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蟹亭奇譚 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-09-20

[][] フローベール 『紋切型辞典』

なにげにフローベール再読中。『三つの物語』と『紋切型辞典』 - がらくた銀河

 フランス文学なんてちっとも読んだことがないのだけど、florentine さんのおすすめ、『紋切型辞典』 を書店で見かけたので最初のページを開いてみた。

アイスクリーム [glace] 食べるときわめて危険。

 もう1行目からノックアウトだった。

 早速購入し、パラパラと捲りながら読んでいるのだが(そういう読み方のほうが楽しい本なのだ)、抜群に面白い項目、丁寧な注釈にもかかわらずさっぱりわからない項目、著者の意図とはかけ離れた21世紀的な意味での面白さをもつ項目などがある。たとえば、以下の項目はどうだろう。

タイツ [maillot] きわめて煽情的。

モザイク [mosaïque] その奥義は失われた。

 「モザイク」 という語から現代の我々*1が連想するのは、タイルを張り合わせた壁画ではなく、夜の奥義を秘すためのアレである。フローベールは未来社会の予言者だったのか!? (ひょっとして、翻訳者は狙ってるんじゃないか?)

 また、明らかな“うそ”が多くまざっていて、書かれているような 《紋切型の言い回し》 を批判する目的で書かれたと考えられるものも多い。だが、それでもフローベール先生に騙されてしまいそうな気がする。

 本書はギュスターヴ・フローベール(1821-1880)が1850年代以降に書き著わし、その膨大な遺稿からまとめられ、1910年に出版された 《辞典もの》。原著はアルファベット順だが、翻訳は五十音順に並べ替えられている。「アイスクリーム」 を最初に持ってきた翻訳は実に秀逸だと思う。


紋切型辞典 (岩波文庫)

紋切型辞典 (岩波文庫)

*1:♂。

2010-06-19

[] 潤一郎ラビリンス (15)

 長編 『肉塊』、随筆 『港の人々』 収録。

2010-06-13

[][] Philip Marlowe

「なんて名前?」

「マーロウ」

「e がつくの、つかないの?」

「つくよ」

「そうなの? 悲しそうな、きれいな名前だわ」


 レイモンド・チャンドラー 『長いお別れ』 24

「……アンという名を呼ぶんでしたら、e のついたつづりのアンで呼んでください」

「字なんかどんなふうにつづったって、たいしたちがいはないじゃないの?」さびついたような微笑がふたたびマリラの顔へ出てきた。

「あら、大ちがいだわ。そのほうがずっとすてきに見えるんですもの。名前を聞くと、すぐ目の前に、まるで印刷されたみたいに、その名前がうかんでこないこと? あたしはそうだわ。だから Ann はひどく感じがわるいけれど、Anne のほうはずっと上品に見えるわ。小母さんが、おわりに e のついたアンと呼んでくださるなら、コーデリアと呼ばれなくても、がまんするわ」


 ルーシー・モード・モンゴメリ赤毛のアン』 第三章 マリラ・クスバートの驚き

 フィリップ・マーロウが、名前の終りに e がつくかどうか聞かれる場面というのがときどき出てくるのだけど、どうしてこういう会話が成り立つのかよくわからない。「さんずいのほうの河上と呼んでください」 と言っているようなものだからである。

 この件に関しては、マリラの意見が正しいと思う。


2010-06-08

[] チャンドラー 『長いお別れ』

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

 二十何年ぶりに再読。

 レイモンド・チャンドラーフィリップ・マーロウを主人公とした長編小説は全部で7冊あって、1954年に刊行された本書は第6作にあたる。

 確か今までに4冊ほど読んだはずなんだけど、どれも主人公の印象が強すぎて、ストーリーをまったく覚えていない。4冊読んだ、といっても、どれとどれを読んだのか、読んでないのはどれなのかすらよくわからない。全部を読まなかったのは途中で飽きてしまったからだ。

 昔読んだ本は全部処分してしまったのだが、最近、古本屋で3冊ほど買ってきたので、ときどき拾い読みしたいと思っている。

2010-05-31

[][] ル=グウィン 『ゲド戦記5 ドラゴンフライ アースシーの五つの物語』

  • 原著は2001年3月に刊行された中短編集。翻訳版は以前、『ゲド戦記外伝』 という題で別巻扱いになっていたが、岩波少年文庫版では第5巻になっている。『アースシーの風』 のほうが執筆、原著刊行ともにあとなので、そちらを第6巻とするのが正解。したがって、当ブログでは 『ドラゴンフライ……』 を5と呼ぶことにする。
  • ル=グウィンがゲド戦記を書くとき、現実の世界では戦争が起る。
    • 1〜3が書かれたのはベトナム戦争中だった。(これは今読むと、ああ、そういう時代の話だよな、というのが理解できる。)
    • 4が発表された1990年、イラクによるクウェート侵攻が起った。この事件がきっかけとなって、翌年、湾岸戦争が勃発。
    • 5と6が発表されたのは2001年。特に、6が刊行されたのは9月13日である。その二日前に、911テロが起きている。
    • 偶然にしては出来過ぎている気がする。でも、これは僕のこじつけなのかもしれない。なにしろ世界のどこかで毎年戦争は起きているのだから。
  • 口絵の地図は1と同じもの。ご丁寧に作者の署名入りだが、この地図はほとんど役に立たない。
  • 5でもヤード・ポンド法が用いられている。結局、メートル法は2だけのようだ。
  • 収録作品は様々な年代を舞台としており、地理的な広がりよりも、どちらかというとアースシーの歴史に焦点が当てられている。
  • そして、今までに例を見ないのは、作者がノリノリになって書いているという事実である。