは香ばしくて大変美味。
「タルト・タタン」とは、タタン姉妹がアップルパイを作ろうとして失敗した結果、生まれたお菓子の総称。
由来は諸説あり、
1.むかし、タタン姉妹がりんごのタルトを作ろうとして、うっかりひっくり返してしまった。仕方なくそのまま逆さに焼いたところ、下にたまった砂糖がりんごにしみて、アメ色のりんごの香ばしいタルトになった。
2.型に先にりんごを入れてしまったため、慌てて上からタルトをのせ、焼き上げた後で逆さまにした。
などがあるそうです(『タルト・タタンとは』参照)。
このレシピが本場のタルトタタンと違う点は、以下の2点。
1.キャラメリゼ*1したりんごの代りに、基本レシピにて紹介の赤ワインのコンポートを使用した点。
2.タルト生地(パート・ブリゼ)を使用せず、アーモンドクリームで焼き上げた点。
ちなみに、フランスのタルトタタン協会では、りんご、バター、砂糖、ブリゼ以外を使った物はタルトタタンと認められないそうですが(汗)、一度で二度美味しく、キャラメリゼしたりんごより見た目が鮮やか、さらに焦げ付き皆無で鍋を傷めず、後始末も楽ちん。これぞ、"ずくなし*2"レシピの特徴ということで^^;
本来フライパンで焼き上げるタルトタタンは、最後にひっくり返して型から外すまで、成功したかどうか判らない気の抜けないお菓子。慣れてくれば、そこがドキドキできて面白いところでもあるのですが、いざおもてなしデザートとして作るとき、失敗は許されませんよね^^;
今回、筆者は小さなココットを使用しました*3が、初心者の場合は、セルクル型にもなる焼き型(底が抜けるタイプの焼き型)を利用すれば、失敗が少ないでしょう。
しかし、たとえ失敗しても形が崩れる程度の話で、食べる分には味は同じ。
筆者も撮影用でない自家用では、ひっくり返さず、このままで食べていたりしてます^^;
これはこれで大変美味!!
▽食材一覧
| 紅玉りんごの果皮(無農薬のもの) | 3個分 |
| 水 | 200〜300cc |
▽レシピ
| 01 | 紅玉りんごの皮を鍋に入れ、かぶる程度の水を加える。 鍋を火にかけ、沸騰したら弱火で15分、果皮を煮だす。 | ![]() |
| 02 | ![]() | 果皮の色が抜けたら取り出し、液をざるで一度濾し、軽く煮つめる。 |
熱いうちにカップに注ぎ、お好みの分量のハチミツとレモン汁を加えれば、甘酸っぱいルビー色のホットドリンクに。
今回は紅玉の鮮やかさをご紹介したくてお湯で煮だしましたが、紅茶で煮出せばアップルティーになります。
上で紹介のりんごのお菓子が焼き上がるまでに用意すれば、極上のティータイムが約束されることでせぅ。
なお、当記事のタイトル「りんごの丸かじり」は東海林さだお氏の著書「丸かじり」シリーズを意識したものですが、<タコ>やら<ワニ>やらと<りんご>ではまったくインパクトが違うため、せめて皮まで利用することで丸かじり感を(必死で)演出しております^^;
最後に、今回諸事情あり、愛用の一眼レフが使えなかったため、冒頭の一枚を除jき、画質があまりよくない(=あまり美味しく見えない)ことをお詫びいたします。























