感じない男ブログ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-10-28

[]マイケル・サンデル「完全な人間を目指さなくてもよい理由」

2010年10月24日京都新聞掲載

 生命倫理というと、日本では脳死臓器移植や安楽死・尊厳死の問題がさかんに論じられてきた。それらは簡単には解決できない大問題であるが、それに匹敵するほどの難問がいま立ち上がってきている。

 それは、最先端医療技術をもちいて、人間の身体的・精神的能力を増大させたり、あるいはこれから生まれてくる子どもに遺伝子操作をしてより優れた子どもを作り出したりしてもよいのか、という問題である。英語では「エンハンスメント」すなわち人工的になされる能力増強・能力拡大の倫理的問題と言われている。

 個人の自由選択を最大限にみとめようとする自由主義思想によれば、エンハンスメントは、それが人権を侵害したり、公平性に反したりすることがないかぎり、個々人の自由にゆだねてよいことになる。このような分かりやすい議論に真っ向から反論するのが、サンデルの本書である。

 エンハンスメントの問題の本質は、「人間のいのちは与えられたものである」という事実に対する謙虚さがむしばまれていき、不運な境遇におちいった人に対する共感能力が社会から失われていくところにあるとサンデルは言う。

 遺伝子操作や薬物投与によって子どもの能力を幅広く増強させることができるようになった社会では、親には子どものために適切な能力を付与する責任が生じ、その責任範囲は親がもう背負えないところにまで拡大しかねない。

 また能力増強された人たちは、弱者たちと一緒の健康保険からは脱退するようになり、かくして、自分よりも不幸な人々との連帯の感覚がどんどん薄れていく。エンハンスメントの具体的な問題点を、社会における「連帯」の消失に見るサンデルの考え方は、非常に示唆に富むものである。

 幹細胞研究に関しては、適切な規制を行なった上で推進すべきとする。この点で、宗教的な保守派とは一線を画している。コンパクトにまとまった、非常にバランスの取れた生命倫理の好著であると言えよう。


評者:森岡正博 (http://www.lifestudies.org/jp/)


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◆森岡正博の書評ページ(森岡執筆の書評一覧があります)

http://www.lifestudies.org/jp/shinano01.htm

◆LIFESTUDIES.ORG/JP

http://www.lifestudies.org/jp/

2010-10-21

[]また会える「さようなら」

また会える「さようなら」―末期がん患者に仏教は何ができるのか

また会える「さようなら」―末期がん患者に仏教は何ができるのか

旧友の佐藤雅彦僧侶の本。こころのケア・ボランティア、いのちの授業で出会ったことなどをもとにして、佐藤さんの考える仏教(浄土宗)の教えを、分かりやすい言葉で述べている。死の向こう側に世界があるというのは、そう「願って生きる」という智慧の次元であるという。この言い方が、一般の人々にはすとんと落ちるようだ。

宗教と哲学は重なり合いながらも、別のことをしているのだろうということがよく分かって有益だった。良い本です。

[]べてるの家の恋愛大研究

べてるの家の恋愛大研究

べてるの家の恋愛大研究

べてるの家の人々の自分たちの恋愛を手がかりとした当事者研究の報告書。当然のことだが、彼らのあいだには恋愛がある。妄想、幻聴、自傷、などとともに繰り広げられるべてるの家の恋愛を研究した空前絶後の本なのかもしれない。

[]ブックガイドシリーズ基本の30冊・倫理学

倫理学 (ブックガイドシリーズ基本の30冊)

倫理学 (ブックガイドシリーズ基本の30冊)

小泉義之さんによる、倫理学を学ぶ人のための基本30冊の解説。欧米の古典がほとんどだが、これをきっかけにして、原著に進んでいくというのはかなり有益だろう。しかし最近の学生さんはこういう本を買ってくれるのかな。ちょっと心配でもある。

2010-10-19

[]ダメな新聞記事の実例(科学記事)

本日配信された記事。上2つがダメ。下2つはOK。

クローン胚は、核を排除した卵子からしか産生できません。「核排除マウス卵子からのクローン」は1997年に成功。いまでは大学生でも作成している。

今回の記事のポイントは、核除去後「凍結」した卵子から、クローン胚を産生したこと。これは世界初なのでしょう。

新聞記者さんに専門性が希薄な日本の新聞では無理なのか。しかしこの記事、科学部デスクが目を通してチェックしているのですよね? あり得んなあ。

<註>毎日新聞はその後、リード文を書き換えた

「クローン:除核凍結卵子から作成成功−−山梨大」

http://mainichi.jp/select/science/news/20101019ddm012040162000c.html

2010-10-14

[]〈私〉の哲学を哲学する

〈私〉の哲学を哲学する

〈私〉の哲学を哲学する

永井均さんたちが阪大でこのテーマでシンポジウムをやったときの記録に加筆して本にしたもの。この問題に興味ある人は、その議論の現在形としてフォローしておいてよいのでは。私もずいぶん以前に<私>論については正面から議論して、ウェブページにも全文上げてある(「この宇宙の中にひとりだけ特殊な形で存在することの意味」←もう15年以上も前なのだな・・・)。そこから先の展開をまだやっていないので、そろそろ書かないといけないな。たぶん<私>論には、言語論的問題の次元と、それには関わらない次元の二種類がある、というのが私の直観である。また論文に書きます。(そういえば永井さんにはずいぶんお会いしていません・・)

2010-10-12

[]草食男的純愛手記

f:id:kanjinai:20101012134807j:image

http://www.books.com.tw/exep/prod/booksfile.php?item=0010467723

「草食系男子の恋愛学」の繁体字版翻訳が、台湾の商周出版から刊行されました。実は今年の5月に刊行されていたようなのですが、書籍が私のところに届くのに時間がかかり、ようやく現物を手にしました。とてもきれいな本で、全訳されているようです。文庫版に準拠しているので、「文庫版へのあとがき」が冒頭に収められていて、日本の草食系男子の流行状況が分かるようになっています。

台湾での評判はどうなんでしょうね。どなたかご存じありませんか?

実は今、簡体字版翻訳も進んでいて、そのうちに中国大陸でも刊行される予定です。

というわけで、中国語圏では、この本はどう読まれるのだろうか? 日本固有の現象として消費されるか、あるいは自国にも関係あることとして読まれるか。