鳩の撃退法 <上>(佐藤正午)12/20読了
かつての売れっ子作家・津田伸一は、いまは地方都市で暮らしている。街で古書店を営んでいた老人の訃報が届き形見の鞄を受け取ったところ、中には数冊の絵本と古本のピーターパン、それに三千万円を超える現金が詰め込まれていた。「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」転がりこんだ大金に歓喜したのも束の間、思いもよらぬ事実が判明する。偽札の動向には、一年前に家族三人が失踪した事件など、街で起きる騒ぎに必ず関わっている裏社会の“あのひと”も目を光らせていた。
佐藤正午の本は『身の上話』しか読んだことがないので、図書館で借りるのではなく、単行本上下巻をいきなり購入するのは一種の賭けだったが、その賭けには勝ったようだ。実に面白かった。小説を読むというか、佐藤正午の考えた「作り話」を面白く読んだという感じ。
津田伸一という元作家であり登場人物の一人が、ある一日の出来事を振り返って小説にするという体裁になっている。その一日には実に多くの要素が詰まっており、その要素が小出しに明らかになり、しかも時間軸が行ったり来たりするので、なかなか全貌が掴みにくい。しかし、その構成こそが物語を先に進める力になっている。そもそも「鳩の撃退法」って何なのか、家族の失踪事件はどうなるのか、偽札事件はどうなるのか、段々と謎は明らかになり、最後にパズルのピースはぴたりと嵌まる、ように見える。というのも、語り部の津田伸一が書いていることが真実とは限らないからだ。という二重構造にもなっているのだ。
読んでいて『運命じゃない人』という映画を思い出していた。この映画も超絶技巧でパズルのピースを嵌めるような映画だが、『鳩の撃退法』の方が難易度は上だな。誰か映画化しないかな。まあ、難しいだろうけど。
- 作者: 佐藤正午
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/11/13
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