Hatena::ブログ(Diary)

kananaka日和

2011-02-08

食べていい? 食べちゃだめ?

今週のお題:これが私の至福の時


 一年で最も寒の厳しい季節のお愉しみに、ジビエがある。しかし、ここでうっかり友人知己に昨日の晩ご飯メニューなんぞを公開すると、「かわいそう」との非難を頂くことがある。曰く、シカやイノシシを殺すの、可哀相、と。


 そういえば、東京在住の折に勤めた仏料理店でも、顧客にジビエを供する際は事前の料理説明が欠かせなかった。「こちら、野生動物の肉を使用したお料理になります」と伝えると、強い関心を示すタイプと明確な拒否反応を返すタイプに見事に分かれるためだ。同じテーブルについたカップルまたはグループの一人がジビエを注文する際も、さりげなく他のメンバーの反応を窺う。怪訝な顔をされることも多かった*1が、「野生鳥獣のお料理に抵抗のあるお客様もいらっしゃるものですから」と続けると、大抵は理解して頂けた。


 昨今の日本において野生動物を食す習慣は、筆者のように彼らと居住区を共にする地元民と、一部の食通を除けば、馴染みの薄いものになっている。野生鳥獣の狩猟および食習慣は、西欧のみならず日本でも決して珍しいものでなく、時代や社会的階級、貧富の差により食す種の違いはある*2ものの、先人たちが経験と苦心の末に入手・加工に成功した貴重な栄養源でもあった。また獣肉食が禁忌であった僧侶たちの間でも、ウサギを「一羽、二羽」と数えることで鶏と見做したり、シカ肉を「紅葉」、猪肉を「牡丹」の隠語に呼び変えるなどして食したという話も聞く*3。時代が移り畜産業の効率化が進むにつれ、同じ肉料理でありながら山肉食のみが特別視されるようになったのは、戦後近代化の波が都会と田舎を切り離し、里山と人間の居住区を物理的にも心理的にも隔ててきた結果ともいえよう。


f:id:kananaka:20110207230114j:image

今では想像できないが、昭和の初め頃まではサル肉も流通していた。
筆者地元のハンター曰く、特に寒中の肉は黄色の脂がこってり付き、砂糖で煮たような甘味もあり、大変美味だったとか。
写真は近所で撮影した親子のニホンザル。
  


 なお日本における野生動物と人との関わりについては、akira's room『太古の昔から』で、リンク先も含めて参考にさせて頂いた。




 当初は家畜料理と山肉料理とを切り分ける論理に面食らったものだが、今は相手により話題を選ぶ程度のマナーは身に付けたつもりである。獣害対策のことなどから紐解き話そうと思えば、話題に事欠かない地に在住の身ではあるが、受け容れられない人に何かを強要する趣味はない*4。魚に「天然モノ」と「養殖モノ」があるのと同様、動物にも「野生動物」と「家畜」がいて、どちらにも同じ重さのいのちがある。人によっては、野菜にだっていのちがあるとする考え方だってあろう。食の倫理について軽率に発言できる立場でない最低限の自覚はあるものの、かといって、家畜は食べてもよくて野生動物はダメの価値観に与することは、自分には無理のようだ。


 日々の食卓に並ぶ豆や野菜、肉や魚にいたるまで、すべてがいのちであり、それらを食さなければ、我々は生命を維持できない。食卓に並ぶご馳走すべてに、人間の宿命的な哀しみと自らの偽善に啼血する涙の味付けが施されていると気づく時、伸ばした箸先が一瞬、宙を泳ぐ。中にはそのまま箸を置いてしまう人もいるだろうし、黙って手を合わせる人もいるだろう。残さず頂こうと思う人もいるだろう。それら個人の選択に、正解も間違いもない。ただそのことを自覚し、「可哀相」「可愛い」といった感傷から距離を置いてようやく、我々は食の倫理に向き合う準備ができたといえるのではなかろうか。



f:id:kananaka:20110125224018j:image かくいう筆者の場合、<食す>行為の前に、<調理する>というワンクッションが挟まる。血濡れた肉塊を前にすれば、必然的にこのいのちを無駄なく美味しく調理することに関心が向かざるを得ない。

 家庭の一主婦/主夫であろうが、おひとりさまの晩餐だろうが、プロの料理人であろうが、ひとたび厨房に身を置けば誰もが立派な料理人。「料理人」には食材を一番おいしく調理する責任がある、というのが、筆者の信条である。

 家畜が人間が飼いやすく、万人受けするよう改良された食材であるのに対し、野生動物は野山を自由に駆け巡り、人工飼料を口にすることなく、のびのびと育ってきた生きもの。家畜に比べて高い運動量を誇るその肉は非常に筋肉質で低脂肪。調理すれば一目瞭然、一般の豚肉や鶏肉とはかなり勝手が違い、下手に加熱すれば肉質はゴムのように硬くなり、特有の臭みを醸す。ジビエを頂くには、丁寧な下処理と熟成、弱火でじっくり焼き上げるなど、工夫が不可欠なのだ。



f:id:kananaka:20110125224017j:image 肉に脂がのる冬ジビエは、春の山菜、秋のキノコと並び、調理者として気持ちが昂ぶる食材の一つである。

 容易に剥げない薄皮や、所々に残る獣毛や血塊、筋肉に沿って走る筋、時に弾痕、それらを丁寧に取り除き、手先が痺れるほど冷たい水で濯ぎ落とす。

 休みなく両手を動かしつつ、彼らの無念に想いを馳せる。そんなとき、手元の塊肉は食材としての属性を失い、ひしひしと命の重みを伝えてくる。

 すやすや寝息を立てて眠る我が子のそばで、赤く染まったまな板を洗いつつ、「こんなことをマジ顔で呟きながら、よく食べる気になれるわね、それこそ偽善じゃない?」と詰る友の顔が浮ばないわけじゃない。けれど、いのちを如何に無駄なく調理し、感謝して頂くか、その気持ちの葛藤こそが至福のひと時へ繋がっていることに気づくとき、改めて食の世界の深遠に立ち竦むしか、私にはなすすべがない。もしかしたら大きくなったムスメもまた、同じようにハハの<偽善>を責める日が来るかもしれない。たとえ互いを受け容れることが無理だとしても、そのとき彼女に語るべきことばを持つハハでありたいと願う。


f:id:kananaka:20110207230650j:image

写真は昨年5月、筆者の勤務先の前庭で罠にかかり、銃殺された直後のイノシシ。
お食事中の方のために、血みどろの写真は割愛している。


 さて今回は、昨年3月16日の牡丹ジビエのエントリ『寒牡丹に春の音。』でお約束していた、我が家の定番・紅葉レシピを幾つか公開してみたい。




f:id:kananaka:20100203182912g:image噛むごとに味わいが深くなる シカ肉のドミグラスソース


▽食材一覧

f:id:kananaka:20110125224021j:image

【食材】

 鹿肉ブロック

 玉ねぎ、セロリ、しめじ、エリンギ、マッシュルーム

 ホールトマトの缶づめ、薄力粉


【調味料】

 ニンニク、鷹の爪、

 ブーケガルニ(ローリエ、タイム、ローズマリー、イタリアンパセリ等)、

 ブイヨン、ブランデー、赤ワイン、オリーブオイル、塩、胡椒



▽レシピ


01シカ肉の薄皮、筋を丁寧に取り除く。f:id:kananaka:20110125224022j:image
02f:id:kananaka:20110125224024j:image一口大に切り分ける。煮込むと少し縮むため、少し大きめに。
03ハーブ類と共に赤ワインに漬け込んでおく。f:id:kananaka:20110125224025j:image
04f:id:kananaka:20110125224026j:image玉ねぎ、セロリを粗みじんに、キノコ類を適当な大きさに切り、にんにくはみじん切りにする。
05オリーブオイル、鷹の爪、[04]のニンニクを弱火で炒め、香りが出れば、玉ねぎとセロリを透き通るまで炒めて、スープ鍋に移す。f:id:kananaka:20110125224027j:image
06f:id:kananaka:20110125224029j:image[02]で漬けこんでおいたシカ肉に塩・胡椒を振り、しっかり薄力粉をまぶしてから、フライパンで焼き色をつける。

薄力粉をまぶすのは肉に香ばしさを付けるとともに、後でソースと一緒に煮込んだときのとろみにするため。
ジューシーな肉料理を食すために欠かせないひと手間。
07ブランデーでフランベ。f:id:kananaka:20110125224030j:image
08f:id:kananaka:20110125224033j:image新たに赤ワインとブイヨンを加え煮つめる。すべて中〜弱火で。
09お茶のパックにハーブ類を詰めておく。f:id:kananaka:20110125224032j:image
10f:id:kananaka:20110125224034j:image[05]のスープ鍋に[08]の肉と煮つめた赤ワイン、[09]のハーブを加え、ブイヨンと水を加えて1時間〜2時間ほど、弱火でじっくり煮込む。

このとき水分を切らさないように。
11ブーケガルニの入ったお茶パックを取り出し、ホールトマトを潰し入れ、さらに一時間強煮込む。

水分が少なくなり、肉がホロホロ崩れるようになるまで、じっくりと。
f:id:kananaka:20110125224035j:image
12f:id:kananaka:20110125224036j:image歯ごたえを残したいキノコをソテーしてから鍋に加え、塩・コショウで味を調える。


f:id:kananaka:20110125224037j:image


野菜と共にじっくり煮込んだ鹿肉が、ひと噛みするごとに味わいを深める至福のひと皿。

山肉特有の歯ごたえととろけるような食感が共存するところが、肉食派にはたまらない。


翌朝冷めた肉を野菜と共にパンに挟み、ジビエサンドにしてもヨシ、

大量にまとめて作って小分けに冷凍しておいて、

スープとしてだけでなく、パスタソースやオムライスのソースに転用するもヨシ。

こうしておけば、朝食に、ブランチに、あるいは深夜小腹がすいたとき、

いつでも手軽に本格ジビエを楽むことができる。


本レシピは牛肉でも美味しく頂ける煮込み料理となっている。

寒い冬場にストーブを囲んで頂けば、冷えた体を芯からほっこり温めてくれることだろう。


都会から遊びに来る友人たちに供すれば大変珍しがられるシカ料理だが、地元には私など足許にも及ばない調理人がたくさんいらっしゃる。

他の土地の事情は不明だが、少なくとも当地においては仕留めたシカを捌く役はほぼ男性に限定されるものの、ズク*5あり女史多き土地柄ゆえ、お連れ合いの熟練の技を見よう見まねで覚え、自ら腕をふるう女傑もいらっしゃる。

巨大なシカの両脚を両肩に担ぎ、鮮やかに包丁をふるう様には、いつも惚れ惚れしてしまう。


また、遠く南の島にはシカを『お頭付き』で頂いてしまうネコ一族がお住まいで、ニンゲン仕様の調理器具はおろか、キーボードやデジカメまで駆使して、『各々鹿々』さまざまなシカレシピまで掲載されていたりする*6

中でもトマトとオレンジ・マーマレードのソースの煮込み料理画像の破壊力ったら!! 次回食材入手の機会に、真似っこしてみる予定。





f:id:kananaka:20100203182912g:image香りヨシ味ヨシ シカ肉のソテー・バルサミコソース


▽食材一覧

鹿肉適宜

ニンニク、薄力粉、

赤ワイン、バルサミコ酢、

塩、胡椒


▽レシピ


01ハーブと赤ワインで漬け込んでおいた鹿肉の表面に塩・胡椒をし、薄力粉をまぶす。

なお筆者は上で紹介のドミグラスレシピの[03]の工程まで終えたシカ肉を一部取り分け、利用している。
f:id:kananaka:20110125224042j:image
02f:id:kananaka:20110125224043j:imageフライパンにオリーブオイルを引き、ニンニクを弱火で炒めて香りを出したら、中火で[01]の肉を両面ソテー。一度、皿に引き上げる。

ここで使用したフライパンを洗わないように。
03肉を引きあげた後のフライパンでバルサミコ酢と赤ワインを煮切ってアルコールを飛ばし、[02]の肉を戻し入れソースを絡める。f:id:kananaka:20110125224044j:image


f:id:kananaka:20110125224045j:image


時間をかけた煮込み料理も美味しいが、やはりお肉は焼いてガッツリという方にオススメの一品。

馥郁たる旨味とミッシリしたシカ肉の歯ごたえを、存分に堪能いただきたい。


バルサミコソースは、これまでも当ブログで何度か紹介しているが、

まろやかでサッパリとした味わいで、手軽に出来るうえに失敗がない定番のソースで、肉との相性は抜群。

見栄えもよろしいので、ぜひお薦めしたい。


本来、肉料理に添える赤ワインソースには、

肉の臭みを消すと同時に、ソースの奥行きを出すためのミルポア(みじん切りの香味野菜)が必須だが、

バルサミコ酢を合せれば、野菜を刻む手間をかけずとも一発で味が決まる。

赤ワイン:バルサミコ酢=1:1.5くらいが標準だが、

使用する肉の脂身の含有量や、料理と愉しむ酒の特徴を勘案し、適宜バルサミコ酢の増減をお願いしたい。



f:id:kananaka:20110125224046j:image


切った断面はこんな感じ。

焼いたシカ肉は火を通し過ぎないのが、美味しく頂くコツである。

目安は、肉を軽く押したとき、自分の二の腕程度の弾力になったとき。

なお著しくムキムキ体質、あるいはぷよぷよ体質の方についてはこの限りではありませんので、あしからず^^;


ちなみに、この写真を撮っていてふと気づいたことがある。

この色は何かに似てはいないか?? そう、ローストビーフにそっくりではないか!

思いついたが吉日、さっそく残る最後の塊肉を下拵えに回すことに。





f:id:kananaka:20100203182912g:imageフライパンで作る シカ肉の和風ロースト


▽食材一覧


鹿肉ブロック適宜

ニンニク、ブーケガルニ、赤ワイン、塩、胡椒、サラダ油、

ミョウガ、青ネギ



<つけ合わせ(タマネギとキノコのマリネ)>


タマネギ、シメジ、エリンギ、プチトマト 適宜


◎マリネ液

・自家製柿酢 大さじ1.5 (普通の米酢でも可)

・エキストラヴァージンオリーブオイル

・塩 少量

・砂糖 小さじ1/4

・胡椒 適宜


▽レシピ


01鹿ブロック肉に塩、胡椒、ニンニクをすり込み、オリーブオイル、ブーケガルニ、ローズマリー、赤ワインの漬け汁に一晩浸す。

所用があり、すぐに食すことができなかった筆者は、この段階で漬け汁と共に冷凍し、調理前に常温に戻した。
f:id:kananaka:20110125224038j:image
02f:id:kananaka:20110125224039j:imageオリーブオイルを引いたフライパンで表面に焼き色をつけ、その後漬け汁と一緒に弱火で蒸して火を通す。

アルミホイルに包み、常温で30分ほど放置して粗熱をとる。
火の通り具合が心配な場合は、鉄串を刺して中の温度を確かめる。

なかなか美味そうな色に焼き上がってくれた。
03ボールにマリネ液の材料を合わせ、薄くスライスしたタマネギ、トマト、茹でたシメジを熱いうちに漬け込んでおく。f:id:kananaka:20110125224040j:image


f:id:kananaka:20110125224041j:image


今回は小口切りの青ネギと細切りのミョウガをのせ、ポン酢でサッパリと頂いてみた。






<おまけ画像>


まだお食い初めも済んでいないヒカルにジビエは酷なので、お裾分けはコナユキのみ。


f:id:kananaka:20110125224019j:image

「食べていい?」
(注)画像に映っている敷居が彼の縄張りの境界線のため、彼としては精一杯身を乗り出している情況。
 



f:id:kananaka:20110125224020j:image

ハイ、召し上がれ! コレが<至福>の味なのだぞ。 


なお、当エントリタイトルは、宮崎アニメ『もののけ姫』より、大カモシカのヤックル(アシタカの相棒)を前に、モロ(齢300歳のメスの犬神)の子が、サン(もののけ姫)と交わした台詞をお借りしました。

*1:腹をこわす危険でもあるのか、と尋ね返されたことがある。

*2:たとえば江戸時代、殿様や高級武士の間で食べられていたハクチョウは、明治時代になって庶民の貴重な冬場のタンパク源となった。現在ハクチョウを見て舌舐めずりする者は、まず居なかろう。

*3:それぞれの語源には諸説あり、本件は確定したものではないので念のため。

*4:ライバルが増えると分け前が減る、といったさもしい根性が動機ではない。多分^^;

*5:根性

*6id:complex_catさん、トラックバックを飛ばしてみたのですが、エキサイトブログのidが必要(?)らしく失敗してしまいました。申し訳ありません^^;

southencrosssouthencross 2011/02/09 01:00 こんな日にとんでもないブログを立ち上げてしまった私・・と後悔しきり。
嗚呼、大失敗・・・。
同じ料理でも繊細さ・大胆さ・優雅さ・・全てに於いて滑ってしまった。
先にKananakaさんのブログを読んでから立ち上げるべきだった。
・・・はぁ・・・失敗。

kananakakananaka 2011/02/19 02:03 ■SCさん

SCさんのお料理エントリだって、今回に限らず、生つばモノではないですか! ワタシの手料理は繊細さとも優雅さとも程遠いので、こちらこそお恥ずかしい限り>< ヘタレなので大胆さにも欠けてるし…、リア友に聞かれたら、ぶん殴られそうです^^;

私はSCさんのお家改造or修繕レポに、毎度惚れ惚れしてます。引っ越してからというもの、ここにSCさんがいらして下されば!と思うことしきりな、今なお厳寒な我が家なのです^^;

※お返事遅れてしまってごめんなさい。てっきりレスしてたつもりでいたら、投稿されていなかったみたいで、ただいま大汗かいてます><

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証