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kananaka日和

2011-07-29

再発――Répétition de maladie, "FEMME"

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 予兆はあった。下肢へと続くなだらかな起伏、その内で穏やかに蠕動し息づく彼女が、ある日を境に静かな変質を始める。柔軟性を失い年季の入った漬物石のように重たく冷やかに縮かむと、それは少しずつ裂けては痙攣し、やがて雲母(マイカ)のように剥がれ、落ちてゆく。


 油断していた。二週間ほど続いていた体調不良、抑鬱に倦怠感、不眠、皮下を線虫が這いずる感覚、レストレスレッグズ*1、その他下半身のみならず全身を襲う各種不快な症状に、心当りはあった*2。にもかかわらず「いやいやまだまだ」の思いが抜けなかったのは何故だろう。


 ほんのり汗ばむまぁるいヒカル*3の頭をワシワシしつつ、それらがすべて杞憂であれ、と呪文をかけていたのかもしれない。これまでなんとか完母*4でやり繰りしてきた。確かに手元の育児本を開くと、「母乳育児のママにもそろそろ…」の記述が見いだせる。それでも出産から一年や一年半、未だ女の痛みが再開していないとの体験談を目にするたび、きっと自分も同じ、少なくともあと半年程は忘れていられるはずと何故だか強く確信し、ドラッグストアのブルーやブルーブラックのパッケージが並ぶ棚を今の自分には関係のない場所と、見て見ぬふりで通り過ごしてきた。




 筋金入りのミソジニストだった自分が、医師の管理のもとでオンナの機能を守るため各種治療を受け、無事ムスメを授かった。そのことに感慨を覚えないと言ったら嘘になる。若くして片側卵巣を摘出したとき、ミソジニーをこじらせていた自分は周囲の労りを余所に、女としての生殖機能を一つ喪失することがむしろ快感でさえあった。ざまあみろ、私を苦しめてきたモノよ、とっとと私の体から去れ、と高らかに勝利宣言したい想い。しかし女であることによるリスク、生来の婦人科系疾患への感受性の高さは、残るもう一つの卵巣や無傷で残った子宮や卵管へ確実に引き継がれ、己の内なるオンナに一矢報いたのとは程遠い結果しか残さなかった。


 年を重ね、自分に折合いをつけることに長けてきてからは、たとえ生殖機能を失ったとしてもオンナを辞めることは不可能*5と、しぶしぶ認めるようになった。ヒカルを授かったのは、そんな時期のこと。もしも産まなきゃならないとしても*6女の子は絶対イヤと、かつて自他ともに公言していたにもかかわらず、医師から性別を告げられた瞬間、予想に反して、ほとりと体の奥に灯りが点されたような感覚がわいたのは、いまだ記憶に新しい。過去の自分の公言を忘れたわけじゃない。ただ、診察室を出て「女の子だって」と最初に語りかけた相手が、お腹の子の父でなくあの頃の自分であった、それだけのこと。


 出産後、月経が再開されたら必ず定期的に検査を受けるよう、医師から釘を刺されている。オンナであること、オンナに戻ることは、女の病のリスクと共に生きること。私にとっては再び服薬が始まることでもある。授乳という強く女性性を意識させられる行為を日々重ねているにもかかわらず、月のものが下着を汚すことの方に数倍もオンナであることを突きつけられるのは、方や白色、方や赤色というカラー・インパクトの違いだけではないだろう。残された卵巣や子宮が私と生涯共にあるかは不明だが*7、もし何事もなければ閉経までの10〜20年、彼女たちは周期的にその存在を宿主に主張し、私は狭い個室の中で淡々と、その処理を繰返すことになる。




 出産後初めての月経は、痛みも出血量も従前と変わらず、ひどく失望させられた*8。ただ一つ違ったことがあるならば、それは自分以外の他人の性、今はまだ幼いヒカルの十数年後に、想いを馳せたことだろう。


 私が初潮を迎えたとき両親は行方が分からず、弟とともに親戚宅に居候の身だった。女子だけを集めて行われた性教育の授業は、ほとんど役に立たなかった。男女の性の知識はあっても、オンナの性については驚くほど無知のままだった私は、自分の体に進行中の事態が理解できず、下着を汚した理由を粗相と信じて疑わなかった*9。なぜ自分がお漏らしをするようになってしまったのか、しかもまるっきり自覚もないのにそれを繰り返してしまうことにひどく混乱したまま、大人たちに見咎められないよう、汚れた下着を学校の水道で人目を忍んで手洗いしては乾かぬうちに身に着け、数度の月経を数えた頃、事態が発覚。「この子、生理が来とっとよ!」と自分の夫と子どもたち(♂含む)、弟の前で哄笑した叔母にあたる人物を、私が許す日はおそらく一生訪れまい。


 女の子の日、という言葉が嫌いだ。月経は<女の子>のものではない、まぎれもない<オンナ>のものだ。この上なく生臭く鮮烈で苦痛を呼び、自身の過去は言うに及ばず、穢れとされてきた女たちの歴史的、文化的痛み(悼み)と腐臭に塗れた「サンクチュアリ」。私のようにミソジニーをこじらせた人間でなくとも、この日の自分が好きという女性はなかなかいないだろう。女だから仕方なく受け容れる、なんとなくやり過ごす、精々少しでも快適に。


 あ、この周期なら夏の旅行にはぶつからないかしら、いや待って、このままだとクリスマスには引っかかるでないの。早くから電波時計のように正確に周期をなぞった私というオンナの体は、新しい手帳を入手するたび半年や一年先の予定にまで無意識にチェックを入れ、次の月経が来るたび再計算+修正を繰返し大人になった。ヒカルがどんな人生を歩むかは知らない。しかしオンナとしてひとたびそれが始まれば、この再計算は閉経まで続き、その日を境に彼女の一年は暦とは別に、27〜32日の間隔に仕切られる。しかもそのブロックはさらに前半と後半に区分され、前半に含まれるブルーデーと、後半のPMSやPMDDの不快症状の期間が、黒〜灰色のグラデーションに塗り潰される。ひと月のうちで本当に快適に、本来の自分として身軽に過ごせる時間が、一体如何ほど残されているというのか。これがハンディと呼ばずして何であろう。個人差はもちろんあれど、計算すると軽く絶望できてしまう。そうしてミソジニーに物理的な拍車をかけてきた者がここにいる。




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 ヒカルがオンナの海に漕ぎ出すのは、まだまだ先のこと。けれど、帰国しまとわりつくチチに、時々成熟した女の笑み(のように見えるもの)を浮かべる横顔から、ハハがひそかに視線を逸らしていることを彼女は知るまい。このことをツレアイとの間で話題にしたことはない。なんとなく言葉にするのが空恐ろしいというか、悔しいというか、浅ましいというか、踏み込んではいけないというか…。話してみて合意されても敵わないし、こちらの精神状況を疑われるのも本意でない。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ(On ne naît pas femme:on le devient)」と残したのは、シモーヌ・ド・ボーヴォワール。その言葉に異論はないのだが、オンナどころかヒトとしてのエネルギーさえ枯渇気味のハハを余所に、蠱惑的でありながら聖母(マドンナ)めいても見える表情を、月齢八か月弱の乳児の面差しに見とめるたび心揺さぶられる程度には、ハハは未だミソジニストであり、どうしようもなくオンナでもあるらしい。



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 我が家に暮す、要介護の母、私、乳児の三人のオンナたち。オンナがどのように生まれ、どのように生きて成熟し、どのように朽ちてゆくか、この暮しを切り取ることでいつの日か見えてくるものがあるのだろうか。仮にそうだとしても、日々の暮しに埋もれず、それらを分析する余力が自分にあるや否や。オンナであることの病は、当面続くらしい。



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撮影は今は亡きヒカルの曾祖母。
ところでこの子、ヒカルに似てますか?^^;
 



<あとがき>


 えっと、あとがきです*10


 ご無沙汰してます。一児の母になりながら、この手の話題ではいまだ相変わらずなエントリしか書けません^^;


 前回の更新から、なかなかPCを開くことができずにいました。ハイハイを始め行動半径を広げたヒカルからますます目が離せなくなったのも一因ですが、何より大きいのは、これまで使用していた愛機(ぱそこん)を敢え無く成仏させてしまったことでしょう。



(参考)成仏の瞬間のツイートより


PCのキーボードに母乳を160ml、正面から飲ませてしまいました。電源を強制終了させようとして手間取っているうちに、画面がおかしくなり(薄緑と黒のまだらバーコード状態)、バッテリーを抜くのに手間取っている間、ずっとジーと虫の音がしてました。続くless than a minute ago via Keitai Web Favorite Retweet Reply

 motherboard vs mother's milkのダブル・マザー対決は、もちろんmother's milk圧勝の結末に。

 これ打ってるとき、まぢで手が震えてました。アハハハハ………




 筆者の寒風吹きすさぶ懐を余所に、ヒカルは無事、生まれて半年の記念日を迎え、さらに日々成長中です。


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 こちらで北斗柄さんに教えていただいた<ますかけ線>の相は健在^^

 見た目は相変わらずのちっちゃなお手々も、手首や一本一本の指の肥え具合を比べてみると、改めて成長を実感。

 その分、ハハは痩せやつれましてございます*11


 次にここを更新できるとき、ヒカルはどうなっていることやら。いよいよ活動期に入った彼女のために、子どもに危なくない大幅な部屋の模様替えを考えている今日この頃。それでは…、


 もしも、ご縁がありましたなら、いつの日か、また、お目にかかりましょう――。*12


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Cheers!
Looking at you, my precious.

*1:Restless legs syndrome; 下肢や腰・背中・腕に出現するむずむずとした不快感や痛み等の身体症状により、患者が常に脚を動かしたり身体をさする状況へ追立てられることからのネーミング。

*2:いわゆるPMS(Premenstrual Syndrome・月経前症候群)およびPMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder・月経前不機嫌性障害)。筆者はこれまで投薬も受けていた。

*3:我が家の七か月児

*4:完全母乳育児の略。

*5:少なくとも筆者にとっては。

*6:このあり得ない設定こそ、オンナであることの息苦しさそのものであった。今なら一笑に付しているところだが。

*7:医師からは出産の予定がないなら、全摘を勧められてきた。

*8:出産後、月経が軽くなったという感想を何度か耳にしていたため、ひどいPMS、PMDDおよび出血量に悩んでいた筆者は、大いに期待していたらしい。

*9:初潮の経血は量も少なく、鮮血というより止血後の血液に似て褐色から茶色に近く、当時筆者が月経に対し抱いていたイメージとは大きく異なった。

*10こちらで予告していたとおり、〆の言葉とセットで真似っこしてみました^^;

*11:一説によると、これを授乳ダイエットというらしい。確かに鏡に映る筆者、まぢでガリガリになってます^^;

*12:目標は、ぺんぺん草が生えない程度ということで^^;

SIVAPRODSIVAPROD 2011/08/02 01:36 赤ちゃんが大きくなるのを見るのは嬉しくかつ寂しくなるわい...。いわば当方が寄り切られていく感じかなあ。ともあれまだまだ大きくせねばならんのですからのんびりいきましょう!

kananakakananaka 2011/08/02 03:06 このむちむちお肉のほぼすべてが、ワタクシ由来の成分で構成されているのが不思議で不思議で^^;

育児にはいろいろな側面があるはずなのに、難しいことはさておき、何はともあれ食べさせることに自分の情熱とエネルギーと一日のほぼすべてを割いている現状に、朝食摂ってるそばから「今晩何が食べたい?」、出かければ「で、お昼は何食べよう」と、口を開けば食べる話ばかりの世のおかんの気持ちが、よくわかるようになってしまいました。

今の時間を止めてしまいたい想いと、ハイハイできたら次はタッチ、タッチの次は…と先を焦る気持ちとが交錯し、きっと無我夢中の育児の原因はこんな心理状態にもあるのでしょう。のんびりのんびり、自分に言い聞かせて、また明日(もう今日か^^;)も乳母業に勤しむことにします。お声かけ多謝!

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