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蟹亭奇譚 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2014-09-27

[][] 『セロニアス・モンクのいた風景』(村上春樹編・訳)で紹介されているレコードについて

 「私的レコード案内」に出てくる演奏が収録されている CD をまとめました。

セロニアス・モンクのいた風景

セロニアス・モンクのいた風景

 『セロニアス・モンクのいた風景』(新潮社)は、ジャズ・ピアニスト、セロニアス・モンクについて、関係者やミュージシャン、評論家などさまざまな人たちが書いた12編の文章を村上春樹が翻訳したアンソロジーである。

 この翻訳部分については、別に書くとして、巻末近くに村上自身によるエッセイ「私的レコード案内」が付されており、これからモンクを聴いてみようという読者へのガイドになっている。もっとも、「私的レコード案内」は著者が初めて聴いた当時の LP レコードしか紹介されておらず、タイトルや収録曲の異なる CD のどれに収録されているかさっぱりわからない難点がある。*1

 そこで、本エントリでは「私的レコード案内」で紹介されている楽曲および演奏が、どの CD に収録されているかを簡単にまとめてみたい。モンクの音楽を聴き、本書の鑑賞に役立てていただければと思う。(モンクのアルバムは一部ライヴ盤を除き、すべて現在でも入手可能である。)

 なお、当ブログで書いた CD レビューについては、リンクを記しておく。

(1) 『ファイヴ・バイ・モンク・バイ・ファイヴ』

5 By Monk By 5

5 By Monk By 5

レビュー …… Thelonious Monk / 5 By Monk By 5 - 蟹亭奇譚

 「ジャッキイング」「ストレート・ノー・チェイサー」「プレイド・トゥワイス」「アイ・ミーン・ユー」「アスク・ミー・ナウ」収録。

(2) 『アンダーグラウンド』

レビュー …… Thelonious Monk / Underground - 蟹亭奇譚

 「イージー・ストリート」「イン・ウォークト・バド」ほか収録。

(3) 『We See Thelonious Monk

Monk

Monk

レビュー …… Thelonious Monk / Monk - 蟹亭奇譚

 「煙が目にしみる」「ロコモティブ」ほか収録。

Thelonious Monk Trio: Rudy Van Gelder Remasters

Thelonious Monk Trio: Rudy Van Gelder Remasters

レビュー …… Thelonious Monk Trio - 蟹亭奇譚

 「ベムシャ・スイング」ほか収録。

Thelonious Monk & Sonny Rollins: Rudy Van Gelder

Thelonious Monk & Sonny Rollins: Rudy Van Gelder

レビュー …… Thelonious Monk and Sonny Rollins - 蟹亭奇譚

 「幸福になりたい」ほか収録。

(4) 『セロニアス・モンク・ソロ』

ソロ・オン・ヴォーグ+1

ソロ・オン・ヴォーグ+1

レビュー …… Thelonious Monk / Solo On Vogue - 蟹亭奇譚

 「煙が目にしみる」(ソロ・ヴァージョン)ほか収録。

(5) 『Miles Davis All Stars vol.1』

Bag's Groove

Bag's Groove

レビュー …… Miles Davis / Bag's Groove - 蟹亭奇譚

 「バッグズ・グルーヴ』(テイク1 & 2)ほか収録。

Miles Davis & The Modern Jazz Giants

Miles Davis & The Modern Jazz Giants

レビュー …… Miles Davis And The Modern Jazz Giants - 蟹亭奇譚

 「ザ・マン・アイ・ラヴ」(テイク1 & 2)ほか収録。

*1:特にモンクは、同じ曲を何度も録音しており、どれも良いと思うのだが、非常に検索しにくい。また同じ理由により、ベスト盤の購入はおすすめしない。

2013-03-24

[] 藤谷治 『下北沢』

……「カフェ・オーディネール」を出た僕たちは何となく一番街を高校に向かって歩き、「悪童処(わるがきさろん)」の四つ角を左に折れて、滅法美味いと評判のクレープ屋さんを通りすぎ、井の頭線の踏切を渡ってコンビニの手前にある細い道に入った。井の頭線の駅と並行して延びている短い道で、階段を降りる手前に小田急線の線路を通り越す。

 このあたりの風景が桃子さんは、下北沢で一番好きだといった。

「狭くて、雑多で、でもどこか清潔で……。ここ、抜けるように空が高いでしょう。こういう街なのよ、下北沢って」


 藤谷治 『下北沢』 20

 2013年3月23日、小田急線下北沢駅が地下化された。

 工事はまだまだ続くようだが、小田急線の踏切がなくなったことで、人の流れが大きく変わっていくのだろう。しかし、見慣れた街並みが一夜にして変貌を遂げるのは不思議なものである。

 上に引用した藤谷治 『下北沢』は、この街の大工事が始まる前の時代を描いた小説だ。芸術家、詩人、作家、俳優といったちょっと風変わりな職業の人たちが登場するのだが、僕がこの街で知り合った人たちもだいたいこんな感じの人が多いのである。(グダグダな話なんだけど、ラストでちょっと泣いた。)


(P[ふ]2-1)下北沢 さまよう僕たちの街 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]2-1)下北沢 さまよう僕たちの街 (ポプラ文庫ピュアフル)

 藤谷治さんは、僕が最近顔を出している「フィクショネス句会」の主宰である。書店「フィクショネス」をかまえ句会を始めてから、もう10年経つという。彼の下北沢歴はもっと長いのだろう。街の長老か生き字引みたいな存在なのかもしれない。

小田急線下北沢駅が見納め?明日から地下化、別れを告げる人の姿も - 下北沢経済新聞

下北沢 - 蟹亭奇譚

 小田急線地下化の前日、藤谷さんは Twitter で下北沢について何度もつぶやいていた。ほぼ同じ時刻に、僕は下北沢について俳句を詠んでいた。一時の感傷ではあるが、変わりゆく街の姿を写し取っておきたいと思ったのである。

2012-11-13

[][] 「訊く」という表記について

なぜ広まった? 「『訊く』が正しい」という迷信 - アスペ日記 を読んで。

「お前はまた何故結婚なぞしたのだ?」と、スクルージは訊いた。


 ディッケンス Dickens 森田草平訳 クリスマス・カロル A CHRISTMAS CAROL(昭和4年)

 上に引用した『クリスマス・カロル』には、「訊く」、「訊いた」、「訊ねた」という言葉(表記)がたくさん用いられている。"ask" の意味で「きく」を表すときに、「訊く」を用いる典型的な例である。

 では、日本文学ではいつの時代からこの用法は広まったのだろうか。

 ちょっと興味を持ったので、青空文庫からいくつか調べてみた。

「どうしたの」と訊(き)くと、

「お留守番ですの」

「姉は何処(どこ)へ行った?」

「四谷へ買物に」


 田山花袋 蒲団(明治40年)

 僕の知る作家では、田山花袋が一番古い。(これ以前の使用例があったらご教示願いたい。)

 では、夏目漱石はどうか。

 細君は濃い恰好(かっこう)の好い眉(まゆ)を心持寄せて夫を見た。津田は取り合ずに笑っていた。すると細君が突然気がついたように訊(き)いた。

「もし手術をするとすれば、また日曜でなくっちゃいけないんでしょう」


 夏目漱石 明暗(大正5年)

 漱石の『こころ』以前の長編小説には、「訊く」が出てこない。ところが、晩年の作品、『硝子戸の中』、『道草』、『明暗』には用いられている。特に、『明暗』ではこれでもかというほど頻出している。

 さらに、島崎藤村を調べてみよう。

「父さん」

 と楼梯(はしごだん)のところで呼ぶ声がして、泉太が階下(した)から上って来た。

「繁ちゃんは?」と岸本が訊(き)いた。


 島崎藤村 新生(大正7〜8年)

 フランス遊学から帰国したばかりの藤村の作品には、「訊く」が用いられる。同時期に書かれた『ある女の生涯』にも1箇所だが用いられている。しかし、明治期の『破戒』、『家』、昭和期の『夜明け前』にはまったく出てこない。

 以下、考察。

  • "ask" の意味で「訊く」という表記が用いられるようになったのは、明治後期以降のことである。(少なくとも、「近年」ではないことはわかった。)
  • 「訊く」表記は大正期に流行した可能性が高い。一人の作家の作品であっても、上に引用したように、ある時期のみ用いられている例があるからである。
  • 日本文学、翻訳ものを問わず用いられるが、当時としては 《ちよつとハイカラな》文章表現だったのかもしれない。
  • もっとも、「訊く」をまったく用いない作家もいる。森鴎外、芥川龍之介など。

 気が向いたら、また調べます。

2012-04-13 啄木忌

[] 石川啄木 『ローマ字日記』

 石川啄木(1886〜1912)の1909年4月10日の日記より。

予の心は たまらなくイライラして どうしても眠れない。予は女のまたに手を入れて、手あらく その陰部をかきまわした。 しまいには 5本の指を入れて できるだけ強くおした。女はそれでも 目をさまさぬ: 恐らく もう陰部については なんの感覚もないくらい、男になれてしまっているのだ。なん千人の男とねた女! 予は ますます イライラしてきた。そして いっそう強く手を入れた。ついに 手は手くびまで入った。

 本邦初のフィスト・ファック文学である。


啄木・ローマ字日記 (岩波文庫 緑 54-4)

啄木・ローマ字日記 (岩波文庫 緑 54-4)

2012-04-01

[] 村上春樹 『1Q84 BOOK 1』

 天吾は両手で、空中にある架空の箱を支えるようなかっこうをした。とくに意味のない動作だったが、何かそういった架空のものが、感情を伝えるための仲立ちとして必要だった。


 村上春樹 『1Q84 BOOK 1』 第4章 (天吾) あなたがそれを望むのであれば

 『1Q84』の主人公もまた、ろくろを回していたのだった。


1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)