「現御神」とはザインとしての天皇とゾルレンとしての天皇のアウフヘーベンである

実は里見『天皇とは何か』には「女性天皇」を容認する文章がある。

皇位の内容は道である。公的存在たる天皇もまた道である。このご自覚の堅持こそ歴代として皇位を承けたまう御方の天職でなければならぬ。
今日の皇室のご実情から考えると、皇位継承は将来同権とし、皇男子なく皇女子のみの場合には皇女子をもって皇緒とすべきであろう。皇女子は、もちろん皇族たる男子を配偶者とし、この配偶者は、法上、特別の地位と名称を附与してその名誉を保持せしめなければならぬ。

天皇とは何か』p226

皇位継承についての広範な検証をしたうえで、ではなく、ほんのついでという感じで書かれているから、これをもって里見の見解を限定してしまうことはできないが、はっきり「女性天皇」を認めていることは否定できない。しかも、「男女平等」原則からの女性天皇擁護者をも利す文章になってしまっている。ただし、後半の文章から推すに、やはり「女系」は認めていない。一応「女性」天皇はまだしも「女系」天皇はいかん、というのが保守主義分水嶺になるかと思う。
「女性」天皇は結局は「女系」天皇実現に道を開いてしまうから禁止すべしという中川八洋の論に説得力があると思うので、私はそれを支持する。
正直申し上げれば、里見博士にしてこれか、と思ってしまう。ただ、この文章でも読み取れるとおり、里見の天皇観に、その「道徳規範」性(その象徴としての三種の神器)を強調するところがあり、それに基づけば、血統(あるいは系統)の問題は下位におかれることになるのかも知れない。
そこで思い出すのが、国民と天皇の合意による天皇制廃止論者である社会学橋爪大三郎が『皇位継承の危機』のインタビューで述べていたことだ。橋爪は北畠親房が『神皇正統紀』で、皇位の正統性を表すのは「三種の神器」(北畠もまたこれを一種の道徳的理念と見ていた)であって、男系女系についてはとくに語っていないという。とくに語っていないからといって、北畠が「万世一系」を否定していたとは限らないと思うのだが、きちんと読んではいないのでこの点でのコメントは差し控える。
以前三島関連で少し触れたが、これらは畢竟「ザインとしての天皇」と「ゾルレンとしての天皇」の関係如何という問題に集約されていくのかも知れない。