オペレーションコドモタチ 山本 太郎 メッセージ

いろんな意味で必見。

子どもの発がんリスクについては、毎日新聞の記事がよくまとまっている。

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110516dde012040013000c.html

「子供を守ってほしい。基準値は年間20ミリシーベルトから事故前の1ミリシーベルトに戻して」。2日、東京・永田町の参院議員会館講堂であった集会。福島市から駆け付けた住民代表、中手聖一さん(50)は文部科学省幹部に訴えた。幹部らが並ぶ長机の前には、福島市の小学校から持ち込まれた小さな土袋が一つ。そばに置かれた線量計は、その放射線量に反応して「ザー」という警告音を鳴らし続けていた−−。

 支援者の一人、福島瑞穂社民党党首は「20ミリシーベルトは安全ではない。どうして子供たちを遊ばせるのか」と質問。文科省渡辺格・科学技術・学術政策局次長は「学校は勉学をするのも重要であり、それとの兼ね合い」と答えた。国は学校の放射線量を監視し、毎時3・8マイクロシーベルトを超えた場合は屋外活動を1時間に制限している。だが、住民側は「汚染された校庭の土を一日も早く撤去して」と求め、議論は終始かみ合わなかった。

 福島の子供たちに適用された「20」と、事故前の基準の「1」。全く異なる二つの数値の根拠は、実はいずれも、世界の放射線専門家でつくる国際放射線防護委員会(ICRP)の見解にある。

 まず「年間1ミリシーベルト」は、職業人ではない一般人の被ばく線量としてICRPの1990年勧告などに基づいている。一方、「20ミリシーベルト」の方は、ICRPが3月21日に出した「声明」を参考にしている。その声明とは、福島第1原発事故を受けて「今回のような非常事態が収束した後の参考レベルとして、1〜20ミリシーベルト/年の範囲で考えることも可能」というものだ。

 ちなみに自然に被ばくする量は、世界平均で年2・4ミリシーベルト、日本は1・5ミリシーベルト。この「20ミリシーベルト」という数値をどう解釈すればいいのか。

 放射線から身を守る放射線防護学の歴史は、第二次世界大戦中、米国が原子爆弾を開発した「マンハッタン計画」にさかのぼる。

 関係者によると、最大の集団調査は悲しいことに広島、長崎の原爆被爆者を対象にしたもの。それに続くのが86年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故で、当時の子供たちに甲状腺がんが増えたことが分かっている。他には原発労働者の突発事故、動物実験のデータなどがある程度という。

 この結果、ほとんどの専門家は広島、長崎の調査データをもとに「放射線被ばく量が年100ミリシーベルト以上だと、発がんのリスクが高まる」という点では合意している。

 ならば、年100ミリシーベルト以下ではどうなのか。ここで専門家の意見は分かれるのだ。

 「問題はない」と主張するのは、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーを務める山下俊一・長崎大教授(被ばく医療)だ。「100ミリシーベルト以下は白黒がはっきりしないグレーゾーンで、この緊急事態に議論しても仕方がない。放射性物質に汚染された環境の中でどう生きていくかを優先的に考えれば、『20』は許容範囲。仮に、慢性的に年100ミリシーベルト以下の被ばくが続いたとしても、他にもがんの誘発因子はあり、この数値を超えたら危ないとは言えない。我々の体はそんなに柔ではない。しかし個々が判断して嫌ならば、遠くに避難するしかない」と話す。

 一方、安斎育郎・立命館大名誉教授(放射線防護学)は「できるだけ基準値は低く設定すべきだ」と述べたうえで、こう説明する。

 「100ミリシーベルトという境界線については、それ以下でもがんが増えたという明確な証拠はないため、考え方は二つに分かれる。一つは、被ばく量には『しきい値(安全値)』があって、それ以下なら影響はないというもの。もう一つは、しきい値など存在せず、少ない被ばく量でも、それに応じてDNAが傷つき、発がんに影響するとの考え方で、総じて後者で合意されているのです」(イメージ図参照)

 野口邦和・日大講師(放射線防護学)は「100、20、1、いずれもICRPから根拠を得ているが、さらにそのもとは何かと言われれば、本当に妥当なラインはよく分からない。ここから先は科学の話ではなく、研究者の哲学、人生観、立ち位置が反映されると思う」と指摘する。

 1985年にノーベル平和賞を受賞した核戦争防止国際医師会議」の米国内組織「社会的責任を果たす医師の会」は4月29日、次のような声明を出した。<自然放射線を含めた被ばくはいかなる量でも発がんリスクを高める。子供は大人よりも放射線の影響をとても受けやすく、胎児はさらに弱い。子供の放射線許容量を20ミリシーベルトに引き上げたことは不合理だ。発がんリスクを大人で500人に1人、子供で200人に1人増加させるからだ。このレベルでの被ばくが2年間続けば、子供のリスクは100人に1人になる。子供にとって安全だとは全く言えない>

 諸説入り乱れる中、子を持つ親がどの立場から被ばく量を考えるか。想像がつく。

 「厚生労働省は18歳未満の人を放射線管理区域で働かせることを禁止していますが」。再び2日の参院議員会館。住民側は厚労省職員に確認を迫った。原発など放射線管理が必要な区域では、被ばく許容量は毎時0・6マイクロシーベルトと定められている。この基準に照らせば、福島県内の学校校庭の被ばく測定値は全校の75%以上で上回っているという。厚労省保育課の担当者は「詳細は分からない」と答えに窮するしかなかった。

 ここにきて文科省は、汚染された校庭の表土と下層土を入れ替える方法を福島県教委に提示する一方、毎時3・8マイクロシーベルトの上限値を児童生徒の「実生活に即して」積算すると、年間では「9・99ミリシーベルト」になると発表したが、実測値がどうなるかは不透明だ。

 <人類が築き上げてきた文明の度合いとその豊かさの程度は、最も弱い立場にある人たちをどのように遇してきたかによって判断される(略)放射線をあびせられたヒバクシャの被害や、将来の時代を担う赤ん坊や子供たちへの放射線の影響をどのように考えてきたかで測られる……>

 放射線被ばくの危険を被害者の視点から訴え続けた故・中川保雄・神戸大教授(科学技術史)が、91年の死去直前に病床でまとめた「放射線被曝(ひばく)の歴史」の一節だ。

 福島の住民の願いは通じるだろうか。

また、政府が依拠しているICRP勧告には、次のように明記されていることを知るべき。

ICRP Publication 111
原子力事故または放射線緊急事態後における長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用(2009年)


現存被曝状況において

汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは、この被曝状況区分に対処するためにPublication 103 (ICRP, 2007)で勧告された1〜20msvの範囲の下方部分から選定すべきである


ベラルーシでは

チェルノブイリ原子力発電所で発生した災害によって影響を受けた市民の社会的保護」に関する法律は、2001年に修正の上、明確化された。このとき、生活および仕事の条件に何の制限も課せられないような地域においては、当該集団の(外部および内部)平均総被曝(バックグラウンドを除く)が1msv/年を超えてはならないと定められた。
*バックグラウンド=自然放射線(ふだん誰でも自然環境から浴びているもの)
http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,15092,c,html/15092/20110420-192047.pdf

政府の言うように、福島原発がすでに「安定化」しているのだとしたら、福島市郡山市あたりは現存被曝状況であり、そこでは「1〜20msvの範囲の下方部分から選定すべきである」というのがICRP勧告の中身である。「20msvなら安全で問題ない」とはどこにも書いていない

もし政府の判断が、まだ緊急被曝状況だということなら、その認識を国民に明確に伝えるべきである。