沼崎一郎『なぜ男は暴力を選ぶのか』かもがわブックレット
なぜ男は暴力を選ぶのか―ドメスティック・バイオレンス理解の初歩 (かもがわブックレット)
- 作者: 沼崎一郎
- 出版社/メーカー: かもがわ出版
- 発売日: 2002/11/01
- メディア: 単行本
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2003年1月19日信濃毎日新聞掲載
評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)
妻に暴力をふるう男たちがいる。日本でも数え切れないくらいたくさんいるのだが、家庭というベールの内側に包まれているので、なかなか実態がつかめない。近所の人が不審がって、警察に届けることがあっても、男は「いやー、ちょっとした夫婦喧嘩なんですよ、すみませんでした」とにこにこして答えるから、警官もそれ以上立ち入ることができない。もちろん、警官が立ち去ったあと、妻はさらに激しく殴られているのである。
本書は、妻に暴力をふるう男たち(著者は「バタラー」と呼ぶことを提案している)の心の動きを、簡潔に説明したものだ。大事なポイントがきめわて的確に説明されているので、ぜひ手にとって読んでみていただきたい。
著者の沼崎さんは、妻を殴ることそれ自体が男たちの目的なのではないと言う。男たちの真の目的は、「殴られるかもしれない」という恐怖で妻をこわがらせることによって、妻の行動を「あやつる」ことなのである。逆らったらこわいぞと相手に思わせることによって、相手を自分の思い通りにすることを、男たちは狙っているのだ。
だから、男たちは「暴力を選んでいる」と言える。彼らは「つい、かっとなって殴ってしまった」と弁解するが、これは全くの嘘である。なぜなら、妻を殴る男たちのほとんどは、職場ではきわめて外面の良い人間であり、けっしてかっとなって同僚を殴ったり、女子社員を殴ったりはしていない。彼らは、時と場所を選ぶことを知っている。つまり彼らは、自分の妻だけを選択して、殴っているのである。
また、「酒に酔って、つい殴ってしまった」というのも弁解の常套手段であると言う。理性を失うくらい酒を飲んでから妻を殴るというケースは、ほとんどない。彼らは、酒を飲んでから、それを口実にして意識的に妻を殴っているのである。
彼らはまた、弁解がとても上手だ。自分の暴力を、すべて妻のせいにする。あまりにも演技がうまいから、警官や弁護士ですらだまされてしまう。彼らを更正させる方法は見つかっていない。被害者をみんなでサポートすることしか、いまのところ対策はない。
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◆森岡正博の書評ページ(森岡執筆の書評一覧があります)
http://www.lifestudies.org/jp/shinano01.htm
◆森岡正博の生命学ホームページ
http://www.lifestudies.org/jp/