ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

食品安全サークル日記

2011-06-17 *[経営幹部への手紙(i43)見える化シート

kanboku2011-06-17

*[経営幹部への手紙](43)見える化シート

 2010年5月29日大阪市立中央区民センターで開催された第44回ISO22000研究会でケイ・イマジン代表今里健一郎氏が「7つの見える化シートで会社を変えよう」と題して講演をされました。

講演に先立ち、米虫節夫食品安全ネットワーク会長が、「現場の改善というものは、改善に至るまでの当事者の苦労は多いのに、“コロンブスの卵”のようなもので、改善が実現してみれば、人からは、『なんだ、こんなことか!』と思われてしまうものである。」と、豊富な経験から生まれた至言が述べられました。

講師のご紹介では、会長が「関西電力の品質管理部門の指導に当られていた時、同部門を担当しておられ、同社を退職された後に執筆された7冊目の著書『仕事に役立つ七つの見える化シート』   を読んでみたら、絵入りで分かりやすくしかも充実した内容なので、講演を依頼した。」と紹介されました。

 講師は、大学工学電気工学科で学び、関西電力へ入社、電気部門を担当したのちTQC推進グループを担当する品質管理部門へ、その後料理器具の販売、発電所の排水が水産物に与える影響などの調査を担当、全国の水産研究所をくまなく回り、関西電力能力開発センターの主席講師を務めたのち同社を退職、現在はケイ・イマジンの代表としてコンサルタント活動を行っておられます。

講演は前記の著書から抽出された骨子をテキストに講演が行われました。

改善って「義務」それとも「権利?」

会社が方針として打ち出した改善活動を進めるのは社員としての義務である。しかし、改善活動を推進してもなかなか成果を実感できないのが現実である。ならば、日ごろ自分達が「しにくいと思っていること」を改善テーマとして採用してもらい、活動を進めてみてはどうだろうか、失敗しても、「もう一度PDCAを回してみてはどうか」と激励してくれるはずである。

三脚で自立しよう

 「企業は違う三つの部門を持て!」とも言われている。三脚のように三つの脚で立つと、でこぼこした地盤でも安定して立つことができる。 

 例えば、計量機メーカーの株式会社イシダは、近江商人の家訓とされてきた売り手よし、買い手よし、世間よしを基本に社員満足、顧客満足、社会満足の三つを柱に経営を進めている。

社会から満足を得るためにはヒューマンエラー防止、コンプライアンスなど規定を厳守して事故を未然に防止することや過去の事故例を基に再発防止策を講じることが必要。いずれも小手先の対症療法ではだめで、仕事のプロセスから変える未然防止・再発防止策でなくてはならない。

 社員の満足を得るためには、社員を重視し、その安全を守り、安心を得ることが必要になる。その上で、技術伝承や活性化を推進し社員に仕事に対する自信を持ってもらう。

 顧客満足はお客様のニーズに応えること、お客が満足する価値を創造することで、良い品物を低価格で提供することになる。

 イシダは、形も重さもそれぞれ違うピーマンの定量測定を成功させて顧客の要望に応え、技術革新を通じて社員の意識や自信も高めている。

仕事も人生も三脚で自立しよう。

 仕事では、業務と改善と新しい仕事への挑戦。人生では、自分と仕事と家庭、それぞれに振り分ける力のバランスをとることが大切である。

SDCAとPDCAの二輪をつなぐ

 業務のSDCAと改善のPDCAを回す様子は一輪車に似ている、それぞれが独立していれば常に不安定である。この二つの一輪車を問題というペダルと標準化というサドルで繋ぐと二輪の自転車になり安定して走れる。ハンドルを管理者が持つことで方向性も決まる。図 1業務・改善2輪自転車(七つの見える化シート10頁から引用)

 前輪の業務SDCAを回す中で年度末チェックやISO監査結果などで気づいた問題があれば、ペダルを通して後輪へ送る。

後輪ではQCサークルや改善チームが改善PDCAを回し、改善案は職場になじむように標準化し、サドルを通して前輪に送る。

前輪の業務SDCAで改善案を規定化、マニュアル化する。

このように、業務と改善の活動を二輪化して取り組むと、価値のある結果を生むことになる。

 もし、この二輪車に乗れない人がいれば、教育という補助輪をつけてみる。

改善は仕事に始まり仕事で終わる

改善は、日常の業務活動なかで困っていること、トラブル、不具合や不良品など仕事を進めていく上での問題を取り上げる。

ステップ1.テーマの選定

 現場に発生している問題からテーマを決める。大所高所から見る鳥の目で見る、問題をマトリックス図に落として考える。

ステップ2.現状の把握

 パレート図やグラフを使い問題の実態を把握し、そこから重要な問題を抽出する。

ステップ3.目標の設定

グラフも使い、どこまで問題を解決するか、目標値を決定する。

ステップ4.要因の解析

 現場、現物から離れず、現実的な目で特性要因図やヒストグラムなどを使い要因の洗い出し、データの解析から特定した真の原因を“見える化”する。

ステップ5.対策の検討と実施

 知恵を出し合い、原因を取り除く対策を立案し、対策系統図にまとめる。

ステップ6.効果の確認と標準化

 パレート図などを使い、効果があったか確認し、良い対策は継続するために標準化し、作業マニュアル、機械の調整、教育訓練、工具の使用法など仕事のやり方の中に溶け込ませる。

自分が動けば影も動く

 ディズニーランドでは、ゴミが落ちていたらスタッフの誰もが即拾いごみパックへ捨てる、それが職場文化になっていて、新人もマネージャーや先輩の“ゴミ拾い”を見習いごく自然にゴミを拾うようになると言われている。

 職場でトラブルが発生した時、まず課長自らが特性要因図を作って自分なりの原因特定を行い、職場のスタッフに配って意見を求めてみてはどうであろうか、スタッフからさまざまな意見が出てきたらしめたもの、「明日皆でディスカッションしよう」と提案するとそれぞれが現場調査も行い、考えをまとめて参加するはずである。

管理者の積極的な参加が活動を支える

 改善活動はコーチングで進める。こーチングは相手を支援する立場に立つので相手と協調的な関係が生まれる、ティーチングは助ける立場に立つので、相手とは従属的な関係になる。基礎的な知識を付与するときはティーチングでよいが、基礎教育や実習を終え、担当した仕事もこなすようになってきた人たちには、問題を提示し、「どう思う?」と問いかけをし、答えを導き出す手法をとる。

 三人三様の答えが出たら協議に加わり皆で答えを出す。

やる気を起こし、少し無理かなと思う問題も解決の糸口を見つけ出すことになる。

メンバーと管理者による改善活動の進め方

 改善は、テーマの選定→現状把握→目標決定→要因の解析→対策の立案→対策実行→効果の確認→標準化と今後の課題を決める。といった手順で進められる。

管理者は、テーマの選定過程で方針との関連から助言を行う。要因を解析し、対策を立案する過程では、対策を実施することが可能か、予算の裏付けがあるかなどを検討し、可能であると見極めがつけば、対策の実施を承認し、実施するうえで必要な支援をする。

 効果の確認過程では、業務成果の評価と副作用がないかチェックし、実用化に向けた支援を行う。

 改善活動に対する管理者の姿勢は近づかず、離れず見守ることである。

改善活動に参加した当事者は、最初のうちは負担感を感じる、しかし、とことんやれば達成感に変わる。このことを教え、体感させることである。

見える化とは?

 問題の発生している現場へ行き、足で歩き、目で事実をつかみ、得たデータ(言語数字など)を、ツールを使って加工して図にまとめる。つまり図に化けさせて、客観的に見える情報にすることである。このことで、関係者に共通の認識が得られ、改善への協力も得られるようになる。

QC手法と見えてくる情報

 QC七つ道具   を使うと現場の問題を“見える化”することができる。

10円玉は丸いのか?

 「10円は“まるい”か?と質問すると、即座に「丸いさ」と断定する人々、「丸くないの?」と疑問に感じる人々、十円玉を取り出し確認する人々と、三つのグループに分かれる、ただし、確認するグループの人数は少ない、しかし、横から眺めた人などから「長方形だ!」と「まるい」以外の答えが出てくる。

断定グループは、頭で考え即答している、正解ではあるが、このグループからは慢性化した問題を打破する発想は出てこない。

確認グループは、頭は丸いと信じながら、しかし、「丸いか?」と問われたのだから自分で現物を確認している。このグループの人たちは問題解決に役立つ何かを気付いてくれるはずである。

危ない改善

 「省力化」を錦の御旗に、理屈抜きで施設や設備に手を加えると危険なことになる。改善の対象にした施設・設備が何の目的で設置されたのかを念頭に置き、その機能を損なわないことを前提にしないと、改悪になり、危険な事態を招くことになる。

改善は「気づき、考え、行動する」で行う。

1. 問題(変化)に「気づく」こと

2. 問題の原因を「考える」こと

3. 真の原因に対する対策を「行動する」こと

この三つのステップで進めると良い結果が生まれる。

 人が問題に「気付いた」時、その人の固有技術である過去の知識・経験が働き、問題に対する対策が思い浮かんでくる、これを基に対策を立て、実施しても、今までと変わらないことになる。

 この“思い浮かび”は捨て、面倒でも、 管理技術を使って問題をグラフ化、図化し、問題の層別やデータの解析なども行って原因を「考え」さらに「現場」「現物」「現実」の三現主義を基に原因を「考え」対策を「行動」する。

 おやっ?と問題に気付いた時は、仮説を立て、これを検証しながら最適策を考えることである。

客の満足は

 客は、商品に支出した金以上の満足を感じた時満足感を感じるものである。お客様が求めている期待に応えていくことが、お客様満足度向上につながる。

アンケートにより重点改善項目を抽出する。アンケートは次の手順で作成する。

手順1.目的を決める

手順2.仮説を立てる

手順3.アンケート用紙を作成する

手順4.調査とデータの収集

 仮説は、品質の安定、不良品の発生、仕様への対応などの品質面。適正な価格か、コストダウンへの期待などの価格面。通常納期の厳守、緊急発注への対応などの納期面。クレーム対応、電話応対、アフターサービスなどのサービス面。といった視点からそれぞれに満足しているかを尋ねる、この総合的な満足度を知ることで、取引や利用を継続するリピーター度を察知することができる。

さらに、不良発生時の対応、問題再発防止への取り組み、お客様の声伝達度などの視点からも尋ねる、この答えから品質保証満足度を察知することができる。

 アンケート用紙の作成は、手順2を基にした仮説構造図から作成する。

 アンケート調査の実施結果はExcelシートに入力し集計する。

手順5.アンケート解析

解析1.グラフで全体の姿がわかる。

解析2.クロス集計で着眼点がわかる。

解析3.相関分析で質問間の関係がわかる。

解析4.重回帰分析で目的と要因の関係度合いがわかる。(アンケート設計の評価ができる)

解析5.ポートフォリオ分析で重点改善項目がわかる。

解析6.親和図でニーズを把握する。

(詳細は「Excelで手軽にできるアンケート解説」  に記載されています。)

手順6.「改善課題見える化シート」を作成し、A3版1枚のシートにまとめる。

「おや!」と思うところに宝が眠っている

 あるコンビニのPOSデータから木曜日の朝の時間帯に弁当が売れる現象が現れた、弁当を買うお客様に聞いてみると、「会社の食堂の都合で木曜日が定休日になったので・・」と原因が分かり、仕入れ量を上げて対応した。

 日頃からデータをグラフ化して問題を“見える化”することが大切。事務現場では処理ミスを折れ線グラフに、製造現場では不良品数をパレート図に、営業現場では苦情の原因を特性要因図に書いてみる。

「1」 プラス「1」は「3」

 携帯パソコン専用のマウスには、電卓機能が、更にテンキーとしても使えるようになっていて、便利に使える。1プラス1を3、更には4にする発想である。

目的に見合ったいろいろな改善アプローチ

 事例も交え、次の七つの見える化シートを使った改善アプローチが紹介された。

1. 問題解決見える化シート

2. 手軽改善見える化シート

3. お客様満足見える化シート

4. プロセス改善見える化シート

5. 作業効率見える化シート

6. 設計・開発見える化シート

7. 課題達成見える化シート

 七つのうち内容が簡単な2.の「手軽改善見える化シートを紹介します。図 2手軽改善見える化シート(今里健一郎著「仕事に役立つ七つの見える化シート」56〜57頁図から引用)

 問題に「気付き、考え、行動する」アプローチの手順、職場で困っていることがある、トラブルが発生した、何かと不具合がある、といった場合、まずはステップ1「問題に気付く」ステップ2「原因を考える」ステップ3「対策を『行動する』」の3ステップで対応してみる。

 「気付く」とは「比較」することである。比較することから問題を発見する。

・目標を持つ→現状を目標と比較してみる。

・過去からの変化をとらえて現状を評価する。比較するには、データを収集し、グラフに表す。

・折れ線グラフ、棒グラフ円グラフレーダーチャートなどを書いてみる。

 「考える」とは、「層別」することである。作業者別、時間別、装置別に層別したグラフを書く。

 問題を層別してパレート図を書くと、そこから重要な問題点を引き出せる。

特性要因図により問題を層別して原因を探す。

 対策を「行動する」ということは、「工夫」することである。例えば、くっ付けてみたら、止めてみたら、真似してみたらと、オズボーンのチェックリストを使って工夫してみる。

詳細は、今里健一郎著「見える化シートで手軽に取り組める改善アプローチ(日本規格協会発刊)をご覧いただきたい。

質疑で講師からいただいた助言

Q:QCにあまり詳しくない人たちが多い現場で、まず、使ってみる本は何でしょうか。

A:「QC七つ道具がよ〜くわかる本」がいいと思います。絵入りで初めての人にも分かりやすく書いてあります。

Q:現場では文章を書くことを苦手にしている人が多いので、せっかくのシートが使いこなせるか不安です。

A:シートに現場の写真を貼り、日時、場所、対象物の名前、状態など1〜2行の説明を入れ、後は口頭で説明するという使い方もできます。

結びの言葉                                                                                     「過去と他人は変えられない、未来と自分は変えられる。」という言葉で、講演を締めくくられました。

 「忙しい、忙しい」が口癖で、改善に取り組まない、取り組めない理由にしておられる人、それを嘆く経営幹部の皆さん、そして、「改善に取り組もうといつも言うのだが、部下は動こうとしない」と嘆く課長さんは少なくありません。

自分がしにくいと思っていることを改善テーマにしてみる。

「問題」に対して、まず課長が特性要因図で原因を特定し、「皆はどう考えるか?」「みなでディスカッションしてみよう」と問いかけ、改善グループを作りあげていく。 

といった講師の提言は、そのような現状を改善する糸口になるのではないでしょうか。

 

御質問や御意見は、下記アドレスへ。

kagaku-syokuhin@memoad.jp

*********************

リンク 

食品科学へ掲載した記事を転載しました。    

猫西 一也 (食品安全ネットワーク顧問)

食品安全ネットワークHP 

    http://www.fu-san.jp/

◆?食品科学社 岸 直邦

東京都千代田区神田錦町3-6-4-1201

?03-3291-2081 Fax03-3233-0478

                         

2010-12-27 *[経営幹部への手紙(34)] 証取得

食品科学社(電話03-(3291)-2081FAX03(3233)0478)の月刊食品科学2009年12月号に連載中のエグゼクティ*[営幹部)への手紙]( 34 ) の内容をご紹介します。

◆*[エグゼクティブ(経営幹部)への手紙](34)―認証取得後も変わらないのは何故?



 少し前のことですが「HACCP(マル総)の承認工場なのだが、現場従事者の意識や行動は承認前とあまり変わらない、どうしたものか」と悩みを打ち明けられました。

原因は物マネとコピー

 承認取得までの経過を伺い、「原因は物マネとコピー乱用です」と申し上げ、次のような話をしました。

「旧雪印乳業株式会社(以下会社)大阪工場が製造した加工乳ブドウ球菌食中毒が発生し、大きな社会的事件となったことは記憶に新しいことです。

当時大阪工場の衛生管理の実情は、残念なことに、マル総承認工場でありながら、ずさんでした。報道機関も厳しく批判しました。

会社は、大阪工場も含め、全国二十工場のマル総承認申請書を本社で一括作成し、当時の厚生省に申請していることが事件後の調査で判明しました。

2000年8月、大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座でも、『残念なことだが、会社が提出した二十工場の承認申請書の中身は“金太郎あめ”のようにほぼ同一であった。二十工場の内十工場には、HACCP委員会も組織されていなかった。』と、講師が、過去の“まる総”承認には反省すべき点があったと話されました。

HACCPシステムの出発点であり、工場ごとに実施すべき危害要因分析は、実施されず、審査も現場調査は省略されていました。当然のことながら、現場従事者は管理職も含め傍観者になってしまい、意識改革も生まれなかったと思われます。

少なくとも前記加工乳によるブドウ球菌食中毒事件発生以前は、HACCPの出発点でもある危害要因分析が個々の食品工場で行なわれることは無く、当時厚生省監修の名を付して出版された「HACCP:衛生管理計画作成と実践」等の解説本に記載された危害リストから関連する危害物質を抽出コピーしたもので申請書が作成されていたと推測されます。」と申し上げ、貴方の工場が申請された場合と似た点があるのではないでしょうか?と申し上げると、『やはり原点となる危害要因分析からやり直さないといけないように思います』と答えて帰られました。

HACCP講座米国版

1997年6月に大阪で開催されたテキサス農業工業大学動物科学部デイビー・B・グリフィン准教授等によるHACCPセミナー(Aセミナー)  同じく1997年9月にコーネル大学食品科学科ロバート・グラバニ教授等によるHACCPセミナー(Bセミナー) を受講しました。

Aセミナーでは、驚いたことに、食品現場にTV記者が潜入し、現場作業員の行動を密かに撮影したものを放映したことで、アメリカ社会に波紋を広げた問題の作品を会場で映写しました。

現場の隠し撮りを見せてからの講義と質疑が始まった時、これは“真剣勝負”だと、会場には緊張感が走り、参加者は、引き込まれるように講義を聴き、問題点や原因についても当事者の立場で考えました。

Aセミナーでの質疑応答

質疑応答で、参加者から「危害要因分析を行った工場のモデル例を示して欲しい」と要望が出されました、グリフィン助教授は、やや語気を強め、危害要因分析はあなた方の個々の工場で行うべきものであり、個々に行わなければ役に立ちません」と事例を示すことを断わりました。

Bセミナーでは、講師のグラバニ教授は、まず国際線の機内食による食中毒事例を詳細に説明しました。

 「旅客機は、成田からアンカレジを経てコペンハーゲン、そしてパリに到着。朝食はアンカレジ。朝食のハムを調理したシェフは手に火傷の傷があったのに、素手で200枚以上薄切りハムを作った。このハムは、90度Fの室温で6時間置かれ、その後50度Fのクーラー内に12時間保管され、350度Fで加熱調理したものが搭乗客に提供された。その結果、2時間30分後に192名の客と1名のスタッフが発病、原因はブドウ球菌が産生したエンテロトキシン(腸管毒)であった。これまでの食中毒防止対策は、従事者の教育訓練、チェックリストによる検査・点検、サンプルを抽出して細菌検査をすることで行われている、しかし、これでだけでは防止できない、予防に重点を置き、計画的に原材料から摂食までの全ての段階で予防策を講じる「HACCPシステムで対策を講じる必要がある。」と述べ、図を示して、経営者の合意、危害の認識、教育訓練、更に、食品の温度管理、洗浄と衛生管理、個人衛生、ペストコントロールをきちんと行うことがHACCP実施の前提条件であること」を強調しました。

危害分析と重要管理点原則と応用のガイドライン 

教材として配布されたガイドラインには、「HACCP計画の作成における予備的な作業として、まずHACCPチームを構成する。チームは食品の流通・意図する使用方法と対象となる消費者を記述し、プロセスを説明するフローダイアグラムを作成し、これを検証する。これらの予備的作業を終えた後に、チームは原則1の危害要因分析を行う。徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」と述べた。 

ガイドラインには、ハザードアナリシスを行う際に考慮すべき質問例が付録Cとして添付されていた。

A 原料

1. その食品は、微生物的ハザード(例えばSalmonella,Staphylococcus aurous)化学的ハザード(たとえばアフラトキシン抗生物質やペスティサイド残渣)あるいは物理的ハザード(たとえば石、ガラス、金属)につながる危険なことのある原料を含んでいるだろうか?

2. 使用水、氷そして蒸気がその食品の調製または取扱いの中に使われるであろうか?

3. 原料はどこから来たのか?(例えば、地理的な地域、特有の供給者)

B 固有のファクター

 加工前と後の食品物理的特徴と組成(例えば、pH、酸性化剤のタイプ、発酵炭水化物、水分活性、保存料

1. もしその食品の組成がコントロールされていなかったら、どんなハザードが発生するだろうか?

2. その食品は、加工中に病原菌の生存もしくは増殖もしくは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?

3. その食品は、その製造過程の次の段階で病原菌の生存あるいは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?

4. 同じような製品が市場に出回っているだろうか?その製品の安全性の成績はどうか?今までどのようなハザードがその製品に関連したことがあるか?

C 加工に使われる方法

1. そのプロセスには病原菌を殺滅する、コントロール可能な加工のステップがあるだろうか? もしあるならばどの病原菌を殺滅できるのか? 栄養細胞と胞子の双方を考慮しなければならない。

2. その製品は、加工(例えば調理、低温殺菌)と包装の間に生物的、化学的あるいは物理的なハザードによる再汚染が起きやすいであろうか?

D 食物中の微生物

1. その食品は(どのような)微生物を(どれだけ)含んでいるか?

2. 喫食に先立って通常の時間保存されている間に微生物の数が変化するであろうか?

3. その微生物数の変化はその食品の安全性に影響を与えるであろうか?

4. 上記質問に対する答えが、ある生物学的ハザードが非常に起り易いことを示しているだろか?

E 工場のデザイン

1. その工場のレイアウトは、もし生の原材料を、そのまま食べる(ready-to‐eat; RET)食品から適切に分離することが食品の安全性にとって大切である場合には、それができているようになっているであろうか?もし適切な分離ができないならば、RTE食品を汚染する恐れのある物質としてどのようなハザードを考慮すべきであろうか?

2. 製品の包装を行う部署の空気は要圧になっているか?これは食品安全性にとって不可欠であろうか?

3. 作業員や移動装置の交通パターンは汚染の明らかな発生場所になってはいないか?

F 装置のデザインと使用法

1. その装置によって、食品の安全性に必要な時間/温度コントロールができるであろうか?

2. その装置は、加工される食物の量に対して適切なサイズであろうか?

3. その装置によって、作動状態の変動が安全な食品を製造するために必要な許容範囲にとどまるように十分なコントロールができるであろうか?

4. その装置は信頼できるものか、または頻繁に故障するものなのかどうか?

5. その装置は容易に清浄化、衛生化ができるようデザインされているか?

6. 危険な物質(例えばガラス)によって製品が汚染される機会があるだろうか?

7. 消費者の安全性を強化するためにどのような製品安全性を守るための機器装置が使われているか? 金属探知器、磁石、フルイ、フイルター、温度計、骨を除く装置、混入物検出器。

8. 装置の通常の磨滅が製品中に起こりうる物理的ハザード(例えば金属)の発生しやすさにどの程度影響があるか?

9. 異なる製品のために同じ装置を使う場合アレルギー源の混入を防止するためのプロトコールが必要か?

G 包装

1. この包装の方法は微生物病原体の増殖や毒素の形成に影響を与えるだろうか?

2. 安全性のために必要な場合には「要冷蔵」と包装に明確に表示されているか?

3. ユーザーによる取扱と調理のための説明が包装に表示されているか?

4. 包装材料は破損されにくく、従って微生物的汚染物質の侵入を阻止できるであろうか?

5. 不法開封が明白にわかる包装様式が使われているか?

6. すべての包装とケースに読み易い、正確な識別記号(コード)がついているか?

7. すべての包装に適切なラベルがついているか?

8. 材料中の、可能性があるアレルギー源となり得る物質がラベルにある材料組成のリストの中に挙げられているか?

H サニテーション

1. サニテーションが加工中の食品の安全性に影響があるか?

2. 施設と装置は食品を安全に取り扱えるように容易に清浄化、衛生化できるであろうか?

3. 食品が安全であることを保証するために、衛生的な状態を一貫して適切に保てるであろうか?

I 従業員の健康、衛生と教育

1. 従業員の健康または個人の衛生管理が加工中の食品の安全性に影響するか?

2. 従業員は、安全な食品の製造を確保するため彼らがコントロールすべきプロセスと要因を理解しているだろうか?

3. 従業員は食品の安全性に影響し得る問題を管理者に報告するだろうか?

J 包装から最終ユーザーに渡るまでの保管状態

1. その食品が不適切な温度で不当に保管される可能性はどのくらいあるか?

2. 不適切な保管方法が食品を微生物的に安全でなくするであろうか?

K 目的とする使用法

1. その食品は消費者によって加熱されるか?

2. 食べ残す可能性が多いか?

H 目的とする消費者

1. その食品は一般公衆向けか?

2. その食品病気にかかり易い集団(例えば乳児、老齢者、虚弱体質、免疫不全者)によって摂取されることを意図しているのか?

3. その食品は、公共施設で提供されるのか、それとも家庭で使われるのか?」

ハザードの同定は、製造現場のHACCPチームで、(必要な場合は学識経験者の参加を得て)ブレーンストーミングも取り入れ、しっかりと討議して決め、文書化し情報を共有します。

その際、前記の質問に対応する形でハザードの同定を行えば、漏れのない同定が行えます。

ハザードの評価

同定が済めば、次は、評価へ進みます。

ガイドラインでは付録Dにハザードを同定し評価する際のハザードアナリシスの段階の使い方の例が示されました。

日米HACCPセミナーの違い

2000年12月に大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座には、全国から108名が参加し、3日間にわたって行われました。

 “アメリカセミナー”の場合は、講師がアメリカの大学教授や日本の国立国際医療センター研究所長、全米食品製造業協会会長であったせいもあるのでしょうが、事例も交え、学術的に危害要因を分析し、なぜHACCP実施が必要なのかの認識、意識改革に重点が置かれていました。

日本の公式HACCPチームリーダー養成講座の場合は、講師が行政担当者、食品工場現場のリーダーで構成されていたため、まる総申請書作成のための実務研修会という印象を持ちました。

この違いが、「マル総の承認を取得したのに従事者の意識は変わらない」という嘆きにつながっているのではないでしょうか。

製造過程の高度化について

平成10年7月1日付厚生省・農林水産省告示第1号として告示された食品の製造過程の管理高度化に関する基本方針の第4次改正の内容が平成21年8月25日に告示されました。

告示は、高度化基準の作成についての基本的事項として、平成10年に制定された「食品の製造過程の高度化に関する臨時措置法の第4条で定められた高度化基準は、事業者の自主的な取り組みを基本に製造過程の実態に応じて作成されるべきものであり、製造過程高度化について専門的な知識を有する者を交え、十分な検討を行う必要があり、基準は製造過程の実態が十分反映したものであり、その水準は品質管理の徹底を求める社会的要請に十分対応できるものであることを求め、その上で、製造過程管理高度化の目標、基準を示しています。

 目標としては、コーデックスガイドラインに沿ったHACCPか、HACCPの考え方を適用した品質管理によるもので、これに基づいて、建物、機械・装置、それらの運用体制の整備を行うことが明らかに示されていること。

 基準としては、施設整備の基準として、清浄度別の区画があり、清浄区域とその他の区域が原則として隔壁で仕切ることを求めています、しかし、仕切らなくても、二次汚染が防止できる方法がとられている場合は、仕切りがなくても良いと認めています。

また、原材料搬入から製品の保管・出荷までの過程が交差しないよう配置されるだけの広さがあることが必要である、としています。

 清浄区域は、清浄な空気が保たれるための施設があること。高度化を図るための機械

装置が配置されていること。

運用体制の高度化を図るために、専門家チームを編成することが示されています。」

交差汚染防止のための工夫 

 高度化に関する基本方針は、“名ばかりマル総工場“のレベルアップを図る目的で出され

たものと思われます。

「また設備投資か」と頭を抱え「金は無いよ!」と諦めておられる人は、フーズデザイン

の加藤光夫氏が本誌08年6月号に発表された「HACCPは「箱もの」という大誤解」

を読まれることをお勧めします。例えば、「HACCPは施設設備といったハード的な

『モノ』ではなく方法、工夫で行う。」「HACCPは食品から危害を除去する場所を探

して見つけ、それを実施し、効果があったことを、測定して確認する方法だ。」  と述

べています。

また、氏は週刊マガジンHACCPの導入方法にも「HACCPは「箱物」という大誤解」

1〜4を掲載しています。

ご参考までに、1の大要をご紹介します。

 「増設を重ね、作業動線やゾーニングに多少問題があるので、交差汚染が無いように工夫をして運営をしている魚工場の社長が「HACCPをやろうとしている」という話をしたら、あるISOの認証機関の担当者が、「HACCPは箱物だから、出来ない、」つまり施設設備が出来ていないとHACCPは出来ない、と言ったと聞き驚いた。HACCPは、モノでは無く、方法だ。施設設備が古くても、危害が出ないように、清掃、洗浄、消毒、個人衛生、教育、ルール、といった「方法」で、危害が出ないようにすればよい。これが、一般的衛生管理を土台としたHACCPの構築だ。

 HACCPは、施設設備が古くても出来る。交差汚染の危険があったら、パーティションを置いたり、ビニールカーテンをしたり、従事者の通るルートを指定したり、原料資材の置き場を工夫して問題が起こらないようにすればいい。危害を従事者が工場内に入れないように、手洗いや粘着ローラーを使うようにもする。これらが一般的衛生管理だ。」

高度化も徹底した危害要因分析結果を拠り所に

「徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」

  

◆なお、食品科学には、サントリー榛名工場の工場長として活躍され、工場改革を進め「eメールで進める工場改革」(日刊工業新聞社刊)の著書でも知られている水上喜久氏が定年を迎えてコンサルタントとして独立、食品科学にも「ディズニーランドのような工場にしたい」をテーマに、豊かな体験に裏打ちされた、臨場感ある連載記事を書いておられます。本誌でぜひご覧ください。私もファンです。きっとお役に立つと思います。


◆リンク 食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/ 


食品科学社(電話03-(3291)-2081FAX03(3233)0478)の月刊食品科学2009年12月号に連載中のエグゼクティブ(経営幹部)への手紙( 34 ) の内容をご紹介します。

◆エグゼクティブ(経営幹部)への手紙(34)―認証取得後も変わらないのは何故?



 少し前のことですが「HACCP(マル総)の承認工場なのだが、現場従事者の意識や行動は承認前とあまり変わらない、どうしたものか」と悩みを打ち明けられました。

原因は物マネとコピー

 承認取得までの経過を伺い、「原因は物マネとコピー乱用です」と申し上げ、次のような話をしました。

「旧雪印乳業株式会社(以下会社)大阪工場が製造した加工乳ブドウ球菌食中毒が発生し、大きな社会的事件となったことは記憶に新しいことです。

当時大阪工場の衛生管理の実情は、残念なことに、マル総承認工場でありながら、ずさんでした。報道機関も厳しく批判しました。

会社は、大阪工場も含め、全国二十工場のマル総承認申請書を本社で一括作成し、当時の厚生省に申請していることが事件後の調査で判明しました。

2000年8月、大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座でも、『残念なことだが、会社が提出した二十工場の承認申請書の中身は“金太郎あめ”のようにほぼ同一であった。二十工場の内十工場には、HACCP委員会も組織されていなかった。』と、講師が、過去の“まる総”承認には反省すべき点があったと話されました。

HACCPシステムの出発点であり、工場ごとに実施すべき危害要因分析は、実施されず、審査も現場調査は省略されていました。当然のことながら、現場従事者は管理職も含め傍観者になってしまい、意識改革も生まれなかったと思われます。

少なくとも前記加工乳によるブドウ球菌食中毒事件発生以前は、HACCPの出発点でもある危害要因分析が個々の食品工場で行なわれることは無く、当時厚生省監修の名を付して出版された「HACCP:衛生管理計画作成と実践」等の解説本に記載された危害リストから関連する危害物質を抽出コピーしたもので申請書が作成されていたと推測されます。」と申し上げ、貴方の工場が申請された場合と似た点があるのではないでしょうか?と申し上げると、『やはり原点となる危害要因分析からやり直さないといけないように思います』と答えて帰られました。

HACCP講座米国版

1997年6月に大阪で開催されたテキサス農業工業大学動物科学部デイビー・B・グリフィン准教授等によるHACCPセミナー(Aセミナー)  同じく1997年9月にコーネル大学食品科学科ロバート・グラバニ教授等によるHACCPセミナー(Bセミナー) を受講しました。

Aセミナーでは、驚いたことに、食品現場にTV記者が潜入し、現場作業員の行動を密かに撮影したものを放映したことで、アメリカ社会に波紋を広げた問題の作品を会場で映写しました。

現場の隠し撮りを見せてからの講義と質疑が始まった時、これは“真剣勝負”だと、会場には緊張感が走り、参加者は、引き込まれるように講義を聴き、問題点や原因についても当事者の立場で考えました。

Aセミナーでの質疑応答

質疑応答で、参加者から「危害要因分析を行った工場のモデル例を示して欲しい」と要望が出されました、グリフィン助教授は、やや語気を強め、危害要因分析はあなた方の個々の工場で行うべきものであり、個々に行わなければ役に立ちません」と事例を示すことを断わりました。

Bセミナーでは、講師のグラバニ教授は、まず国際線の機内食による食中毒事例を詳細に説明しました。

 「旅客機は、成田からアンカレジを経てコペンハーゲン、そしてパリに到着。朝食はアンカレジ。朝食のハムを調理したシェフは手に火傷の傷があったのに、素手で200枚以上薄切りハムを作った。このハムは、90度Fの室温で6時間置かれ、その後50度Fのクーラー内に12時間保管され、350度Fで加熱調理したものが搭乗客に提供された。その結果、2時間30分後に192名の客と1名のスタッフが発病、原因はブドウ球菌が産生したエンテロトキシン(腸管毒)であった。これまでの食中毒防止対策は、従事者の教育訓練、チェックリストによる検査・点検、サンプルを抽出して細菌検査をすることで行われている、しかし、これでだけでは防止できない、予防に重点を置き、計画的に原材料から摂食までの全ての段階で予防策を講じる「HACCPシステムで対策を講じる必要がある。」と述べ、図を示して、経営者の合意、危害の認識、教育訓練、更に、食品の温度管理、洗浄と衛生管理、個人衛生、ペストコントロールをきちんと行うことがHACCP実施の前提条件であること」を強調しました。

危害分析と重要管理点原則と応用のガイドライン 

教材として配布されたガイドラインには、「HACCP計画の作成における予備的な作業として、まずHACCPチームを構成する。チームは食品の流通・意図する使用方法と対象となる消費者を記述し、プロセスを説明するフローダイアグラムを作成し、これを検証する。これらの予備的作業を終えた後に、チームは原則1の危害要因分析を行う。徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」と述べた。 

ガイドラインには、ハザードアナリシスを行う際に考慮すべき質問例が付録Cとして添付されていた。

A 原料

1. その食品は、微生物的ハザード(例えばSalmonella,Staphylococcus aurous)化学的ハザード(たとえばアフラトキシン抗生物質やペスティサイド残渣)あるいは物理的ハザード(たとえば石、ガラス、金属)につながる危険なことのある原料を含んでいるだろうか?

2. 使用水、氷そして蒸気がその食品の調製または取扱いの中に使われるであろうか?

3. 原料はどこから来たのか?(例えば、地理的な地域、特有の供給者)

B 固有のファクター

 加工前と後の食品物理的特徴と組成(例えば、pH、酸性化剤のタイプ、発酵炭水化物、水分活性、保存料

1. もしその食品の組成がコントロールされていなかったら、どんなハザードが発生するだろうか?

2. その食品は、加工中に病原菌の生存もしくは増殖もしくは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?

3. その食品は、その製造過程の次の段階で病原菌の生存あるいは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?

4. 同じような製品が市場に出回っているだろうか?その製品の安全性の成績はどうか?今までどのようなハザードがその製品に関連したことがあるか?

C 加工に使われる方法

1. そのプロセスには病原菌を殺滅する、コントロール可能な加工のステップがあるだろうか? もしあるならばどの病原菌を殺滅できるのか? 栄養細胞と胞子の双方を考慮しなければならない。

2. その製品は、加工(例えば調理、低温殺菌)と包装の間に生物的、化学的あるいは物理的なハザードによる再汚染が起きやすいであろうか?

D 食物中の微生物

1. その食品は(どのような)微生物を(どれだけ)含んでいるか?

2. 喫食に先立って通常の時間保存されている間に微生物の数が変化するであろうか?

3. その微生物数の変化はその食品の安全性に影響を与えるであろうか?

4. 上記質問に対する答えが、ある生物学的ハザードが非常に起り易いことを示しているだろか?

E 工場のデザイン

1. その工場のレイアウトは、もし生の原材料を、そのまま食べる(ready-to‐eat; RET)食品から適切に分離することが食品の安全性にとって大切である場合には、それができているようになっているであろうか?もし適切な分離ができないならば、RTE食品を汚染する恐れのある物質としてどのようなハザードを考慮すべきであろうか?

2. 製品の包装を行う部署の空気は要圧になっているか?これは食品安全性にとって不可欠であろうか?

3. 作業員や移動装置の交通パターンは汚染の明らかな発生場所になってはいないか?

F 装置のデザインと使用法

1. その装置によって、食品の安全性に必要な時間/温度コントロールができるであろうか?

2. その装置は、加工される食物の量に対して適切なサイズであろうか?

3. その装置によって、作動状態の変動が安全な食品を製造するために必要な許容範囲にとどまるように十分なコントロールができるであろうか?

4. その装置は信頼できるものか、または頻繁に故障するものなのかどうか?

5. その装置は容易に清浄化、衛生化ができるようデザインされているか?

6. 危険な物質(例えばガラス)によって製品が汚染される機会があるだろうか?

7. 消費者の安全性を強化するためにどのような製品安全性を守るための機器装置が使われているか? 金属探知器、磁石、フルイ、フイルター、温度計、骨を除く装置、混入物検出器。

8. 装置の通常の磨滅が製品中に起こりうる物理的ハザード(例えば金属)の発生しやすさにどの程度影響があるか?

9. 異なる製品のために同じ装置を使う場合アレルギー源の混入を防止するためのプロトコールが必要か?

G 包装

1. この包装の方法は微生物病原体の増殖や毒素の形成に影響を与えるだろうか?

2. 安全性のために必要な場合には「要冷蔵」と包装に明確に表示されているか?

3. ユーザーによる取扱と調理のための説明が包装に表示されているか?

4. 包装材料は破損されにくく、従って微生物的汚染物質の侵入を阻止できるであろうか?

5. 不法開封が明白にわかる包装様式が使われているか?

6. すべての包装とケースに読み易い、正確な識別記号(コード)がついているか?

7. すべての包装に適切なラベルがついているか?

8. 材料中の、可能性があるアレルギー源となり得る物質がラベルにある材料組成のリストの中に挙げられているか?

H サニテーション

1. サニテーションが加工中の食品の安全性に影響があるか?

2. 施設と装置は食品を安全に取り扱えるように容易に清浄化、衛生化できるであろうか?

3. 食品が安全であることを保証するために、衛生的な状態を一貫して適切に保てるであろうか?

I 従業員の健康、衛生と教育

1. 従業員の健康または個人の衛生管理が加工中の食品の安全性に影響するか?

2. 従業員は、安全な食品の製造を確保するため彼らがコントロールすべきプロセスと要因を理解しているだろうか?

3. 従業員は食品の安全性に影響し得る問題を管理者に報告するだろうか?

J 包装から最終ユーザーに渡るまでの保管状態

1. その食品が不適切な温度で不当に保管される可能性はどのくらいあるか?

2. 不適切な保管方法が食品を微生物的に安全でなくするであろうか?

K 目的とする使用法

1. その食品は消費者によって加熱されるか?

2. 食べ残す可能性が多いか?

H 目的とする消費者

1. その食品は一般公衆向けか?

2. その食品病気にかかり易い集団(例えば乳児、老齢者、虚弱体質、免疫不全者)によって摂取されることを意図しているのか?

3. その食品は、公共施設で提供されるのか、それとも家庭で使われるのか?」

ハザードの同定は、製造現場のHACCPチームで、(必要な場合は学識経験者の参加を得て)ブレーンストーミングも取り入れ、しっかりと討議して決め、文書化し情報を共有します。

その際、前記の質問に対応する形でハザードの同定を行えば、漏れのない同定が行えます。

ハザードの評価

同定が済めば、次は、評価へ進みます。

ガイドラインでは付録Dにハザードを同定し評価する際のハザードアナリシスの段階の使い方の例が示されました。

日米HACCPセミナーの違い

2000年12月に大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座には、全国から108名が参加し、3日間にわたって行われました。

 “アメリカセミナー”の場合は、講師がアメリカの大学教授や日本の国立国際医療センター研究所長、全米食品製造業協会会長であったせいもあるのでしょうが、事例も交え、学術的に危害要因を分析し、なぜHACCP実施が必要なのかの認識、意識改革に重点が置かれていました。

日本の公式HACCPチームリーダー養成講座の場合は、講師が行政担当者、食品工場現場のリーダーで構成されていたため、まる総申請書作成のための実務研修会という印象を持ちました。

この違いが、「マル総の承認を取得したのに従事者の意識は変わらない」という嘆きにつながっているのではないでしょうか。

製造過程の高度化について

平成10年7月1日付厚生省・農林水産省告示第1号として告示された食品の製造過程の管理高度化に関する基本方針の第4次改正の内容が平成21年8月25日に告示されました。

告示は、高度化基準の作成についての基本的事項として、平成10年に制定された「食品の製造過程の高度化に関する臨時措置法の第4条で定められた高度化基準は、事業者の自主的な取り組みを基本に製造過程の実態に応じて作成されるべきものであり、製造過程高度化について専門的な知識を有する者を交え、十分な検討を行う必要があり、基準は製造過程の実態が十分反映したものであり、その水準は品質管理の徹底を求める社会的要請に十分対応できるものであることを求め、その上で、製造過程管理高度化の目標、基準を示しています。

 目標としては、コーデックスガイドラインに沿ったHACCPか、HACCPの考え方を適用した品質管理によるもので、これに基づいて、建物、機械・装置、それらの運用体制の整備を行うことが明らかに示されていること。

 基準としては、施設整備の基準として、清浄度別の区画があり、清浄区域とその他の区域が原則として隔壁で仕切ることを求めています、しかし、仕切らなくても、二次汚染が防止できる方法がとられている場合は、仕切りがなくても良いと認めています。

また、原材料搬入から製品の保管・出荷までの過程が交差しないよう配置されるだけの広さがあることが必要である、としています。

 清浄区域は、清浄な空気が保たれるための施設があること。高度化を図るための機械

装置が配置されていること。

運用体制の高度化を図るために、専門家チームを編成することが示されています。」

交差汚染防止のための工夫 

 高度化に関する基本方針は、“名ばかりマル総工場“のレベルアップを図る目的で出され

たものと思われます。

「また設備投資か」と頭を抱え「金は無いよ!」と諦めておられる人は、フーズデザイン

の加藤光夫氏が本誌08年6月号に発表された「HACCPは「箱もの」という大誤解」

を読まれることをお勧めします。例えば、「HACCPは施設設備といったハード的な

『モノ』ではなく方法、工夫で行う。」「HACCPは食品から危害を除去する場所を探

して見つけ、それを実施し、効果があったことを、測定して確認する方法だ。」  と述

べています。

また、氏は週刊マガジンHACCPの導入方法にも「HACCPは「箱物」という大誤解」

1〜4を掲載しています。

ご参考までに、1の大要をご紹介します。

 「増設を重ね、作業動線やゾーニングに多少問題があるので、交差汚染が無いように工夫をして運営をしている魚工場の社長が「HACCPをやろうとしている」という話をしたら、あるISOの認証機関の担当者が、「HACCPは箱物だから、出来ない、」つまり施設設備が出来ていないとHACCPは出来ない、と言ったと聞き驚いた。HACCPは、モノでは無く、方法だ。施設設備が古くても、危害が出ないように、清掃、洗浄、消毒、個人衛生、教育、ルール、といった「方法」で、危害が出ないようにすればよい。これが、一般的衛生管理を土台としたHACCPの構築だ。

 HACCPは、施設設備が古くても出来る。交差汚染の危険があったら、パーティションを置いたり、ビニールカーテンをしたり、従事者の通るルートを指定したり、原料資材の置き場を工夫して問題が起こらないようにすればいい。危害を従事者が工場内に入れないように、手洗いや粘着ローラーを使うようにもする。これらが一般的衛生管理だ。」

高度化も徹底した危害要因分析結果を拠り所に

「徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」

  





◆なお、食品科学には、サントリー榛名工場の工場長として活躍され、工場改革を進め「eメールで進める工場改革」(日刊工業新聞社刊)の著書でも知られている水上喜久氏が定年を迎えてコンサルタントとして独立、食品科学にも「ディズニーランドのような工場にしたい」をテーマに、豊かな体験に裏打ちされた、臨場感ある連載記事を書いておられます。本誌でぜひご覧ください。私もファンです。きっとお役に立つと思います。


◆リンク 食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/ 

2010-06-14 *[経営幹部への手紙](33)成型肉ステーキでO157食中毒

*[経営幹部への手紙](33)成型肉ステーキでO157食中毒

 ペッパーランチが客に提供した角切りステーキで、O157食中毒患者が七都道府県で発生し、ほぼ次のように報道されました。

 「ステーキチェーンペッパーランチ」を運営する「ペッパーフードサービス」(東京都墨田区)は5日、東京、大阪、埼玉など7都府県の計7店舗で食事をした客計11人から病原性大腸菌O(オー)157が検出されたと発表した。

  同社によると、11人は、東京、大阪、京都、奈良、埼玉、山口、愛媛の各1店で食事をし、その後、O157が検出された。このうち、山口県防府市の山陽自動車道・佐波川サービスエリアの店舗では、8月23、24日に食事をした男児3人を含む4人が腹痛や下痢などの症状を発症したため、同県は同店が原因の食中毒と判断し、今月5日から3日間の営業停止処分とした。

 11人はいずれも、熱した鉄皿で、生のオーストラリア産牛肉の「角切りステーキ」などを焼いて食べたとみられる。客が焼き加減を調節するため、食中毒菌に汚染されている場合、よく焼かないで食べると菌が残っている可能性があるという。

 この肉は、岐阜県大垣市の取引先工場が8月3日に加工。冷凍状態で輸入したものを解凍して加工し、再冷凍して全国のペッパーランチ100店舗に計2560キロを納入した。11人は8月14〜26日に同メニューを食べたという。

 同社は4日昼から全店で「角切り」を販売中止とした。」

なを、9月7日兵庫県と京都府で6人、8日には奈良県で2人の患者が発生したことが報道されました。

全187店臨時休業

ペッパーフードサービスは、食中毒を発生させた問題で、7日、全187店を同日臨時休業し、店舗清掃や従業員への衛生指導、食品の保存状態の確認などを行うと発表した。

 本部社員らによる衛生状況のチェックを終えた店舗から順次営業を再開する。報道機関向け文書で、『事故を重く受け止め、社会的責任を痛感している。事故のけじめとして』と説明している。」   と全店が臨時休業することが報道されました。

最新の情報を基にした危害要因分析でマニュアル改訂を

 マニュアルは、商品開発を含め、過去の事故事例に学び、最新の情報を集め、改訂する必要があります。この努力を怠ると、企業は存亡にかかわるような手痛い打撃を受けます。

品質管理や商品開発に携わる人たちは、関連専門誌を身近に置き、原材料の品質、その受け入れから製造・調理・加工・客へ提供するまでの工程を点検し、マニュアルや商品表示の改定をする義務があります。

今回と同様加工ステーキ肉による食中毒事件は8年ほど前にも発生しています。

2001年2月から3月にかけて、滋賀、富山、奈良の3県で患者計6人がファミリーレストランステーキを食べて発症しています。

この事件を新聞は「おいしくして157拡大」「肉加工技術“犯人”」と見出しをつけ、「値段が安い牛肉を、高級肉並みに軟らかくおいしくする加工技術が、病原性大腸菌O157汚染を起こした。」と報道しています。

食品科学04年3月号で問題提起

「危害要因分析をすることが大切!」という視点から、前記加工肉ステーキによる食中毒事件を例に、本誌の2004年3月号で問題提起をしています。  参考までに紙面の大要を記述します。

             *****************************

材料のビーフ角切りステーキ半製品180グラムの個包装冷凍品はそのまま前日から冷蔵庫解凍、翌日調理マニュアルに基づき、熱した鉄板に乗せ、コンベアオーブンで280℃2分間加熱していた 。   ステーキ肉はこれまで表面を焼けば安全が常識であった。

しかし、ファミリーレストランで使われた肉は、埼玉県の食肉処理工場で、剣山のような道具で肉をたたいて繊維を切り、肉を軟らかくするテンダライズ加工と調味液を滲みこませるタンブリング処理が行われていた。

この加工作業が、肉の表面に付着していたO157菌を肉の中心部に押し込み、内部にまで滲みこませていた。このような肉は、挽肉製品と同じく中心部まで十分熱を通すことが必要なのだ。この事件を特性要因図で分析すると図のようになる。

厚生労働省は食品衛生法施工規則第5条第1項を改正し「食肉であって、刃を用いてその原型を保ったまま筋及び繊維を短く切断する処理、調味料に浸潤させる処理、他の食肉の断片を結着させ成型する処理その他病原微生物による汚染が内部に拡大するおそれのある処理を行なったものにあっては、処理を行なった旨及び飲食に供する際に全体において十分な加熱を要する旨」を表示することを規定した。 この改正は平成14年4月1日から施行されている。

成型肉など加工された食肉の調理や食べかたを知らない人も多いので、提供する側が、過去に発生した食中毒事件などを参考に危害要因分析を行い、調理マニュアル、商品への表示や献立、消費者向けPR資料等の改定をする必要があります。

災いを福に変えられるか

今回の食中毒事件は成型肉に対する不信感を消費者に抱かせました。当事者が今、何もしないでいると、不信感は肉類全般へ広がる危険性があります。

加工肉に対する不信感を拭い、更に信頼や親しみを持ってもらうためには、当面、前記一連の事項を確実に行い、その上で、誠実に情報公開をし、調理についても丁寧な説明を行うことが必要です。

基本的には、経営・業界幹部が「災いを福に変える」と決心し、HACCPシステムやその改良版であるISO22000の導入を図ることです、導入済みであればその見直しをすることが求められます。

生肉は汚染されている

 厚生労働省は毎年市場から2000件〜2600件ほどの食材を採取し、食中毒菌汚染実態調査をおこなっています。

02年、カットステーキ肉から1件、03年、牛結着肉から1件と生食用食肉から1件、05年、豚ミンチ肉1件、06年、生牛レバー1件、それぞれに腸管出血性大腸菌O157が検出されています。

原因は製品実現計画の誤り

 前掲したように、「ペッパーフードサービスは、食中毒を発生させた問題で、7日、全187店を同日臨時休業し、店舗清掃や従業員への衛生指導、食品の保存状態の確認などを行うと発表した。」と報道されています、もし事実なら、当事者は、今回の食中毒発生原因の本質を理解していないように思われます。

事件の原因は形成肉の内部汚染であり、店舗清掃や従業員の衛生、保存など“場の状態”の問題ではなく“原材料である食材(形成肉)の状態”の問題であり、「製品実現計画」  に誤りがあったからです。

 肉類を原料に商品化を行う場合、中心温度計とストップウォッチは欠かせません。食材の中心温度を75℃1分以上で調理するためのHACCPシステムに基づく衛生標準作業手順(SSOP)、(ISO22000の場合はオペレーションPRP(OPRP)作成実験を重ね、現場業務として手順通り行われることが可能かを検証し、作業員の訓練も行います。

もし、人や機材の面で体制がとれるのであれば、管理体制を一ランク上げ、加熱調理工程をHACCPシステム(ISO22000システム)のCCP(必須管理点または重要管理点)として管理します。

作業が稼働状態となったら、作業が手順どおり行われているかを管理者が常時点検します。

 中心温度計を使った食材の中心温度測定と調理用鉄板の温度・火加減の確認は、一定時間ごとに行い、記録することが必要です。

このようなことをきちんと行い、最終製品への二次汚染防止訓練も徹底すれば、病原菌による食中毒発生は防止できます。

 ペッパーランチの場合、加熱調理という重要工程を自ら管理せず、客の好みに任せてしまったのですから、起こるべくして起きた食中毒事件と言えます。

重ねて言います、「原因は、製品実現計画の誤りです。」

 経営幹部は、製品実現計画を部下まかせにせず、利益率やデザイン、宣伝文だけに目を向けず、原材料や製造工程における危害要因分析や品質に関わる事項については、自らも検証を重ね、責任をもってGOかNOかのサインを出してください。

危害分析(HA)の基本的な考え方

 食品の危害要因分析を行う場合の出発点ともなる基本的な考え方については、次のように指針が示されています。

「食肉や魚介類などが、病原微生物で汚染されているのは決して好ましいことではない。しかし、現実に病原菌や腐敗菌フリーの食肉や魚介類を得ようとするのは、困難というより不可能に近いことである。  HA(危害分析)の基本的な考え方は、食肉、鮮魚介類などの生鮮原材料には、初めから病原菌、腐敗菌が付着・汚染している。例えば、『生鮮魚介類には腸炎ビブリオが付着している、』『食肉や鶏肉、それらの内臓、生卵、乾燥卵や乳類は、サルモネラカンピロバクターや病原大腸菌で汚染されている』という割り切った考え方をする。そして原材料由来の病原菌や腐敗・変敗微生物をいかに殺滅し、あるいは確実に増殖を抑制するかの対策をたてる。

さらに調理・加工工程、容器・器具、装置および従業員の手指などを通じて最終製品への二次汚染の防止対策を実施することにより、安全で良い品質の製品を得ることを目標にし、微生物制御を中心とした日常の計画的な自主管理をしようとするのがHACCP方式の基本的な考え方である。」

2次(交差)汚染でキャベツが原因食に

 例えば食中毒菌に汚染されたミンチ肉を使ってハンバーグを作り、キャベツの千切りを料理に添えたとしましょう。

ハンバーグは十分な加熱調理がされれば、食中毒菌は死滅し、問題はおきません。

 しかし、ミンチ肉を扱った従事者が十分な手洗いをせずに、肉に添えるキャベツの千切りを作っていた。あるいは、ミンチ肉調理に使用した包丁まな板、器具類をざっと水洗いしただけでキャベツの調理にも使っていたとすると、手や調理器具に残っていた食中毒菌がキャベツへ移行します、保管時間が長いと人を発病させる菌量にまで増殖します。

ましてや腸管出血性大腸菌はごく微量でも人を発病させます。

恐ろしいことに、腸管出血性大腸菌は腸内で “ベロ毒素 ”を出し、子供の命を奪うこともあるのです。

心も凍る思いを

平成8年、腸管出血性大腸菌O157による食中毒が全国に猛威を奮いました。大阪府においても河内長野市内の保育園や羽曳野市内の老人ホームでO157を原因とする集団食中毒が発生しました。また、堺市では学童を中心とし患者・感染者が9,523名に及ぶ集団下痢症が発生し、不幸にして尊い3名の命が失われました。

対策はやればやっただけの効果が

堺市学校給食による集団下痢症事件では、ふしぎなことに、堺市中・南地区35校のうち晴美台小学校(児童数195名)1校だけは一名の患者も発生しませんでした。

この学校の給食施設では、栄養士の指示で給食材料のカイワレ大根を調理後3時間水道水に浸漬していました。

当時の病原大腸菌O157対策本部は「o157菌液を付着させたカイワレ大根を使い、これらの調理過程を再現してカイワレ大根を3時間水道水に浸漬したものと、室温で放置したものとについて生菌数を比較しました。その結果、3時間室温に放置したものでは、1.5×10の7乗/g、水道水に浸漬したものは、1.5×10の6乗でした。

対策本部は、「水道水による生菌数の減少効果が病原大腸菌O157の最小発症菌量のレベルにおいても生じるのであれば、患者非発生理由の一つと考えられる。」と水道水への3時間浸漬を評価しました。

塩素消毒で生成されるトリハロメタン

学校給食現場調理師の証言によれば、 堺市教育委員会は、事件発生の10年ほど前から生鮮野菜等の塩素消毒を中止していました。

しかし、事件が発生したので、あわてて塩素消毒を再開しました。今度は使い過ぎか、防護体制ができていなかったのでしょうか、「「眼が痛い」「手先がピリピリする」と、調理師が訴える現象が起きたと報告されています。 

堺市教育委員会は、なぜ塩素消毒を中止したのでしょうか、1981年に、「水道水の塩素消毒を行うとトリハロメタンが生成される、トリハロメタンには発がん性がある」という指摘がなされ、社会問題化しました。

教育委員会はこの”騒ぎ“に同調して塩素消毒を中止したと思われます。

これを受けて厚生省は、WHOの水質基準を基にトリファロメタンの暫定基準値を0・1mg/L以下と定めました。

塩素消毒でトリファロメタンはどのくらい生成されるのでしょうか?

埼玉県川越保健所、群馬県桐生保健所が行った検証実験では、200mg/L[25℃]次亜塩素ナトリウム野菜塩素処理しても、トリハロメタン生成量は、5分間浸漬で0.003mg/L、10分間浸漬で0.004mg/L、20分間浸漬で0.006mg/L、30分間浸漬で0.011mg/Lと、水道水質基準の0.10mg/L以下よりはるかに低いことが証明されています。

食中毒」を知ろう

 食品安全委員会は、腸管出血性大腸菌を次のように要約しています。

 

「腸管出血性大腸菌食中毒の特徴

動物の腸管内に生息し、糞尿を介して食品飲料水を汚染します。少量でも発病することがあります。

加熱や消毒処理には弱い。

過去の原因食品

日本:井戸水、牛肉、牛レバー刺し、ハンバーグ牛角切りステーキ、牛タタキ、ローストビーフ、シカ肉、サラダ、貝割れ大根キャベツメロン白菜漬け、日本そば、シーフードソースなど。

海外:ハンバーガーローストビーフ、ミートパイ、アルファルファ、レタス、ホウレンソウ、アップル

ジュースなど。

症状

感染後?〜10日間の潜伏期間。初期感冒様症状のあと、激しい腹痛と大量の新鮮血を伴う血便。

発熱は少ない。重症では溶血性尿毒性症候群を併発し、意識障害に至ることもあります。

対策

食肉は中心部までよく加熱する(75℃、?分以上)。野菜類はよく洗浄。と畜場の衛生管理、食肉店での二次汚染対策を十分に行う。低温保存の徹底。」

角切りステーキO157食中毒要因図.JPG 直

 経営幹部が中心になり、できれば外部の学識者(コンサルタント)を招くか、分厚くなく、しかし中身はしっかりした“衛生管理入門書”  を購入し社内幹部学習会を行いましょう。思いつきや見当違いの “つぎはぎ衛生対策”は止めることです。

2010-01-20 *[経営幹部への手紙](32)マネージャー・中間管理職は?

[](32)マネージャー・中間管理職は?


 現場を支えるマネージャー・中間管理職は大丈夫ですか、部下から信頼され、現場のリーダーとして機能していますか。部下への指示や指導をきちんと行っていますか。作業手順が守られていないのを、見て見ぬふりしていませんか。現場で浮き上がり、“名ばかり管理職”になっていませんか。最近昇格させた管理職が潰れないように、支援していますか。

そして、経営幹部の不用意な行為で現場を困らせていませんか。

*操業開始前1時間が大事

 「操業開始前1時間が、その日を決定します。管理職の踏ん張りどころです。」と、ベテランの元工場長が、朝の準備作業の大切さを強調されました。

海外の事例ですが、アメリカのAnytownにある、食肉の解体処理と中間加工を行っているヒルトップミーツ社の衛生標準作業手順(SSOP)では、「すべての器具類は製造開始前に洗浄と殺菌を行います。」と規定し、設備の洗浄及び殺菌のために決められた、衛生管理手順を次のように定めています。  

a. 設備を分解します。部品は所定の水槽、棚などに置きます。

b. 製品残留物を除去します。

c. 設備部品を水で洗浄し、残っている残留物を取り除きます。

d. 決められた洗剤を使い、洗剤メーカーが指示している事項に従って部品を洗浄します。

e. 必要な場合は、設備部品を流れている飲料水で洗浄します。

f. 定められた殺菌剤で設備を消毒し、必要な場合は流れている飲料水で洗浄します。

g. 設備を組み直します。

h. 定められた殺菌剤で設備を再度殺菌し、必要な場合は、流れている飲料水で洗浄します。

【注】受講したセミナー の講師は、アメリカの場合は、と前置きし、「食品工場にも飲料水と施設の洗浄などに使う“工業用水”の二系統が提供されているので配管工事の際に交差汚染を起こさないようにすること、水道栓に付けたホースの先をバケツや水槽に溜めた洗浄水の中に突っ込んだままにしないこと、逆流防止弁を付けることをしている。」

「また、衛生標準作業手順(SSOP)は、製品への直接的な汚染、または、品質劣化を予防するための日常的な衛生管理手順です。」と解説を加え、「PRp(前提条件プログラム)はあくまでも概念であり、これだけを教えても現場作業の具体的改善は進まない、標準作業手順にして訓練することが重要である」ことも強調されました。

*QC責任者の責任と判断で「GO!」

 QC責任者は操業前の設備清掃・洗浄・殺菌作業が終わったのを見届け、官能検査による点検と、機器が食品に直接接触する面を、トータルプレートカウント(TPC)検査を行い、基準に合わない場合は、基準に合うまで何度でも清掃・洗浄・殺菌の実施を指示し、すべて基準に合致することが確認された段階で、「製造開始が可能であること」を製造担当責任者に連絡します。

 また、QC責任者は、製造開始1時間以内に機器の食品接触面をスワブし、検体は35℃で48時間培養します。結果が悪い時は、製造責任者、衛生管理責任者と原因を追究し、改善策を協議します。と、始業前の衛生管理作業手順を規定しています。

 あなたの食品工場の朝の管理職の皆さんの仕事内容、職務権限と比較検討してみてください。

 ?愛知ヤクルト工場の落代表取締役は、「操業前30分前には現場にいて、現場の状況を見、担当者とも情報を交換している、経営幹部は、現場を知ることを心がけるべきだ、朝うまく滑り出すとその日はだいたいうまくいく」と述べておられます。

 さて、仕事を任せた中間管理職が、操業前の朝、職場でどのように役割を果たしているのかを見ていますか?知っていますか?見ていなくとも、「午前7時、あの職場の管理職A君は、あの部署の機器類の操業前洗浄作業後の点検をしている。」とイメージできますか?

 部下の仕事ぶりがイメージできないと、結果的に、自らの手で社内ルールを破り、事故の原因を作ってしまうことさえあります。

*クレームの原因の原因は電話

 ある飲料工場のコーヒー牛乳塩素臭があるというクレームが消費者から寄せられ、新聞にも報道され、製品回収が行われました。

原因を調べたら、貯留タンクの殺菌用に使用した次亜塩素ナトリウムが、製品のコーヒーに混入していたことが判明しました。

通常は殺菌処理をした後は、製品のコーヒー牛乳で洗い流し、その後に本体のコーヒー牛乳をタンクに貯留するのですが、作業者Aが次亜塩素ナトリウム液での殺菌処理作業を終えた段階で、Aに「電話がかかってきた」と工場事務所から電話に出るよう促され、Aは同じ職場のBに後の作業を頼み電話に出ました。

しかし、Bは、Aがコーヒー牛乳で洗い流す段階を済ませたと思い込み、そのまま、本体のコーヒー牛乳を貯留してしまったのです。

 「AとBの引き継ぎが悪い」と言えばそれまでです。

しかし、本来作業中は、外部からの電話は取り次がず、電話に出た者が代って聞くか、作業終了後に改めてAから電話をかけることで、相手の了承を取り付けるのが通常です。従業員教育でもそのようにしているはずです。

しかし、電話の相手が内部の上司や本社の幹部となると、電話を受けた事務所員は緊張してしまい、電話口で頭を何度も下げ「ハイ、只今すぐに呼びます。」ということになってしまいます。

いま一つ、経営幹部、特にトップが犯しやすいミスがあります。それは、うっかり背広姿のまま、時には来客と一緒に現場を視察してしまうことです。

「言っていることと、することと違うやないか!」と、現場従業員の気持ちは冷めてしまいます。

 気をつけないと、経営幹部がルールを乱し、従業員の意識を低下させてしまいます。

そして怖いのは、現場管理職が、「やつてられないなあ!」と部下指導の意欲を失うことです。

電話や工場への出入り等についての内部統制をきちんと見直さないと足元から崩れます。

*部下の仕事をイメージする

 マクドナルドの店長の出勤から開店までの行動を実況中継風に記述している本がありました。

 店長は36歳。家族は、妻と小学3年生の男の子と5歳の女の子の四人暮らし。

 朝五時十五分には車で家を出て、二十分後には店の駐車場に車を入れています。

1. 頭で早出メンテナンス担当者の名前を確認しながら、店周辺の状況を確認しています。

2. 資材倉庫を点検し、整理整頓された状況であるか、必要なストック量が保管されているか、その量が表示板に明記されているか確認しています。

3. 自分より早く出勤している人に、「君たちは偉いぞ!」という気持ちを込めて声をかけています。

4. 担当者それぞれの仕事を確認し、準備にかかってもらいました。

5. 事務所のデスクに座り、店長への連絡事項が記入してある店長カレンダー(店長業務の12ヵ月コントロールノート)を読み、メモを取りました。

6. ISPパソコンに向かって前日までの入力データを確認しました。【注】マクドナルドは1990年代半ばに、情報システムISP(インストアプロセッサー)を開発、1990年代に全店に導入しています。

この導入で、現場の事務処理は楽になり、転記ミス、読み違いミスも減少しています。本部とのコミュニケーションもスムーズになり、必要なデータもプリントアウトできます。

7. 洗面台で手を洗い、手入れの状況も確認しました。

8. 深夜から早朝にかけて店舗の大掃除を担当しているメンテナンスマンSの報告を受け、一緒に店舗の巡回点検をしています。

厨房の床、タイル壁面、各施設・設備、機器、それらの下の床面、シンク、フロアの床、その立ち上がり部分、一階の窓ガラス、扉、天窓。二階へ延びる階段、昇ったところにあるサンキューボックス(ゴミ箱)床、タイル、シート、テーブル、間仕切り、観葉植物、装飾物、窓ガラスなどを点検。

9. 通路の連絡板、男女用トイレ、厨房のバックルーム、冷凍・冷蔵庫の周辺、ラック周り。

10. 外へ出て、建物周辺の犬走り、植木、サインボール、案内板、メニューボード、駐車場とフェンス周辺を点検。

11. 店舗から少し離れて、キャンペーン用の垂れ幕や旗の状況を見て、店内に入りました。

12. 次に、気をつけて点検する事項を担当者と共に再確認しています。

*再確認事項

a. トイレに汚れが残っていないか。

b. ダストボックスに汚物が残っていないか。

c. 床に水が溜まっていないか。

d. トイレットペーパ・ペーパータオルが十分あるか。

e. 昨夜分解洗浄し乾燥させておいた、シェイクマシンは、今朝更に、手順どおり、洗浄殺菌し、水道の流れ水でゆすぎ、乾燥させ、組み立てているか。

f. ガス調理器の着火、排気フアンの作動テストは確認されているか。

g. フライヤー、トースターの温度設定が確認されているか。

担当者から、確認完了、準備作業完了を知らせる明るい声が聞こえ、店長は「サンキュー」と応答しました。やがて、出勤してきた接客担当などのクルーと仕事の内容を確認、それぞれの場所で必要な準備をしてもらいました。

 以上が、マクドナルド店長の朝の仕事内容の大要です。

店長以外の幹部では、いずれも正社員の第一店長代理、第二店長代理がおり、その下にパート・アルバイトのAスウィングマネージャー、スウィングマネージャー、スター、トレーナー、Aクルー、Bクルー、Cクルーがいる配置図が記載されています。

 店長や店長代理が担当するこれだけの仕事を、継続してきちんと行うのには、高い意識、やる気、体力と能力が必要だと思いました。それらを育てる全社的対応が本の第二部に体系立てて書かれていました。

*現場マネージャー・中間管理職やる気の素は

 理屈を言うと、理念の共有などということになるのでしょうが、やはり自分の上司やその上にいる経営幹部が「自分を認めていてくれている」「仕事ぶりを知っていてくれる」「見ていてくれる」、仕事が順調にいっている時や業績が向上した時には、すかさず「褒めてくれる」「こちらからの話をしっかり聞いてくれる」「給与も良いほうなのではと思える」といった満足感がマネージャー(中間管理職)の「やる気の素」ではないでしょうか。

 経営幹部と社員が触れ合う和やかな社内会合、飲み会、旅行会などが、復活しています、また、これらの計画に現場社員も参加させ、効果を上げている企業もあります。

経営理念に「社員の幸福」を掲げ不況の中でも順調な経営を維持している食品企業を紹介する本も店頭に並び出しました。

“転機”を感じておられる方も多いのではないでしょうか。

*現場に希望と誇りを

 NHK放送大学の講義で、講師は、「学校教育の現場が失ったもの、失いつつあるものは『希望と誇り』です。現場の教師は元気を出して、取り戻してほしい。」と講座最終の講義を締めくくりました。

 最近ある会で、食品企業の生産統括を新たに担当することになった現職の部長さんにお会いしたので「希望と誇りの喪失は、食品製造・加工の現場でも同じことが言えるのではないでしょうか」と問いかけました。

食品現場でも、相次ぐ偽装事件や、正規職員の減少、派遣など非正規職員の増加で『希望と誇り』が失われているのは事実です。

残念ながら、食品現場は、教育界などとは比較にならないほど深刻だと思います。食品施設の現場で多くの人に会った結果を分析すると。現場のマネージャーや従業員たちは『心身共に疲弊しつつある』とさえ言えます。」

「しかも、経営幹部の多くは、それを知らない、現場を自らの目や感触で、知ろうとしないのが現状です。

たまに、経営トップが現場に出たとしても、口から出る言葉は売上げのことばかり、「品質保証や安全のことは、経営理念に書いてあるだけなのよ」と、働く人たちの前で本音を丸出しにし、そそくさと帰るのですから、まさに逆効果です。」

*なんとかしなければ

「私は、従来のピラミッド式組織を逆さまにするなど、新しい発想で組織とその運営を見直し、現場の活性化を図る必要を感じています。なんとかしなければいけないのです」と自らにも言い聞かせるように、厳しい顔で答えられました。

このような幹部のおられる企業は、革新を重ね、企業の発展と継続の基礎を築かれだろうと思いました。

2009-09-01 *[経営幹部への手紙](31)改善の出発点は整理・整頓

食品科学社(電話03-(3291)-2081FAX03(3233)0478)の月刊食品科学に連載中の

(9)月号掲載、エグゼクティブ(経営幹部)への手紙(31) の内容をご紹介します。

◆エグゼクティブ(経営幹部)への手紙(31)改善の出発点は「整理」「整頓」



「県庁の星」というテレビドラマを見ました。登場人物が、技術系大学を出て食品企業に就職し、現場に配属された“学卒さん”とダブりましたので、原本 も読みました。

ドラマの主人公は

ドラマの主人公「野村 聡」31歳はY県の上級職試験をパスしたエリート公務員、産業労働部産業振興課産業支援班の班長として地域開発事業チームのリーダー役を務めるエリート。

一年間民間企業で働き民間企業独自の経営手腕や工夫を学び、県民行政に役立てる人事交流計画の第一期生に選ばれ、県内地方都市にある食品スーパーに派遣され、職場文化の違いに戸惑い、スーパーの現場従業員たちとも衝突します。しかし、その交流の中から、自分のあり方にも誤りのあることを悟り、一年発起し、一作業員として職場チームに溶け込み、仕事を習い、新商品開発に挑戦し、整理・整頓、在庫管理などの改善を進め、担当チームの業績も上げ、最後には全従業員に受け入れられるというストーリーでした。

 スーパーへの出社初日、彼が見たものは、在庫品の段ボールが店長室までも積み上げられ、身動きもままならないという状態でした。

本部から配送された商品が売れず、在庫品になっているのでした。

彼は「県庁さん」と呼ばれ、スーパー側は持て余し気味でした。研修担当は十歳ほど年上のパートの女性二宮泰子。この女性、勤務歴は長く、しっかり者で裏店長とも呼ばれ、売り場の女性たちを仕切っていました。

しっかり者パートさんの力

しっかり者のパートに機会と役割を与えたら、現場をリードし、改善が進んだ例を、以前体験しました。チームリーダーとして食品工場の改善活動に参加した際、銀行での勤務歴を持つしっかり者のパートの女性が現場にいることを知り、HACCP委員会のメンバーになってもらいました。予想に違わず、委員会での発言や提案は的確でした、メンバーも信頼を寄せるようになり、品質管理室の技術者と組んで衛生自己点検も行い、改善を具体的に進めました。

食品安全ネットワークの研修会で「現場の女性従業員は古株のパート女性に牛耳られているので、改善を進める場合は、まずこの女性の同意と共感を得ることが必要なんです。」と、いった話を若い品質管理室勤務の人から聞くこともありました。

職場文化の違い

 ドラマで野村は‘県庁さん’と呼ばれていました、彼は仕事のデータ化や標準化が得意で、「書類」と「数字」で、仕事を進めようとし、まず、研修担当の二宮泰子と衝突します。

 二宮は野村に「仕事や接客のマニュアルなんてない。実際に体験して、考えて、自分なりの一番いい方法を見つけりゃいいの、マニュアルなんてうちの店には無いの。」

「組織図?この店に入って十五年になるけど、そんなもの見たことない、もしかしたらないのかも」「そんなものなくたって、回っていくから、民間は!」と反撃します。

 レジの実習に回された野村は、「使用不可」の表示が出た客とトラブルになりかけた時に二宮が割って入って解決。

 「習っていなかったので」という野村の言い訳に、「誰も習ってなんかいないよ、これを言ったら、こうゆう言い方したら、客はどう感じますかって、こと、わかんない?」「商売は習うもんじゃなくて、客の気持を察することなの。県庁さんには素質がない。人を喜ばせたいとか、楽しませたいと思ったことないでしょ。県庁さんが新入社員だったら即クビ」と厳しく言われてしまいました。

バックヤードの厨房でも

次の研修場所として配属された弁当総菜の厨房では、ごみ缶に腰をかけて煙草を吸う人、コロッケの材料に使うジャガイモは芽だらけ、売れ残りのコロッケを、水をくぐらせて、さっと油で揚げて陳列に並べているので、「そうゆうことは、いけないのでは、と言うと」「リサイクル、もったいないでしょ」と答えが返ってくる。材料の消費期限などは黙殺、といった状態に腹を立てた野村は、不正の是正を求める意見書と職場別マニュアルを徹夜で作りあげ、二宮と店次長に提出しました。

意見書をめぐって

 店次長は、読むことをためらい、二宮は、「あなたが書いていることは正しい、しかし、あなたは人間を見ていない、指示するだけでなく、共に汗を流さないと人はついてこない」と指摘。

一階食料品売り場長の浅野は、厨房チームを、ブランド弁当を作るAチームと、従来の弁当を作るBチームとに分け、Aチームのリーダーに野村を指名しました。

 Bチームは、Aチームと競争することで結束、能率も業績も上げました。

 しかし、野村が構想したAチームのやや高級な弁当は売れず、調理スタッフの心も離れはじめました。見かねた二宮は、「Aチームに必要なのは市場調査」と野村を百貨店の地下食料品売り場へ誘い、女性客がどのような心理で、どのように行動するかを実際に見せ、「書類のデータばかり見ないで、人間の行動を見、その人の心理や背景を想像しなさい。」「スーパーが開発する弁当は「特別な日と日常の中間を狙え!」と助言しました。

 厳しいが、優しさのこもった助言に野村も開眼し、Aチーム調理場の一員として働きたいと謙虚に頭を下げ、受け入れられました。

更に、鮮魚加工所や売り場にも修行に行ったことで、他の職場の人たちも心を開き、入荷した食材それぞれに伝票を2枚作成し、1枚は食材に、1枚は機械へ入力して管理する方式も行われるようになりました。

 そんな折、消防署と保健所からの査察が同時にあり、指示内容は、本日の指摘事項について改善計画書を速やかに提出すること、次回査察時に改善がなされていなければ営業停止もありうると厳しいものでした。    

 もし、営業停止の処分を受ければ本部から店自体がリストラされる恐れがあり、全従業員が心配していることでした。

野村は、二宮の指示や助言も受けながら廊下や、非常口の外階段にまで積み上げられている段ボール箱の整理、ストックルームの中の整理、荷物置き場所と通路の区分や消火栓前の空間確保部分を色テープで区分する作業などを黙々と行いました。

 消防署への報告書作成から、現場の整理整頓に至る野村の努力が実り、2回目の立ち入り検査は合格でした。

市場調査を基に開発した弁当総菜などの新商品は日を追って売り上げを伸ばし、波及効果は全店に及び20%の売上増となりました。

売上増を祝う朝礼では、「県庁さん」コールが起き、台に上がって挨拶することにもなりました。

県庁に帰った野村は、上司の質問に答え、「民間研修で得たものは、間違ったらすなおにあやまること、一人では何もできない、チームの協力が要ること。」と答えていました。

食品企業現場の学卒さんは

このドラマや原本には、管理者や従業員の本音と、生々しい現場の現実が語られています。

 現場従事者が、見る“学卒”さんは「研修期間に仕事の手ほどきをしたのだが、どうも不器用で、作業は好きでないみたい。しかも、理屈が多く、二言目には、か『記録は』『データは・・』と言い、人間である自分達を見てくれない」と厳しいものがあります。

 学卒さんでもある「若い品管」の方たちからよく耳にしたことは、「現場の古参従業員が言うことを聞いてくれないので、ラインの長に頼んでいます、ラインの長がとにかく頼みの綱です」ということでした。

全員を結束させる整理整頓

 ドラマに、戻ってみましょう、県庁さんの野村が汗を流し、本格的に取り組んだのが、整理整頓、在庫管理でした。

時に現場チームの協力を得ながら、しかし、ほとんどを一人で黙々と働き、全員が目に見える改善「整理整頓」を成し遂げたことで、野村への空気が変わり、現場から信頼され、尊敬さえされる存在となりました。

 実際に、食品工場で進められている食品衛生7Sは、整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌をしつけで、推進、維持し、目的である清潔を達成しようとするものです。

  このドラマは、そのうちの整理整頓がすべての改善の出発点であり、基礎でもあることを示しているように思えます。

ドラマが教えていること

 課題を乗り越えるごとに自らを変え、成長していくこと、自らを客観的に眺める余裕をもち、素直に教えを受けることがコミュニケーションを自然に広げることになっていることを教えているように思います。

 もし、学卒さんたちが、エリート意識のまま、検査室などに引きこもり、データ集めや書類づくりばかりしていたとしたら、現場の改善は進まず、クレーム処理に追われる結果となるでしょう。

「現場に溶け込み、連帯して活動する」と、言葉で言うのは易しいのですが、日々実行を重ね、信頼と時には楽しみも共有し合う連帯を現場で構築するためには、学卒さん自身の、たゆまぬ努力が必要であることを、経営幹部の皆さんが教え、見守る、必要があるように思いました。

◆なお、食品科学には、サントリー榛名工場の工場長として活躍され、工場改革を進め「eメールで進める工場改革」(日刊工業新聞社刊)の著書でも知られている水上喜久氏が定年を迎えてコンサルタントとして独立、食品科学にも「ディズニーランドのような工場にしたい」をテーマに、豊かな体験に裏打ちされた、臨場感ある連載記事を書いておられます。こちらは本誌でぜひご覧ください。私もファンです。きっとお役に立つと思います。(猫西 一也)

◆リンク 食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/