感じない男ブログ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-08-30

[]マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」

2010年6月27日日経新聞掲載

 米国の政治哲学者マイケル・サンデルの新著である。戦争や生命倫理などの具体的な話題から説き起こすその語り口は非常に明快で、現代倫理学へのすばらしい入門書になっている。サンデルの授業は、NHKで「ハーバード白熱教室」として放映されたから、ご覧になった方も多いだろう。その劇場型の講義も興味深いが、サンデル自身の思索については、本書を読んだほうが分かりやすい。

 サンデルは、たとえば米国の徴兵制について、次のように語りはじめる。現代の米国人の多くは、国民を強制的に兵士に徴用する徴兵制よりも、兵役に志願する者のみを雇い入れる志願兵制のほうが望ましいと考えている。実際にイラク戦争は志願兵によって戦われた。

 しかしこれには強力な反対論がある。ひとつは、志願兵制では富裕層の子息は兵役に就かず、貧しい人々のみが兵士になるという現実があるのだ。これは不公平だとして、徴兵制の復活を求める声がある。もうひとつは、兵役は米国市民としての義務であるから、徴兵制にすべきだという意見である。ちょうど陪審員が市民の義務であり、全員が平等に負担すべきであるのと同じように、兵役も全員による平等負担が原則だというのである。

 さて、どうするべきかとサンデルは問いを投げかける。そもそも市民の義務とは何かを考えないとこの問いは解けない。

 同性婚についても、マサチューセッツ州最高裁判所はそれを認めたが、それはけっして婚姻の多様性を認めたからではないと指摘する。なぜなら、裁判所は同性婚は認めたが、一夫多妻制や一妻多夫制は認めなかったからである。価値の多元性を支持するかのようなリベラルな判決の背後にも、ある特定の「共通善」の前提が潜んでいる。それは、二人のあいだの独占的愛情関係のみが保護されるべき共通善であるというものだ。

 このような議論をとおして、サンデルは、価値の多様化する現代においてこそ、義務と共通善についての公共的な論争と学び合いがどうしても必要なのだと結論する。刺激の大きい書物である。


評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)


-------------------------------------------------------

◆森岡正博の書評ページ(森岡執筆の書評一覧があります)

http://www.lifestudies.org/jp/shinano01.htm

◆LIFESTUDIES.ORG/JP

http://www.lifestudies.org/jp/

2010-08-27

[]「バブル女は「死ねばいい」」

バブル女は「死ねばいい」 婚活、アラフォー(笑) (光文社新書)

バブル女は「死ねばいい」 婚活、アラフォー(笑) (光文社新書)

扇情的なタイトルに惹かれて読んだ。アラフォー世代女性と、団塊ジュニア世代の女性のあいだに、かなりの断絶と確執があるという指摘は面白かった。しかし、全体として、個人的な恨み?と世代論をごっちゃにしている感がある。また、ナイーブな本質主義があちこちにあり、ちょっとねという気になる。男性観も貧弱で、「草食系男子」とか言うけど若い男性たちのの性欲は減少しておらず、「男はおっぱいには逆らえない。おっぱいのために働くのだ」(170頁)と。(おっぱいとはエロのこと)。もちろんデータはまったく示されていない。

そして団塊ジュニアを代弁する著者の結論は、

子どもを産むこと、そして、子どもを育てること。これ以上に価値がある「生きる理由」が他にあるのなら教えて欲しい。あんなに豊潤で愛おしい存在が他にあるだろうか。(200頁)

である。かつて元気のあったころのフェミニストは、こういう論が現われたときに、「また男が仕掛けた女による女叩きがはじまった!」と反応した。いまのフェミニストは、こういう本を見たときにどう反応するんでしょう。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

2010-08-26

[]雑誌「サピオ」に紹介記事

いま発売中の雑誌「サピオ」に、私の大阪府立大学での授業「人間学」についての密着レポートが見開き2頁で掲載されています。ご関心のある方はご覧になってみてください。

http://www.zassi.net/mag_index.php?id=55

9月8日号

2010-08-16

[]「草食系男子の恋愛学」文庫版・書店状況

「草食系男子の恋愛学」文庫版が発売されましたが、その書店配備状況の写真をりんごさん経由で入手できました。今回の文庫はメディアファクトリーのMF文庫という若干特殊なシリーズの文庫なので、どこに並んでいるのか分からなかったのですが、大書店にはちゃんと平積みしてくれてたんですね。

f:id:kanjinai:20100816232410j:image

銀座ブックファースト7月1日


f:id:kanjinai:20100816232409j:image

秋葉原有隣堂7月1日


f:id:kanjinai:20100816232408j:image

神保町三省堂7月24日


すばらしいです。

草食系男子の恋愛学 (MF文庫 ダ・ヴィンチ も 2-1)

草食系男子の恋愛学 (MF文庫 ダ・ヴィンチ も 2-1)

2010-08-04

[]終末期医療と人の死を考える

こういうのがあることを告知するのを忘れていました。

大阪大学医療人文学研究会

第13回研究会

公開シンポジウム 「終末期医療と人の死を考える」

(「生き方死に方を考える社会フォーラム」主催・医療人文学研究会共催)

◆ゲスト:

恒藤 暁 (大阪大学大学院医学系研究科・緩和医療学)

「緩和ケアからみる現代医療の光と影」

森岡正博 (大阪府立大学人間社会学部人間科学科)

「日本人の死生観と現代に求められる死の哲学」

◆ホスト:

大村英昭 (関西学院大学社会学部社会学科)

石蔵文信 (大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻)

日時: 2010年8月7日(土)14:00〜17:00

場所: 豊中市 千里公民館 3F 第一講座室

千里中央駅【モノレール改札】から徒歩約8分【地下鉄北改札】 から徒歩約3分

http://bunka.hus.osaka-u.ac.jp/medical_humanities/meeting.html

2010-08-02

[]「純粋理性批判」を噛み砕く

『純粋理性批判』を噛み砕く

『純粋理性批判』を噛み砕く

中島さんには、こういう本を着実に書いて出版してほしいなあ(と偉そうに書きますが)。「純粋理性批判」のアンチノミーの箇所を、ねっとりと読み解いていくというオタク的な本だが、そういう速度で解明することではじめてカントの真に言いたかったことが見えてくる、ということだろう。冒頭の箇所をいま読んだが、たいへん興味深かった。1からゼロへの変化を認めるかどうかというあたりの論点は、現在でも哲学的に解けてない問題ではなかろうか。中島さんはカント枠内にとどまるだけでなく、カントの展開という仕事も、時間論、自我論でやってきているから、そのあたりの展開も注目している。

[]「自由への問い8・生」

生――生存・生き方・生命 (自由への問い 第8巻)

生――生存・生き方・生命 (自由への問い 第8巻)

加藤秀一さんが編集した本。副題は「生存・生き方・生命」。加藤さんのパート「<生む自由/生まれる自由>のためのノート」と、加藤・岡野対談は、私の最近の問題意識とそのままかぶっている。誕生ということが今後とうぶんの哲学的焦点となる論点であることはまちがいない。たしかにアーレントはそれに早くから着目していたが、現代ではもっと大きな展開が必要だろう。私もあと数年の内に、これを中心課題のひとつとした本を書きます。加藤さんの議論はたくさん参照させてもらう予定。でも、答えの方向は加藤さんと私ではまったく違うように思える。それは加藤さんが議論を大きくまとめるまで待たないと分からない。この本には杉田俊介さんの「小さな社会圏についてのノート」も収められており、加藤さんと隣接する問題意識の展開が見られる。