Philip Marlowe

「なんて名前?」
「マーロウ」
「e がつくの、つかないの?」
「つくよ」
「そうなの? 悲しそうな、きれいな名前だわ」


 レイモンド・チャンドラー 『長いお別れ』 24

「……アンという名を呼ぶんでしたら、e のついたつづりのアンで呼んでください」
「字なんかどんなふうにつづったって、たいしたちがいはないじゃないの?」さびついたような微笑がふたたびマリラの顔へ出てきた。
「あら、大ちがいだわ。そのほうがずっとすてきに見えるんですもの。名前を聞くと、すぐ目の前に、まるで印刷されたみたいに、その名前がうかんでこないこと? あたしはそうだわ。だから Ann はひどく感じがわるいけれど、Anne のほうはずっと上品に見えるわ。小母さんが、おわりに e のついたアンと呼んでくださるなら、コーデリアと呼ばれなくても、がまんするわ」


 ルーシー・モード・モンゴメリ赤毛のアン』 第三章 マリラ・クスバートの驚き

 フィリップ・マーロウが、名前の終りに e がつくかどうか聞かれる場面というのがときどき出てくるのだけど、どうしてこういう会話が成り立つのかよくわからない。「さんずいのほうの河上と呼んでください」 と言っているようなものだからである。
 この件に関しては、マリラの意見が正しいと思う。


赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫)

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