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2007-09-21

[]木村俊一『無限のスーパーレッスン』

無限のスーパーレッスン

無限のスーパーレッスン

2007年9月2日熊本日々新聞

 「無限」の不思議さには、誰しもいちどは思いをはせたことがあるのではないか。宇宙の果てにむかってどんどん進んで行くと、どうなるのだろうか。もし宇宙に果てがあったとしても、さらにその向こうはどうなっているのだろうか。いくら進んで行っても終点が来なかったら、空間が無限に広がっているということになるのか。だが、そもそも「無限に広がる」とはどういうことか。

 このことをもっとも深く考えたのは、数学者たちであった。本書は、「無限」というものを徹底的に追い詰めた数学者たちの仕事を、架空の人物による面白おかしい対話のかたちで、素人にも分かりやすく解説したものである。数学の啓蒙書はたくさん出版されているが、数学的なものの考え方にここまで肉薄しており、かつ平易な書物はめずらしいと言える。著者は広島大学で教えるプロの数学者である。

 そもそも「無限」とは、限りなくたくさんあることだ。では、ここに無限個のリンゴがあるとして、それにリンゴをさらに一個付け加えたとしたら、全部でリンゴはいくつあることになるだろうか。答えは、無限個である。すなわち、「無限」足す「1」は「無限」なのだ。一瞬、つまづきそうになるが、著者の木村さんは、ヒルベルトのホテルという例え話でこれを説明する。

 ここに部屋の数が無限にあるホテルがあるとする。ある日、そのホテルは客で満室だった。そこに、一人の旅人が来て、ぜひ泊めてほしいと言ってきた。空き室はないのだが、どうすればいいか。答えは、宿泊客全員に、ひとつ右側の部屋に移ってもらって、空いた一部屋に、後から来た旅人に泊まってもらええばよいのである。いくら満室とはいえ、部屋は無限個あるのだから、先に泊まっていた客全員が、隣の部屋に移動することができるのだ。

 では、この満室のホテルに、無限人の客がやってきて、泊めてほしいと言ったとしたら、どうすればよいのだろうか。それはさすがに無理のような気がするが、実は、泊めることは可能なのだ。まず1号室の人は2号室へ、2号室の人は4号室へというふうに、部屋番号の倍の番号へとみんなに移ってもらうと、奇数番号の部屋が無限に空き部屋になる。そこに、無限人の客に入ってもらえばよいのである。つまり、「無限」掛ける「2」は「無限」ということなのだ。

 同じような思考実験をしていくと、「無限」掛ける「無限」もまた「無限」であるということが証明できる。このように、1、2、3、といった自然数が集まってできた「無限」というものは、足し算をしても、掛け算をしても、ずっと「無限」のままということが分かるのである。足し算しても、掛け算しても、数が増えないというのは、いったいどうしたことであろうか。

 では、「無限」より大きなものはないのかと言えば、そういうわけでもない。1、2、3、という自然数が限りなく集まってできた「無限」よりも、小さな小さな無限の点がぎっしりと集まってできた線分の「無限」のほうが、より大きいということが、数学的に証明できるのである。つまり、「無限」にも、大小の種類があるというわけなのだ。

 木村さんは、このような「無限」の不思議な性質を解説しながら、数学者ヒルベルトの壮大な試みと、その目論見を根底から覆してしまったゲーデルの偉業を、できるだけ分かりやすく説明しようとする。その先で現われてくるタルスキのパラドックスも、非常に魅力的だ。

 タルスキは言う。もしこのような「無限」の考え方が正しいとしたならば、ある球体をうまく分割して、そのピースを並べ替えて、もとと同一の球体を、二個作れるということを、数学的に証明できる。われわれの直観には反しているが、これが「無限」の数学から導かれる結論なのだ、と。

 数学の好きな高校生や、理系学部に入学した大学生なら、あちこちで考え込みながらも、面白く読み進めることができるだろう。哲学が好きな者にとっては、また別の意味で、とても刺激的な本である。対話形式も見事に成功しており、素敵な入門書となっている。

評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)



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